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たぬきの嫁入り4  作者: 藍色 紺
第16章 腹に一物、背に荷物
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166話 ぽこと稲刈り②

 異常な興奮状態で稲刈りが始まった。

 階段状になった畑に入り、一列になって稲の根元を鎌で刈って行く。一掴みになったら藁で一括りにして、その辺りに置いておくと、誰かが干すところにかけていく。

 畑一つずつは小さく、気分が滅入る前に新しい畑に細かく移動する。

 日が高くなり、晩秋とはいえ汗ばみはじめた頃、ようやく休憩の声がかかった。


「あぁ~、腰が痛い」


 背伸びして腰を叩き、その辺りで寝転がる、同じ班になった他のたぬきが笑った。


「初めてじゃと言うから心配したけど、やりおるわい」


「小麦の刈り入れは毎年やってたんで」


「きのこや木の実探しも手伝ってもらにゃあ」


「そりゃあいい。ジョアンをそそのかしゃあ、また勝負になるかな?」


 大人のたぬきたちが笑う。


「今時分は、食べもんの備蓄が忙しくってね。気を悪くしないでくんさい」


 班長が俺にそう言って、畑のあぜ道を見た。釣られて俺も同じ方向を見る。

 皆に混じって稲刈りをしていたぽこが、休憩もせずに、おにぎりと汁物を振舞って歩いている。

 疲れているのは皆同じだろうに。


 ぽこの元へ向かうと、花の咲いたような笑顔で迎えてくれた。


「旦那様もどうぞ!」


「手伝いに来たんだ」


「お腹減ってるでしょう?」


「ぽこも一緒だろう? それに、人手が増えたら早く終わる」


 遠くを見れば、ぽこの兄弟と嫁たちも同じように里中に散らばって振舞いを続けている。

 ドン・ドラドの家族は一丸となって父親の仕事を支えている。


 ぽこの持つおにぎりのお盆と汁物が空になる前に、金毛邸(きんもてい)へ走り、新しいのを持ってくる。

 ぽこは、班に届けるたびに俺を婚約者だと紹介した。


「あぁ、白銀の王を追い払った!」


「ぽこ様と都入りなさったそうで!」


「食べる? あたちのこと食べる?」


「食べないよ」


 大体同じような感じのやり取りが続いた。どの班でも、初日の宴会に誰かが参加しているから、俺の飲みっぷりや土産物の話を伝え聞いている。

 白銀の王を追い払ったのも見ているから、人間だと知っても概ね好意的に受け止めてくれていた。


「旦那様、私たちもいただきましょう」


 ぽこと並んでおにぎりと汁物をすする。


「もちっとしていてうまい」


「稲から穫れるお米を炊いたものです」


「へぇ」


 こんなうまいもんを収穫しているとなれば、猶更頑張りたくなるというものだ。


「旦那様、ここに米粒が」


「うん?」


「逆です」


 手で探るが、顎鬚にでもついているのか感触はない。


「ほら、取れた」


 ぽこがつまんだ米粒を自分の口に入れてしまう。

 柄にもなく照れてしまって、ぽこから視線を外せば、周りのたぬきたちの注目を浴びていると気づいてしまった。

 皆、急いで顔を逸らすがばればれだ。



 午後も稲刈りに精を出し、お茶の時間にはドン・ドラドに渡した分とジョアンからのお土産としてショコラが分配された。


「うまか~」


 仕事の疲れと、食べたことのない甘味によるハイテンションで一匹が躍り出す。

 次々と踊りの輪に加わり、いつの間にやら腹太鼓を叩いて、えんやえんやと大騒ぎになった。興奮のし過ぎでたぬき姿に戻るものが出てくる。


 冬を前にした野生動物は、皆、脂肪を貯め込んでふくふくと丸くなる。身体をふればドルルンと脂肪が揺れるほどだ。


「あぁ、たぬきはいいな」


 思わず呟いた一言を聞いて、隣で休憩していたぽこがたぬき姿に戻った。

 膝の上でおすわりをしたぽこを撫でまわす。


「夏毛と、冬毛ならどっちが好きですか?」


「そりゃあ、冬毛に決まっている」


 尻から頭にかけて脂肪を寄せるように撫で上げ、顔をまん丸にしてから手を離す。

 皮下脂肪がたゆたゆと揺れる。

 満足し、もう一度撫で上げる途中で、抗議の声が挙がった。


「ぽこにも乙女心ってものがあるのですが!」


 きゅ~っ ぽん!


 膝の上で人間姿になったぽこの頬を親指と人差し指で丸くつまむ。


「もぉ!」


 抗議するぽこが可愛らしく、ますます怒らせたくなってしまう。


 金のしずくは神様の~


 透き通る歌声に、皆が動きをぴたりと止める。


 恵の米をいただけば~


「見てください。レナですよ」


 ぽこが見る方に目をやれば、ドン・ドラドの隣でレナが歌っていた。それを聞いて、たぬきたちは自分の持ち場へ帰っていく。


 一つ刈りとりゃ 子のために

 二つ刈りとりゃ 母のため

 三つ刈りとりゃ 満腹じゃ ほーいほい


 歌い出しは心にしみわたるような調子だったが、数え歌になったころには里の皆が参加していた。

 歌いながら手を動かして、同じ調子で刈り取りが再び始まる。


 空が紅色に染まり始めた頃、稲刈りは全て終わった。

 よく働いたと皆が互いの仕事ぶりを称え合い、ジョアンが商品を勝ち取った。

 若いたぬきたちがジョアンを囲み、商品の酒を全員で回し飲みする。

 大騒ぎする若者たちを見ながら、それぞれが家路につく。


 赤蜻蛉が飛び交う里を見て、心地よい疲労感を味わう。


「あぁ、たぬきの里は暮らし良いな」


 ぽこが俺にもたれかかった。


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