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たぬきの嫁入り4  作者: 藍色 紺
第15章 ようこそたぬきの里へ
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164話 ぽこと風月廬②

「はっきり言ってしまいますね。ぽこは赤ちゃんが欲しいです。でも、それもママから植え付けられた夢かもしれません」


 聞いたこちらの眉根が寄る。王都の九重(かずら)の館で階下の赤ん坊を抱いたぽこは女神のように美しかった。

 ぽこと俺の間に、子供が欲しいと思ったのも、たぬきの里に結婚の挨拶に来たのも、あの姿を見たからだ。


「やっぱり、家出して正解でした」


 無理に笑ったのが背中ごしに伝わってくる。

 今までおふくろさんのことを愛していると言っていたのに、突然変わったのは、親父さんたちと話して違う視点から己を見たからに違いない。


 きっと頭ごなしに正論を言っても逆効果なのだろう。

 蒸し風呂で聞いた親父さんとおふくろさんの話を思い出す。


 ぽこがどう思おうが、ぽこはおふくろさんの気質そっくりだ。

 これまでの経験から、ただの優しい言葉では素直になれぬ性格だというのも分かっている。


「俺は親父さんの話を聞いて、あぁご尤もだと共感したね」


「なんですかそれ」


 腰を揉んでいた手が止まる。憤慨した声に、うつ伏せのまま着合いを入れ直した。


「俺は、ぽこの兄さんたちより年上だし、若い内に子供ができてりゃ、ぽこくらいの年齢の娘がいたっておかしくはないからな。娘が苦労するのがわかっているなら、障壁を取り除いてやりたいと思うのが親心ってのはわかるさ」


「障壁? 取り除く? 気持ちが分かる?」


 背中から手が消え、身体を捩じり起こす。ぽこの顔は真っ赤だ。怒り爆発寸前ってところだろう。


「旦那様は、またそんな煮え切らぬことをっ!」


 そこまで言って、深呼吸する。

 落ち着こうとしているのだろう。少し前のぽこなら、溜め込むか怒りをぶつけてくるかの二択だけだった。


「いいですよ。旦那様はじっくり考える派ですからね。それにぽこは唯一無二のはずですし」


 些細な変化が気持ちを高揚させた。


 ぽこの誕生日から、俺は気持ちに蓋をすることを止めた。言葉にすることは滅多とないが、それに代わる愛情を示してきているはずだ。それをぽこが受け取って、こうして自信につなげてくれた。

二人の間で、着実に何かが成長している。


 頬を膨らませたままのぽこが俺を軽く睨む。

 そんな表情でも、最高にそそる。


 ぽこを抱き寄せて軽く口付けた。背中に回された手で、ぎゅうっと服を掴まれる。


「俺がぽこを置いて行くはずないだろう?」


「ずるいですよ」


 切なそうな吐息がかかり、全て己の物にしてしまいたい衝動を堪えるのに苦労する。


「あぁ、そうだ。ずるい男になることに決めた」


 潤んだ大きな目を閉じられる。

 愛おしいと伝わるように、二度目は優しく唇を食んだ。

 言葉にならない気持ちをぶつけると、小さな口で食み返してきた。応えてくれるのに夢中になってしまう。服を掴む手が徐々に脱力し、草の絨毯の上に落ちた音で理性が戻る。


「ここに来たのは、種族の差を越えるためだ」


 荒ぶる息を押さえた声に、ぽこが震える。首元に鼻を埋め、匂いを堪能する。


「反対されるなぞ想定内だ」


 ぽこの押し殺した声が漏れる。

 それが男をより駆り立てるとは、知らぬのだろう。


「俺との赤ん坊が呪いだと思う?」


 涙目になったぽこが、首を幾度も振った。


「よし、いいだろう」


 突然身体を離すと、ぽこがへたり込んだ。肩で息をしている。


「旦那様!」


 先刻とは違った意味で怒った声だ。どうやら元気になったらしい。


「ん? なんだい?」


 満面の笑みを浮かべて見返すと、顔を真っ赤にしたぽこが叫んだ。


「明日は稲刈りです! 手伝ってくださいね!」


 ぽこは、朝が早いからと言いながら、小さな出口から姿を消した。


稲? あぁ、黄金の穂を垂らす美しい植物のことか。


 俺もたぬき癖が板について来たようだ。


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