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灰かぶりは王子様の手ではなく、魔法使いの弟子を選びました  作者: 海坂依里
第2章「灰かぶりと魔法使いのお師匠様」
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第0話「利益」【フール視点】

「アルバーノ様」


 彼の名前を呼ぶところから、僕の一日は始まる。


「その声は……」

「僕が、誰だか分かる?」

「……フール」

「大正解」


 この国の偉い地位の方々は、どうして太陽の光が差し込まない暗い部屋に王子を閉じ込めてしまうのか。


「ガラスの靴を落とした少女に、きちんと会いに行っていますか?」

「…………」

「彼女は将来の妃候補ですよ」

「……わかっている」


 彼の扱いが面倒?

 彼を殺してしまいたい?

 そもそも、王子自身が自然の恵みに興味を持てないことの方が問題かもしれない。


「ただ……」

「自信がない?」

「…………」

「舞踏会で出会った少女を、幸せにできるかどうか」


 風魔法の力を利用して、カーテンを開ける。

 アルバーノ様は目を細めて、ようやく太陽が差し込む時間だということを自覚してくれる。


「今の時代、自由に相手を選べることなんてないですから」


 悔しそうに、歯痒そうに。

 自分が、一人の少女の運命を変えてしまったことにアルバーノ様は罪悪感を抱いている。


(魔法にはできることと、できないことがある)


 主の罪悪感を消し去りたいと願ったって、魔法と呼ばれる力にはどうしても限界が生じてしまう。なんのために、僕は魔法使いとしてアルバーノ様の傍にいるのか分からない。


「アルバーノ様が《《声》》で人を認識している事実は、国民に公開できない」


 アルバーノ様の灰色の瞳は、かつての栄光も輝かしい未来も映さない。


「アルバーノ様が、顔を認識できない病を抱えているなんて知ったら……」

「民が混乱を来す……」

「正解です」


 呪いを抱えた王子なんて、敵国が攻め込むには持って来いの材料となる。

 顔を認識できないという点を利用して、敵側がスパイを送り込んでくるとも限らない。

 だから、王子が病を抱えているという真実は未来永劫守り抜かなければいけない。


「今日の夜は僕が職務を代わるから、ゆっくり休んでください」

「……すまないな」

「もし良かったら、将来の妃候補を呼んで……」

「いや……」

「そんな寂しそうな顔するくらいなら……」


 窓向こうの、外の世界に目を向けるアルバーノ様に向けて盛大な溜め息を吐く。


「自分の手で彼女を幸せにしてください」

「…………」

「失言、ごめん」


 アルバーノ様が抱えている呪いを、口外しない女性を選ばなければいけなかった。

 アルバーノ様を傷つけたという事実を目の当たりにした少女なら、アルバーノ様の秘密を何がなんでも隠し通す。

 弱みを握って、主を守るという計画は上手く進んだ。

 でも、今回の一件で誰も幸せになることができないということには気づいていた。


「ただ、身分が低い人間は願いに対して貪欲だということをお忘れなく」


 これから始まる下働きの復讐に、僕は魔法使いとして手を貸す。

 彼女の復讐が、いつか自分の主人を救うこと(利益に繋がること)を願って。

 僕は今日も、下働きに魔法を魅せる。

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