168話 ぽこと参加するレナの結婚式
レナの結婚式のために、山を登っている。
先頭は紙製のカンテラを持った年寄りの男で案内役。
次に、花嫁のレナと花婿が籠に乗って続き、その後ろには両家の親が、さらに後ろに里の代表者であるドン・ドラド、レナの世話係としてぽこが続く。
俺は、まったくの無関係だが、花婿の乗った籠の担ぎ手として参加している。相棒はジョアンだ。
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最初、レナの家から出発した。
近所の人が山までの道中に出てレナの結婚を祝い、レナと家族の一向が挨拶をしながら歩く。
「レナちゃん綺麗よ!」
「幸せにね!」
祝いの言葉を聞き、レナと新郎が小さな巾着を配る。
「はい。旦那様」
ぽこが一つ貰ってきてくれたのは、薄布に包まれた巾着で、中には円形の菓子が入っていた。桃色、若葉色と見目鮮やかで優しい色だ。
「お米の粉を焼いて砂糖をまぶしたものです」
口に含むと、色と同じようにじんわり甘い。ショコラのような強烈な印象ではなく、華やかで心が和む味だ。
この菓子を目当てに、子だぬきたちが道で待ち受け、レナを見て目を輝かせる。
「花嫁様綺麗」
「そうね。あなたも大きくなったら花嫁様になるのよ」
「すごい! 早く花嫁様になりたい!」
そんなやり取りがそこかしこで聞ける。美しい嫁を娶った花婿も自慢げで、子だぬきたちは甘い菓子を頬張って、羨望の眼差しで花嫁道中を祝う列が続く。
❄
花嫁と花婿が歩いていたのは山に入る迄。
この日のために誂えた衣装を汚さぬように、二人がそれぞれ籠に乗る。
レナ側の籠は、レナの兄弟が担ぎ、花婿の方は村の若い衆が担ぐことになっている。それで、俺とジョアンが名指しされた。しかし、これが想像よりも大変だ。
昨夜からこの冬初めての雪が降り、足元にはうっすら雪が積もっている。滑って転ばぬように、ジョアンと掛け声をかけあって慎重に進む。
何しろ花婿を載せている。人生の門出の日に転ぶわけにはいかぬ。
肩に籠の重さがかかり、なかなかきつい仕事だ。
「すみません。歩ければいいのでしょうが」
花婿が恐縮してくれる。
「昔から、たぬきが嫁入りするときは雪と決まってらすけ」
レナの父親が立ち止まって休憩しながら教えてくれた。
そういえば、ぽこと出会った日も晴れているのに雪が降っていたと思い出す。
「どうしてです?」
「結婚は農閑期にやるもんらすけ。どうしたって雪の季節になるんらすなぁ」
なるほど。
たぬきの里に入るときにくぐった扉のない朱色の門を山の中で辿っていくと、里が見下ろせる丘にたどり着いた。
無事に籠役を務められたことに安堵して、ジョアンと健闘を称えあう。
花嫁と花婿、それに両親に礼を言われて、肩の荷が下りた。
籠から降りた花嫁と花婿は、広場の奥へと入っていった。
広場の奥には、俺の泊まっている風月廬に似た雰囲気の建物がある。
「ここは赤壁山の主を祀っていたお社です」
子だぬきたちが赤壁山の主は今はいないと教えてくれたが、不在のままでも建物は手入れがされてある。
「結婚式に行ってきますね。申し訳ありませんが二人はここで待っていてください。下りも籠を担いでいただかないといけないので」
結婚式には親族しか入れないと事前に聞いていた。その代わり、この後の食事会には呼ばれている。
離れたところから、結婚式を挙げるレナたちを見る。
良家の名乗りの挨拶が聞こえてきた。
レナの父親の声は感極まって震えている。
来る道中でも、レナの幼いころの話をしては、声を詰まらせていた。
大事な娘を嫁にやる。
今までと違って、危険から守ってやることも、苦しみや楽しみを分かち合うことも減るだろう。
一人前の大人になって、誰かと新しい家庭を築く。そうであって欲しい。それでも、手放すことは辛いはずだ。
親としての寂しさと、娘の幸せな日を祝いたい気持ち。
目の前にして、ようやく、俺も花嫁を出す家族の気持ちを思いやることができた。
迎える方の家族も、それを受け止めて、レナを幸せにしようとこたえている。
結婚式とは、大切な人の幸せを祈る式なのか。
あぁ、いい式だな。
冷えた空気を吸ったからか、鼻の奥がつんとする。
柄にもなく、感動している。
参列しているぽこも、鮮やかな衣装で身を包み美しい。
それでも、花嫁の美しさはまさに神から祝福を受けていると言っても過言ではないだろう。
俺とぽこはどんな結婚式をあげるだろうか。
今まで、そんなことなんか考えたことすらなかった。
そういえば、王都で貴族の結婚式を見たぽこは憧れていなかったか?
結婚は、俺にとってただのけじめだった。
だから、思い通りにならなければ、ぽこを奪って逃げようと思っていた。しかし、それでは目の前で行われているような祝福は得られない。
ぽこに、家族に囲まれて幸せな結婚式を挙げさせてやりたい。親父さんに花嫁姿を見せたい。
俺に生まれた新しい価値観が、方向転換を余儀なくさせる。
ぽこの親父さんもお袋さんも、ぽこに幸せになって欲しかっただけだ。
呪いではない。
それが上手く伝わっていないだけで、こんがらがった結び目をほどくことができれば、皆が幸せになれる。
そのために、俺がいる。
ぽこを幸せにするのは俺だ。





