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第5話「舞踏会」

「一体いつになったら、アルバーノ様と踊ることができるのかしら」

「私たちに順番が回ってくるわけがないでしょう」


 アルバーノ様が舞踏会を主催している城に到着し、広間では盛大な舞踏会が開催されている最中。

 パートナーを交代しながら踊りを楽しむ招待客たちの様子を、私は柱の影から見守っていた。


(舞踏会に憧れはあったけど……!)


 女性客の誰もが、アルバーノ様の正妻の座を狙っている。

 アルバーノ様と一緒に踊りたい人たちは後を絶たない。

 そんな中、勇気を振り絞って私を踊ってくださいなんて言えるわけがない。


(とりあえず、お腹だけでも満たして帰ろう……)


 魔法使い様が人生を変えるきっかけを与えてくれたところまでは良かったけれど、肝心の魔法をかけた本人の勇気が萎んでいる状態。

 数々の令嬢を押し退けて、アルバーノ様の元に辿り着くなんてできるわけがない。

 アルバーノ様の元に辿り着く頃には、食卓に並んでいるナイフで襲撃を受けた私の身がぼろぼろになっているなんて妄想さえ生まれてくる。


「ありがとう」


 アルバーノ様との踊りを終えた二番目の義理の姉であるイシルは、アルバーノ様と親しくなることもなく終わってしまったことに腹を立てて返事をしなかった。


「悔しい! 悔しい! 悔しいっ!」


イシルは義理の姉が待つところまで歩を進めていく様子が視界に入り、私は義理の姉たちに隠れながら広間の隅っこに用意された軽食へと目を向ける。

 口に入れただけで幸福感が広がると容易に想像できる品々に心を奪われていると、私は背後に誰かが来たことにも気づくことができなかった。


「っ」


 誰かに、背中を押された。

 踏みとどまることができなかった足が前へと出ることで、突然会場がざわついた。


「あの子……どうして……」


 イシルの声が聞こえてきたのと同時に、私は会場の注目を集めていることにも気づく。

 母親似の美しい容姿は、柱の陰で舞踏会を見物したいという私の願いを叶えてはくれなかった。


「一曲お相手を」

「……喜んで」


 会場に姿を晒してしまったら、もうどうすることもできない。

 駆け足で会場を出るという案が過らなくもなかったけれど、魔法使い様が用意してくれたガラスの靴が恐ろしいほどに走り辛そうで私の逃走を拒んでくる。


(久しぶりすぎて、踊りの感覚が……)


 まずは、表情を整えるところから。

 相手を不快にさせないように口角を上げ、アルバーノ様との踊りを楽しむ。


(大丈夫……)


 父が再婚する前は、私も令嬢としての教育を受けていた。

 舞踏会に参加したときの立ち居振る舞いを、先生から習う幼い頃の自分を思い出す。

 先生からの教えを完璧に身に着けた幼い頃の私を、両親はたくさん褒めてくれた。


(みんなが、私のことを褒めてくれたから)


 アルバーノ様との踊りが終わる頃には、会場から割れんばかりの拍手が送られる。

 私たちの踊りを見た招待客の女性たちはがっかりとした表情を浮かべながら、数人が会場を後にした。


「ありがとうございました……」


 テラスが解放されていて、その先にある庭の大時計を見る。

 時間を確認すると、魔法使い様と約束した十二時まで残り五分と時計の針は迫っていた。

 幼い頃に読み聞かせてもらった物語の世界と同じことが起こるのなら、時計の針が十二時を回る頃に魔法使い様の魔法は解けてしまうということ。

 約束の十二時までにはポルダ家に帰れそうなことに安堵していると、私は強い力で腕を引かれた。


「なんで、あんたがここにいるの……」


 会場に、義理の姉がいたことをすっかり忘れてしまっていた。

 アルバーノ様と私の間に割り入って、イシルは私の腕を痕が残りそうなほど強い力で掴んできた。


「イシルお義姉様……」

「自分の顔は美しいですって自慢しに来たの?」


 魔法使いとの約束の時刻が迫っているため、イシルの手を振り解こうとする。

 でも、腕に自分の爪を食い込ませてまで私を解放しようとしないイシルから逃れることができない。


「それとも、アルバーノ様の記憶にも残らない私たちのことを哀れみに来たの?」

「そんなこと……」

「お金もあって、元お義母様に似た美貌まで持っている……」


 イシルの爪が、皮膚へと食い込んでいく。


「それ以上望むなよ! 欲しいものを全部持っているあんたなんか……」


 果物ナイフのような小さな刃物を隠し持っていたイシルは、私に襲いかかろうと刃物を翳した。

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