167話 ぽことレナの家へ
稲刈りの数日後、今日はレナの家に来ている。稲刈りのときに里中のたぬきに紹介してもらったおかげで、ぽこが人間の男を婿候補として連れ帰ったという衝撃的な噂話は急速に収まった。
それでレナにお土産や結婚祝いを届けることになった。
ぽこの声かけで、同年代の娘たちが集まっている。なぜかジョアンまで混じっているから不思議だ。
「これぽこからのショコラだよ。でも、もう食べ飽きちゃったかな?」
「ありがとう! そんなことないわ。嫁入り先の家族がもう一度食べたいって言ってたもの」
皆からもらった祝いの品に囲まれて、レナの機嫌はすこぶる良いようだ。
「俺からは、光がつく魔道具だ」
周りの皆が、高い声をあげた。
「凄い! 魔道具って初めて見るわ!」
「魔力がないと使えないって聞くけど」
「こいつは魔力がなくても、月光浴させてやりゃいい」
「便利だね。いいなぁレナ」
「いいでしょう~」
「それで、お式で使う青いもの、お下がりのもの、借りたものは何にしたの?」
「それ何?」
「ジョアン知らないの? 幸せになるおまじないよ」
女性たちのお喋りが始まり、お祝いの品を無事に届けた俺は部屋の隅に移動した。
出された三色団子なるものを頬張り、緑色の爽やかなお茶を頂く。
こういうときは、置物のように静かにしておくのがよろしい。
本当ならそそくさと帰りたいが、ぽこに言い出すタイミングを逃してしまった。
「ねぇねぇ。それで出会いはどこなの?」
「前にも話したじゃない」
「ぽこは聞いてないよ」
「俺ももっかい聞きたい」
「ほらほら、ぽこちゃんのために話しなさいよ」
「仕方ないなぁ、一度だけよ?」
聞きたくもない話しが聞こえてくる。よくもまぁ、ジョアンのやつはこの手の話に混じれるものだ。
横目でジョアンを見るが、前のめりになって参加しているから楽しいのだろう。
「それでそれで、結婚の挨拶はどうだったの?」
うん? 結婚の挨拶?
「え、駄目よ。私とあの人だけの秘密」
「いいじゃない。レナが結婚を決めるくらいなんだし、興味あるもの!」
「一生に一度のとびっきりのやつよね」
「ぽこも気になります」
結婚の挨拶……そういえばまだしていない。
まぁ、言わなくてもドン・ドラドもわかっているだろう状況ではある。だからこそ、避けられているわけだ。
ドン・ドラドを実際に知って、なるほどみんなが怖がるわけだとわかった。
都合がいいように力でねじ伏せ、ときとして、たぬきらしく騙してすりぬけることさえ朝飯前だ。
怖くはないが、挨拶の機会を徹底して避けられている感じはある。
嫌な汗が背中を伝う。
レナの告白するプロポーズの言葉を聞いて、女性たちは一段と高い声で叫んだ。
ぽこもその中に入っている。
強引な手口を使ってでも、挨拶をせねばならぬ。
何と言えばいいのだろうか。
考えるだけで、むずむずしてくる。
「ぽこ、俺と結婚してくれ」
「また始まったよ。あんたまだ諦めてないの?」
「諦めるわけねーだろ」
「でもさ、最近のジョアンはいい噂が多いよね」
「だろ? だろぉ?」
「怪我した子だぬきを助けたとか、おばぁの荷物を持ってあげたとかさ」
「この間は、一人暮らしのお年寄りに血威無恨暗が食べ物を届けたって聞いたね」
「へぇ~?」
女性たちがジョアンをしげしげと見てニヤついた。
「ぽこによく思われたいわけだ?」
レナが口火を切る。
「当ったり前だろ⁉」
「里一番の遊び人だったジョアンがねぇ」
「でも、泣かせた女の数は消えないけどね~」
「ぽこは、どう思ってるわけ?」
女性たちとジョアンがぽこに返事を迫り、ぽこが呻いた。
「今日はレナの結婚のお祝いに来てるの。時と場所をわきまえて」
「時と場所を選んだらOKしてくれるわけ?」
「この話、全部おじさんが聞いてるんじゃないのかしら?」
今度は俺の番と言わんばかりに、無言のたぬきたちがこちらを見てくる。
うんざりしてきた。ジョアンみたいに息を吐くようにプロポーズできれば苦労はしていない。
真剣に考えていた結婚の挨拶は、いつの間にか消え去ってしまった。
「ジョアン。ちょっと散歩に出ようや」
立ち上がると、ジョアンはほいほいついて来た。女性たちがまた声を挙げるのを背後で聞きながら、レナの家から退散する。
外に出て声が聞こえない所まで歩いてから、大きなため息をついた。
「あぁ、生き返った」
ジョアンが斜め後ろで鼻で笑う。
「何かと思えば、外に出るだしに俺を使ったってことか」
肩をすくめて見せると、ジョアンが俺を追い越し様に肩をぶつけてきた。
びくともしない俺に、目つきの悪いジョアンに険が入る。
「おっさん、余裕ぶっこいてるけどなぁ。この里じゃ、ドン・ドラドの意見は絶対だ。ドン・ドラドが認めない結婚ならぽこを幸せにはしてやれないぜ」
顎鬚を撫でてしまう。
あれからドン・ドラドからの音沙汰は何もない。
レナの結婚式が済めば出てくかどうか、俺の出方を待っているのだろう。
相手は経験豊富な古たぬきだ。
「見てろよ。俺だって指を咥えて待ってるだけじゃないぜ」





