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たぬきの嫁入り4  作者: 藍色 紺
第16章 腹に一物、背に荷物
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175話 ぽこたちときつねの化け合戦②

 紙吹雪の中、たぬきたちに階段状の観客席から中央の合戦場へと追い立てられる。


 青ざめたぽこの隣に並んだ。


「どうする? おっさんが人間だって、あっちにバレるのはまずいぜ」


 人間がたぬきやきつねが化け術を使えると知ることはご法度だ。ドン・ドラドが絶大な権力を持つたぬきの里ならいざ知らず、きつねにばれていいわけはない。

 たぬきの里に来てわかったことだが、ここ以外にもたぬきの里は存在する。そこにドン・ドラドの権力が及ぶわけではない。


「ついて来た俺が悪かった」


「何か出場できない言い訳を考えないと!」


 選ばれた四匹と俺で円陣を組んで相談する。


「おぉっとぉ⁉ ここでドン・ドラドより異例のお言葉があるようです」


 円陣から顔を一斉にあげた。


「ここにおるオズワルドとジョアンは我が娘ぽこを巡って嫁取り対決をしておる!」


 両サイドが多いに盛り上がった。指笛と腹太鼓まで聞こえる。


「ちょっと、煽ってどうするつもり?」


 レナの疑問に嫌な予感しかしない。


「オズワルドへの試練を発表しよう!」


 続きの言葉を待つ静寂が訪れた。

 ドン・ドラドが、全員が事態を把握する時間をたっぷりとってから、ゆっくり息を吸い込んだ。


「この戦いに勝つことだ!」


 ヒューヒュー! イエァァァァァ!


 円陣から俺が抜け、ドン・ドラドの目の前に立った。

 無言で睨み合う俺たちを、周りが煽り立てる。


「娘が欲しいか」


 ドン・ドラドが胸を張り、俺を見下ろす。

 くそぉ。俺が化け術を使えないと知っていて、化け合戦に出る後押しをするとはな。


 おそらく、ドン・ドラドが俺が選ばれるように仕向けたのだ。

 賭け事たぬきは勝敗は五人目で決まると言っていた。

 ドン・ドラドは、翌年の見張り役を犠牲にしてでも、ぽこと俺の結婚の邪魔をしたいってことになる。


 だが、俺は盾役の冒険者だ。

 後戻りできぬ逆境でこそ燃える。

 腹の奥の導火線に火が着いた。


「上等だ。受けて立とう」


「おぉっとぉ⁉ 嫁取り合戦が加わりましたぁぁ!」


 二尾の狐の興奮した声は、皆の雄叫びにかき消された。


「これより出場選手による作戦会議が始まります」


 また物売りの声が聞こえ始めた。



「旦那様!」


 ぽこが俺の腕にしがみ付いた。頭を撫でて落ち着かせる。


「あんなこと言って、勝つ当てはあるわけ?」


 腕組したレナが不機嫌そうに聞いて来る。


「ない。今から考える」


 ぽことレナが俺を呆れた顔で見て、ジョアンは喜んだ。


「化け合戦で、化け術を使えないなんて致命的です! どうしましょう!」


「勝敗はどうやって決めるんだ?」


「敵側の反響の大きささ」


 ジョアンが白い鉢巻を巻き直した。


 なるほど。どうにかして皆を驚かせばいいってわけだ。


「まずは、たぬき側の勝利を考えよう。これはたぬきときつねの合戦なのだから」


 アルベルトが尤もらしい提案をした。


「五匹の団体戦ですから、三匹先勝を目指しましょう! 旦那様を最後の大将に据えて、四番目までに三勝すればいいって計算です」


 ぽこの言葉に全員が頷く。

 先に三勝すれば、残りの戦いはしなくていいらしい。


「四分の三か」


 全員がジョアンを見た。


「分かってるって、俺だって化け合戦に負けるのは嫌だからな」


「おじさんが大将で、他の順はどうする?」


出る順番を決めて紙に書いて提出する。


「先鋒 前へ!」


 うちのチームからは、ドラド家の長男アルベルトが出た。向こうからも若い男が出てくる。


「始めぇ!」


 審判の掛け声で、最初にアルベルトが大爆風を上げた。


 煙の中から、大きな影が見える。

 見上げるばかりの大きな身体には鱗がびっしりついており、手足の先には大きく鋭利な爪がある。背中には翼、トカゲのような頭には長い髭がついている。

 息を吐く度に、口から煙が噴出した。


「ドっドラゴン‼」


 観客席のたぬきときつねたちの中の何匹かの化け術が解けて、人間姿を保っている味方の影に隠れる。


「おぉ! 凄ぇ! アルベルトやるなぁ!」


 ジョアンがドラゴンをよく見ようと身体を乗り出した。


「どうだ。強そうだろう?」


 ふんぞり返るドラゴンの声が空から落ちてくる。間延びした声がどこか滑稽で、ぽことレナが頭を抱えた。観客席で怯えていたたぬきときつねも元の人間姿に戻り始める。


「あれ? なんで?」


 戸惑うドラゴンの足元から、ヴルルルルルと低い唸り声が聞こえてくる。


「おおっとぉ⁉ これは何の唸り声でしょうか⁉」


 ドラゴンの影からぬぅっと姿を現したのは、低く身構えた虎だった。

 臨戦態勢で東側にあるドラゴンの揺れる尻尾に狙いを定め、じわじわ前へせり出してくる。


「アルベルト、尻尾に気を付けて!」


「えぇー? あんだってー?」


 大きすぎて、こっちの声が聞こえないらしい。


 身体を屈めて聞こうとしたとき、尻尾が反動で上へ上がった。

 急に持ち上がった尻尾目掛けて、虎がジャンプする。

 その方向が、たぬきたちの観客席で、襲われると勘違いしたたぬきたちが逃げた。


 尻尾ががっつりホールドされると、尻尾から空気が勢いよく抜け始めた。

 戦場をつむじ風が幾筋も行き交い、たぬきたちが捨てた賭け事の白い券がまた舞い上がる。中には、誰かの服や弁当の空き箱なども空高くへ飛んで行った。


「あのドラゴン、空気で膨らませていたのか……」


 つむじ風が止んだ後、戦場には皺皺になった小さなドラゴンを咥えた虎がいた。


 カンカンカンカーン‼


 けたたましい鐘の音がして、二尾のきつねが現れた。


「そこまで! 勝者きつね‼」


 西側から大歓声があがり、東側のたぬきが落ち込んだ。

 元気をなくしたアルベルトが、伸びてしまった皮を引きずりながら選手用の席に戻ってくる。


「ドンマイ兄弟!」


「ここから三連勝すればいいのよ! あたしに任せて!」


 入れ替わりにレナが飛び出して行くと、今度は東西両側から歓迎の声が聞こえた。



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