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第4話「魔法」

「今日のために仕立てたドレス、とても良く似合っているわ」

「ありがとうございます」


 アルバーノ様が主催される舞踏会当日。

 ポルダ家の令嬢として恥じることのない、素晴らしい美と輝きを兼ね備えたドレスを身にまとった二人の姉の出発を見送る。


「さあ、私の可愛い娘たち。舞踏会に遅刻してしまう。馬車に乗りなさい」


 義理の姉たちは馬車に乗り込んで、アルバーノ様が待つ城へと向かう。


「私たちも出かけましょうか」

「そうだな」


 義理の母と私の父も、別の舞踏会に出席するために馬車へと乗り込んだ。

 お父様は、使用人たちの中に血の繋がりがある娘()が紛れていることに気づいてもいなかったかもしれない。

 父にとっては、娘は二人しかいないという認識なのかもしれない。

 私の存在なんて、忘れてしまったのかもしれない。


「……いってらっしゃいませ」


 私の見送りの言葉は、家族の誰にも届かない。

 使用人たちの声に乗っかることもできず、私の声は小さくかき消されてしまった。


(お城の舞踏会……)


 屋敷の窓から、義理の姉二人が向かった城が見える。

 城を築き上げるだけの財力と地位を持っているアルバーノ様は、今夜にでも正妻となられる方を決められるのかもしれない。


(私には関係のない話……)


 どんなに城に想いを馳せたところで、私の人生は逆転しない。

 舞踏会にすら参加できない私が人生を変えることなんて、できるわけがないのだから。


「っ」


 父から与えられた仕事に戻ろうとすると、視線を向けていたはずの窓がかつかつと音を鳴らす。

 静まり返った屋敷に広がる硝子の音に体をびくりとさせて、再び窓へと視線を戻す。


「あなたは……」


 知らない人物ではなかったため、私は窓を叩いた人物を出迎えるために窓を開けた。


「こんばんは、お招きありがとう」


 アルバーノ様の側近としてポルダ家を訪れていた魔法使いの青年が、なぜか窓からポルダ家の屋敷へと顔を出した。


「以前いらしたときの忘れ物でしょうか」


 魔法使い特有のローブを身にまとっている姿を見て、あ、この魔法使い様はアルバーノ様に仕えるに相応しい方だと改めて感じた。


「何かをお忘れになったという話は、伺っていないのですが……」


 魔法使い様は、まるで泥棒のように窓から屋敷の中へとお邪魔する。


「ああ、違うよ。僕はあなたに、礼を返したい」


 こんなにも朗らかな笑みを向けてくれる人と出会うのは、随分と久しぶりのような気がした。


「以前、僕の姉を助けてくれた礼をさせて」

「そんな大層なことをした記憶にない……」

「エルミーユ様のおかげで、義理の姉は甥っ子の迎えに間に合った」


 ついこの間、お子様を迎えに行く時間になっても仕事が終わっていない使用人を助けたことを思い出す。

 掃除を代わった使用人の弟さんが、目の前にいる魔法使い様だと気づく。


「一応は魔法使いだから、大抵の願いは叶えることができるよ」


 突然願いを尋ねられ、すぐに答えを出すことができない。


「舞踏会にでも行く?」

「え?」

「うん、それがいい。そうしよう」

「え、あの……」


 私の答えを聞くことなく、魔法使い様はさっさと願いごとを決めてしまう。


「物語の世界だと、かぼちゃが必要だったっけ?」


 何もないところから、魔法の力で舞踏会に参加するに相応しい煌びやかなドレス。私を城まで運ぶための馬車が次々と用意されていく。


「まあ、それはいつ時代の魔法だからいっか」


 魔法で登場させた美しさは瞬時に私を着飾り、魔法使い様は魔法の力で身なりを整えてくれる。


「行って」

「それは……物語の世界の話……」

「物語の世界の出来事を、現実のものにすればいい」


 こんなにも華やかで輝かしいドレスで着飾ってもらったのは、何年ぶりのことだろう。

 そんな懐かしさに浸りたいと思いつつも、魔法使い様は私を馬車の中へと押し込める。

 魔法使い様は爽やかな笑みを浮かべて、見送る際には手を振ってくれる。


「夜の十二時まで、楽しんで」


 戸惑いの表情を浮かべる私のことなんて置いて、馬車の御者は私の意向を無視して出発してしまった。

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