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たぬきの嫁入り4  作者: 藍色 紺
第16章 腹に一物、背に荷物
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174話 ぽこたちときつねの化け合戦①

「飴ちゃん、飴ちゃんはいらんかね~」


「焼き芋~いもっ」


 赤壁山の中腹にある社の前は、お祭り騒ぎになっている。

 先日のレナの結婚式では、厳かだったが、昨日の会場設営から雰囲気は一変している。

 木と木の間には、提灯が吊るされ、両側に階段状になった観客席があり、その中を食べ物の売り子が練り歩く。

 東側がたぬき陣、西側がきつね陣に別れて既に満席になり、配布された弁当を早速食べた者、酒を飲んで高みの見物を決めている者など悠々自適に今日のたぬきときつねの化け合戦が始まるのを待っている。


 俺もぽこと並んで観客席で売り子から、食べ物を仕入れているところだ。


「旦那様、はい甘酒です」


 隣のぽこが白くどろどろした飲み物を渡してくれた。湯気を立てるそれを、酒だと聞いて喜んで頂くが、ちっとも酒精分を感じられない。むしろ、ジンジャーの匂いがする。


「これが酒?」


「あ! 始まりますよ!」


 ぽこが指差した方を、周りの皆が見た。

 観客席に挟まれた中央の大きな広場に、二つ尾の狐が二本脚で歩いて来る。ざわめいていた会場が、静まる。


「赤壁山ぁ、化け合戦‼ いよいよ開幕だぁぁぁ!」


 うぉぉぉん!


 両サイドから歓声がうねりとなって上がる。凄い熱気だ。

 どちらの里もどれほど化け合戦を心待ちにしていたのかが、伝わってくる。


「ルールは簡単! 敵チームから五匹代表者を選んで戦うバトルだ!」


 イヤス! イヤス‼ イヤース‼


 返事で揺れる空気。無関係の俺でさえ血がたぎってきた。まさかこれほどの規模だとは想像しなかった。勝敗はどうやってつけるのか、何も事前情報はない。

 おそらくこの化け合戦を見る初めての人間になるだろう。


「前年の敗者、きつね側から一匹目の指名ターイム!」


 きつね側から、背の高い俺くらいの年齢の女が出てきた。妖艶な容姿に、たぬきたちも鼻の下を伸ばしている。


「一匹目、きつねからは、レナを指名します!」


 レーナ! レーナ! レーナ‼


 なぜか両側からレナコールがあり、ぽこの隣に座っていたレナが爆風を上げた。


「赤壁山七変化、暁のレナ! 見参‼」


 いつぞや見せてくれた異国風の服を着たレナが、品を作りながら階段を降りて行く。それがまた観客を沸かせる。


 たぬきの指名のターンになり、こちらが指名したきつねに対しても両側から歓声があがった。


「どういうことだ? 戦いじゃないのか?」



「翌年の見張りを賭けて大勝負じゃき! 真剣も真剣よぉ」


 周りに座っているたぬきが、鼻の穴を膨らませて教えてくれる。


「二匹目は、ぽこ!」


「赤壁山七変化、彼誰時(かはたれどき)のぽこ‼」


 レナと同様にぽこが艶やかな服に変化した。


「旦那様、ぽこの雄姿を見ててくださいね!」


 ぽこが手を振って、戦いに出向いて行ってしまう。俺は、歓声の中、啞然と見ているだけだ。

 危険じゃないのか? お祭りなのか? さっぱり分からない。


「恒例の人気者枠ってのがあるのさ」


「レナとぽこの二匹が選ばれるのはわかってる。勝負はここからだ」


 何の勝負だ?


「誰が選ばれるだろうな⁉」


 周りのたぬきが皆、白い紙きれを握っている。一枚見せてもらうと、たぬきの名前が五匹分並んでいた。今回もまた、賭けをしているらしい。


「三匹目! ジョアン‼」


 ブーブーブー‼


 先の二匹は喜ばれたのに、ジョアンが呼ばれた途端に盛大なブーイングに変わった。

 それでも、ジョアンは拳を天に突き上げ、満面の笑みだ。


「っしゃぁ! うらぁ! やってやんぜぇ‼」


 一部の黄色い声と一緒に、血威無恨暗(チームジョアン)によるお囃子がジョアンを応援する。


「ジョアン選手には、特別に血威無恨暗(チームジョアン)での参加が認められています。是非ぎったんぎたんにのしてやりましょう!」


 司会の二尾の狐の言葉は、やや公平さを欠いているが、熱い肯定の言葉に支えられた。

 四人目は、ドラド家の長男アルベルトが選ばれた。


 周りにいるたぬきたちが、激しく頷く。


「ここまでは例年通りだ」


「里長は出れないルールになってるから、跡取りが代わりに出される」


「ほぉ……」


 ジョアンとアルベルトは真剣勝負枠に入るらしい。


「握るなら今! まだ間に合うよ!」


 賭け事の売り子が、たぬきたちを煽っていく。

 俺の後ろにいるたぬきが唸る。


「うぅむ。毎年五匹目には悩まされる」


「どうして?」


「勝敗の決め手だからな」


「なるほど。勝てる相手を選びたいわけだ」


 俺が選ぶとすれば、化け術が下手なたぬきだ。

 耳か尻尾が出たままか、それとも妙な服を着ているやつ。集団の中で浮いているのもいいだろう。


「五人目は、あの人よ!」


 狐の統領が、こちらを指さした。

 会場の視線が一気に俺の方へ向く。


 ははは。まさか。俺は人間だ。

 きっと、後ろの賭け事たぬきだろう。


「顎鬚の!」


 背後を見るが、賭け事たぬきは髭を生やしていない。


「見たことのないたぬき! そう! あなたよ!」


 たぬき側の観客席から、悲鳴と共に白い券が宙に舞った。


「あぁぁー! 負けたぁぁ‼」


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