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たぬきの嫁入り4  作者: 藍色 紺
第15章 ようこそたぬきの里へ
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156話 ぽこの実家②

「俺は皆にドン・ドラドって呼ばれている。ここにいるもんはみぃんな家族だ」


 まるで言い聞かせるようなゆっくりとした口調に、左右のやつらが全員一礼した。


「パパ、長い間留守にしてごめんなさい。それで、あの……」


 ぽこの言葉をドン・ドラドが鋭い一瞥で止めた。


「オズワルドさん。うちには末の娘がいたんだがね」


「はい」


 遠まわしな言い方をしているが、ぽこのことだ。


「わしら家族だけでなく、里の皆に可愛がってもらっていたのだが、ある日突然いなくなってしまってね。そりゃあ、里を上げて大捜索もしたし、皆、心配してくれてね」


 直接叱られるのなら反発心も生まれるだろうが、客観的に指摘され、おまけにまわりのたぬきが頷いて同調するもんだから、ぽこは言い返せない。


「やっと見つけたら、今度は見知らぬ男と結婚すると聞かされてねぇ。親としては、相手がどんなやつなのか、時間をかけて知り合いたいというかね。でもまぁ、そこは自分も通った道だし、我慢したわけだね」


 口調は柔らかいが、膝の上の握りこぶしは硬く、目に険がある。


「祝いの品に返事も寄越さぬ娘に育てたつもりはないのだがね」


 沈黙が流れた。

 私人のドン・ドラドとしては、ぽこがいなくなったことを嘆き、怒り、胸の焼ける思いをしただろうが、ドン・ドラドはどこまでも公人だ。

 私情を打ち明けつつも、押し殺すしかない。


 ぽこは返事をしなかった。俺には意見を言えるぽこだが、実家では言い分を聞いてもらったことはないと言っていた。父親に黙って従うことに慣れてしまっているのだ。


「連絡もせず、ご心配をおかけしました。これは俺からの献上品です」


 王都からの土産であるヘレス酒の箱をドン・ドラドと俺の間に置くと、ぽこも自分からの土産を出した。

使用人らしき男が箱の中を確かめて、ドン・ドラドに見せた。


「これは珍しい酒だ。ありがたく頂こう」


 ドン・ドラドの顔が幾分か和らいだ。


「お許し頂ければ、レナさんの結婚式まで滞在させて頂きたい。その間、俺をとくとご覧ください」


 ドン・ドラドがぎょろ目を細めた。


「滞在中、ぽこを自由にしてやってくれませんか」


「まるでわしらが、ぽこを閉じ込めるように言うね」


「何をおっしゃる、大事な娘さんをそんな目にあわすはずがない。ぽこは自らの脚で迷惑をかけた皆さんにご挨拶して回りたいと言っていました」


 ドン・ドラドが左目だけを大きく開けた。


「ほぉ。そうかい。てめぇでケツ持つつもりかい。えぇ?」


 ここで初めて、ドン・ドラドがぽこをじっくり見た。

 ぽこが、身体をますます縮こまらせる。


「はい」


「では、レナの客人として扱うことにしよう」


 ドン・ドラドの言葉に、レナが現れて、ぽこの隣に来た。

 左右の群れのどちらかにいたのだろう。


「ぽこ、行こう」


「旦那様」


 ぽこが俺を不安そうに見上げる。


「ドン・ドラドが仰ったでしょう。あたしの客なんだから、大丈夫よ」


 俺が頷くと、ぽこはゆっくり立ち上がった。

 レナに腕を取られて、左右の群れから注目を浴びながら出て行く。

 赤壁山の絵が描かれた横開きの扉が閉まり、ドン・ドラドの方へ向き直した。


「遠いとこから戻ったところだってんだ。くつろいでくんな」


 その言葉を皮切りに、白い紙を貼った横開きの扉が開いた。

 廊下から、一人分の小さな机のような台の上に料理を乗せたものが一人ずつ配られ始める。


 ジョアンくらいの若い男が細い酒瓶を持って来た。握りつぶしそうな小さな杯を俺に握れと言う。


「ぽこの兄のホセと言います」


 周りに酒が注がれるのを待つ間に、喋りかけて来た。


「オズワルドです」


 急いで記憶を手繰る。ぽこの誕生日会のときに聞いた名前だった。


「お酒を管理していらっしゃる?」


「ぽこは、あなたに家族の話をしているのですね。そうです。三男です」


 ホセは人懐っこく笑いかけてきた。ぽこの面影を感じ取って、やはり兄弟なのだと理解する。


「よぉし、酒は行き渡ったな。では、オズワルドさんとの出会いを祝して乾杯」


 ドン・ドラドの音頭で盃が掲げられた。



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