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たぬきの嫁入り4  作者: 藍色 紺
第16章 腹に一物、背に荷物
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178話 ぽこたちときつねの化け合戦⑤

「俺は人間姿のままだ。この術、決して解けまいよ」


「オズワルド選手、豪胆な発言です!」


 二尾のきつねは過剰に反応し、巨大狼は毛を逆立てた。


「なめたこと言ってくれるじゃねぁか」


「なめてなどいない。俺のできることはこの程度――」


「オズワルドさんは白銀の王と渡り合ったぞ!」


 「この程度のことしかできないんでね」と続けた言葉が、たぬきたちの応援の激でかき消された。


「この程度だと? 俺相手なら手を抜いても勝てるってわけか⁉」


 巨大狼が誤解し、西のきつねたちもざわめき立つ。


「白銀の王と渡り合う?」


「俺たちの(かしら)でさえ騙される、あの白銀の王?」


「数匹がかりでも倒せない、白銀の王?」


「白銀の王は、オズワルドさんと戦って尻尾を巻いて逃げたぞ!」


 たぬきの誰かが言った言葉に、そうだそうだと相槌の追撃が入った。白銀の王に襲われたときに、中座敷で一部始終を見ていたたぬきは多い。

 そして、たぬきには話しを盛る癖がある。


 巨大狼が唸り声を挙げて俺を威嚇する。

 殺気を伴った飛び掛からんばかりの姿勢に、手癖で腰元を探ってしまう。帯剣はしておらず、小さく舌打ちし、ポーチに手を入れる。

 これだ!

 直感で出したのは、王都の滞在先にいたケリー用の干し肉だった。


 巨大狼が条件反射で伏せをして口を開ける。

 むわっと臭い息が俺にかかった。でかい口に干し肉を放り込む。


 巨大狼が、目を細めて欲し肉をしゃぶり始めた。


「野生を取り戻せー!」


 きつね側から悲鳴があがったが、巨大狼は干し肉に夢中になっていて聞こえないようだ。


「よしよしよし! いい毛並みだ!」


 顔は満面の笑みで、脱力して低い姿勢で近づく。手に凶器など持っていないのを見せながら、大きな耳までたどり着いた。巨大狼は、俺に気づいたが、仕方ないなという顔で見逃した。

 耳の裏を、優しく掻いてやる。


「よーしゃよしゃよしゃ、ここか? ここが痒いかい?」


 巨大狼の後ろ脚が、頭を掻く動作をする。ピンポイントで痒いところに手が届いたようだ。日頃、ぽこを愛でている成果が発揮された。


 ピピー!


 甲高い音の笛が吹かれて、巨大狼が俺から突然離れた。両者の間に二尾のきつねが入る。


「警告! 餌付けは違反です!」


 巨大狼が残念そうに俺を見た。二尾のきつねが厳しい顔で俺へ対峙する。


「ポーチは外してください!」


 言われるままに外すと、二尾のきつねがポーチを選手席へと投げた。ぽこが拾ってくれる。顔が真っ青だ。巨大狼の化け術が怖いのだろう。

 よく見たら、観客席のたぬきの数も随分減っている。

 反応の大きさが勝敗を分けるのだから、今のままでは分が悪い。


 さて、どうすべきか。


「ポーチを奪うなんて卑怯だぞ! 化け術に使う葉っぱはどうする⁉」


たぬき席から抗議が入る。

 俺に味方してくれるのは嬉しいが、俺のポーチには葉っぱは入っていない。


「仕方ない。ポーチの中身を確認させてもらおう」


 レナが俺のポーチを二尾のきつねに手渡すと、中身を全て出された。


 傷を拭う清潔な布、治癒薬に治癒玉、薬草と干した柑橘類、イエティ幼獣からもらった灰色の筒、それに葉っぱの束だ。

 大したものは入っていない。

 葉っぱの束?

 ぽこの葉っぱコレクションに似ているが。


 干し肉が入っていないと確認できたポーチが返された。


「試合再開です!」


 巨大狼が宙を飛んだ。俺を飛び越してたぬきの観客席ぎりぎりに降り立つ。歯を剥いて唸る。噛みつくふりをすれば、残っていたたぬきの大部分が化け術を解いて観客席から逃げ出した。

 きつねたちはたぬきの無様な様子を見て大笑いしている。


 俺の腰につけたポーチから小爆発が起きた。途端に重くなる。


「ぽこか?」


「うぅ~ん。狭いです!」


 どうやらポーチの中でたぬきの姿に戻ったらしい。

 入れた覚えのない葉っぱの束は、やはりぽこだったらしい。

 小声でこそこそやり取りをする間に、巨大狼が逃げ損ねたたぬきをいじめている。


「何だってそこに?」


「ぽこが旦那様に化け術をかけます! いたた、何か脚にぶつかった!」


 ぽこがポーチの中で暴れる。


 俺の足元から閃光が走った。

 光は俺を中心に二重の円を地面に描き、次に古い文字や線が加わる。


「おっと! オズワルド選手の化け術です!」


 戸惑って訂正する余裕もない。地面の光る円から煙が天に向かって勢いよく噴出した。


 ぽこがポーチから飛び出して、俺の胸にしがみつく。強く抱きしめたまま、目を開けるのがやっとだ。


 煙が前触れなく止み、今度は地面から七色の光が真っ直ぐに出た。


 でーれ、でーれ、でれでれれれれっ ぽーん!


 どんどん加速する奇妙な音楽の最後に、何かが放出された。

現れたのは白いふわふわの毛に覆われた生き物だった。

 ふわふわと浮上しては、やや落ちてくる。


「イエティの幼獣!」


「トモダチ、呼んだか?」


「呼んだだって?」


 イエティ幼獣に言われたことも、いつの間に友達になったのかもわからない。

俺の胸に抱かれたぽこが、灰色の筒を俺に見せた。


「この魔術道具を蹴っちゃったんです! そしたら」


「オデのお呼び出しボタン」


 ふわんふわんと上昇し、また落ちて来た。そして、匂いを嗅いで膨らむ。

 化け合戦の会場は、たぬきときつねが用意したうまい食べ物がぐっすらある。


「腹減っタ」


 息を吐き出すと途端に元の大きさにしぼんだ。何とも情けなそうな声だ。


 ドン・ドラドが恭しく頭を下げながら、弁当を頭上に掲げて差し出した。

 イエティ幼獣が、大喜びで平らげるのを見て、逃げていた他のたぬきも売り子が売っていた飴や焼き芋、甘酒を差し出す。たぬきだけでなく、きつねたちも同じようにありったけの食べ物を持って来た。


 皆一体どうしたというのだろう。化け合戦の勝負の行方は?


 たらふく食べたイエティ幼獣は、またふわんふわんと上昇し、今度は上昇した分と同じだけ落ちてくる。腹が重いらしい。しまいに、俺の肩に止まった。


「オデここの食べ物気に入っタ」


「ありがたき幸せ!」


 ドン・ドラドと、きつねの頭が恐悦至極と頭を下げる。


「またタダ飯だぞ」


 俺の言葉に、イエティ幼獣が憤慨し、白い毛の一部分が赤く染まる。


「代わりにここにいてやル」


「何言って――」


 言い終わらない内に、地面から何か液体が噴出した。

 みるみる内に辺りが水浸しになっていく。


「お湯だ!」


「温泉だ!」


「赤壁山に主が戻ったぞ!」


 たぬきもきつねも関係なく、大声を上げて喜び、里から献上品が運ばれ始めた。

 イエティ幼獣は、俺の肩から離れて、上機嫌でそれらをたいらげ始める。


 あっけに取られた俺は、いつの間にか輪の外に出ていた。

 胸に抱いたぽこが、笑う。


「前の主がお隠れになって、温泉が枯れてしまいました。主不在は赤壁山共通の課題だったんです。見てください! たぬきもきつねも旦那様のおかげで皆笑顔ですよ!」


 ぽこが背伸びして、俺の鼻をぺろっと舐めた。


「よせやい」


 誰もかれもが笑っている騒ぎ向こうで、背の高い男が、俺を睨んでいる。

 ジョアンだ。


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