176話 ぽこたちときつねの化け合戦③
「後がなくなったぞ!」
「レナにプレッシャーをかけないで!」
ジョアンが叫び、ぽこが諫める。
歩き姿だけでも艶やかで品のあるレナが登場すれば、敵味方関係なく応援の声が飛び交う。
レナは返事一つせずに、対戦相手のきつねと向き合った。
「暁の異名を持つこの美しさ! 我々きつねからも大変な支持を得ています! たぬきにしておくには惜しい!」
レーナー‼
野太い大合唱がきつね側から起こった。
レナが華麗な動作で右腕を上げた。手から銀杏の葉が無数に零れ落ちるのを、左手の扇で仰ぐ。
銀杏の葉が舞い上がり、レナの身体が覆われて見えなくなった。
息を飲んで見守る観客。
爆風が上がって、銀杏が吹き飛んだ。
レナのいたところには、女神像があった。
「あぁ……なんて美しさだ」
司会の二尾のきつねが言葉を失った。観客から吐息が漏れる。
身体のバランスがこれ以上なく完璧だ。出るところは出て、出すぎない。引っ込むところはひっこみ、引っ込みすぎない。肩にかかる髪の一筋でさえ、うっとりするほど美しい。
「ならば! 像対決だ!」
相手のきつねが爆風を上げた。
レナの女神像の前に、巨大な男神像が立ちふさがった。
おぉーぅ……。
たぬき側だけでなく、きつね側からも残念なため息が零れた。
でかすぎる。
アルベルトが最初に化けたドラゴンほども大きく、男神像の全容は見難い。
下から見上げてよく見えるのは男性のシンボルで、それで観客からひんしゅくを買っている。
カンカンカンカーン!
怒り気味に鐘が鳴らされた。
「レナ様の勝ちぃ‼」
「早よどけー! レナ様が見えんわい!」
化け術を解いたきつねが、罵声に驚いてそそくさと退場した。レナが元の姿に戻ってきつねとたぬきの両方の観客に手を振る。
「レナ様―!」
なるほど。レナが人気枠というのは、こういうことか。
「ぽこ!」
レナが会場の真ん中で、ぽこを呼ぶ。
「旦那様! 行ってきます!」
俺に手を振ったぽこが、レナの隣に並んだ。
美の権化であるレナの隣にぽこが立つと、華聯で儚さが増す。
露出の激しいレナに対し、ぽこの衣装は露出は控え目で、健康的な脚線美だけだ。腰元で結んだ大きなリボンが身体の小ささを強調する。
レナがぽこの腰に腕を回し、ぽこはレナの肩に頭を寄せた。
うぉぉぉん‼
会場中から唸り声が起こった。
「尊いぃぃ!」
二尾の狐が二人の前に跪いて崇めた。演出がかってはいるが、わからなくはない。
金属が地面にぶつかる音が響いた。
レナとぽこの前に大柄な金属鎧が立ちふさがった。ただし、頭はない。
「これはデュラハンだー!」
首無し騎士の魔物で、死を予告するとして恐れられている。
化け術とはいえ、重厚なプレートメイルも見事だし、あるはずの首がないのもおどろおどろしい。
右腕で頭を抱え、逆手で長剣を引き抜いた。
レナとぽこを長剣で挑発する。
ぽこが、巾着ポシェットから葉っぱの丸い束を出した。
昨日、ジョアンから貰ったものだ。泣いて花鳥庵から出てこなかったから心配したが、ちゃんと受け取ったらしい。
選手席に座っているジョアンは、嬉しそうな顔でぽこを見つめている。嬉しそうで、恋する男の表情に、俺までどきりとした。
「誰ぞ彼、彼は誰ぞと問ふならば~」ぽぽん♪
ぽこが葉っぱの束を片手に歌いながら舞い始めた。たぬきたちの腹鼓が合いの手に入る。
「白みゆく空、紫だちたる雲こそをかし」ぽぽぽん♪
ゆっくりした舞なのに、一挙手一投足に見入ってしまう。一朝一夕に習得できる舞ではなく、長年練習を積んできた迷い一つない舞は見事だ。
「彼誰時のぽこ、参る!」
大爆発の煙が消えた後には、花鳥庵があった。
「これは、茶室でしょうか⁉ ぽこ様は⁉」
突如として出現した茶室に、デュラハンが戸惑いながらも、近づく。
狭い入り口が、音もなく自動で開き、デュラハンは先に頭だけを入れ、後に大きな身体を屈めて中に入った。
入った途端、茶室の外壁が透明になって中が見えるようになった。
あの茶室、ぽこか?
そうでなければ、扉が自動で開くわけも、壁が透明になるわけもわからない。
デュラハンを内部に納めて、どうするつもりだ?
「頭部がない分、入りやすそうではあります! さて、デュラハンにお茶のたしなみはあるのか⁉」
司会者の言葉に、デュラハンは親指を突き立てて任せておけとジェスチャーした。
プレートメイルで全身を包んだデュラハンが、脚を畳んで座り、奇妙な釜で湯を沸かした。
茶碗に竹の道具でお茶を作り始める。
「おぉっと見事なお点前!」
続いて中に入った二尾のきつねが、出されたお茶をすすり、茶わんを指でぬぐった後、しげしげと茶碗を眺めてから床に置いた。
戻された茶碗を回収しようと腰を上げたデュラハンが、倒れる。
金属と金属がぶつかる激しい音がした。
デュラハンが、草のじゅうたんの上で脚を抱えてひっくり返っている。
「脚が痺れて立てない! 重い鎧が響いたか! デュラハンの負けです‼」
もはや、何を持って勝負がついているのかは不明。
「旦那様勝ちました! これで王手です!」
爆風と共に、選手席にいた俺にぽこが飛びついた軽い衝撃があった。
会場中の雄たちから、冷たい視線を感じる。
ジョアンがぽこと俺へ指を突き付けた。
「よく見てろよ!」





