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灰かぶりは王子様の手ではなく、魔法使いの弟子を選びました  作者: 海坂依里
第6章「灰かぶりと物語の終わり」
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第3話「待ち合わせ」

「フール様、もう大丈夫ですよ。アルバーノ様がいらっしゃると思うので」


 フール様との待ち時間は、とても穏やかで優しいものだった。

 まるで平和な世界に、私たちは生かされているんじゃないかって錯覚を起こしてしまうほど。それだけ、私たちが過ごした時間は凄く優しいものだった。


「……盛り上がるといいですね」

「お祭りではないので、そこまで盛り上がるかは……」


 今日は気温が低いらしくて、流れる空気が冷たく感じる。


「いってらっしゃい、エルミーユ」

「ありがとございます、フール様」


 フール様は、またしても華麗な魔法で一瞬にして姿を消してしまった。

 私が躊躇っているうちに、すべてが終わった。

 フール様とは明日明後日も普通に顔を合わせるのに、永遠の別れを経験してしまったかのように寂しく思えた。悲しくも思えた。

 フール様との関係が終わってしまったかのような喪失感が、ただただ辛かった。


(今は、アルバーノ様のことに集中しないといけないのに……)


 なんで、こんな終わり方をしてしまったのか。

 完全に言葉の返し方を間違えってしまったのは明白で、もっともっと返す言葉があったんじゃないかと後悔の気持ちが積もり続けていく。


(前までは、こんなに緊張しなかったのに)


 フール様と言葉を交わすと、頭に言葉が何も浮かんでこなくなってしまう。

 何をフール様に伝えたらいいのか、頭の中が思うように働いてくれない。

 頭が真っ白と言われれば、まさに今の自分の状況がそうかもしれない。


(お礼を言うことくらいしかできなかった……)


 こんな気持ちを抱えたままアルバーノ様と外出するなんて、一体どうなってしまうのかと不安が募る。

 さっさと気持ちを入れ替えてしまえば楽になれるのに、フール様の声と言葉と表情が私のことを引き止める。 


悪夢(ナイトメア)と対峙できるかもしれないのに、これじゃあ弟子失格……)


 男の人と外出するという経験は、フール様が与えてくれた。

 初めてのことではないのに、一度も人生を交えたことのないアルバーノ様との外出という領域に足を踏み入れるのは多くの勇気が必要。


(今は、フール様のことは考えない)


 私が逃がした悪夢は生きてくために、イシル以外の民を呪っているかもしれない。 

 そんな脅威が過るからこそ、フール様はフール様にできることをやり遂げようとしている。


(私も、私にできることを……)


 絶望的な状況に立たされているわけではない。

 魔法使い(私たち)魔法使いには、まだ希望がある。

 明日も明後日も笑顔でいられるような、そんな綺麗事のような希望が欲しいと思う。


「エルミーユ……だな?」

「アルバーノ様……」


 当主が一言命令すれば、護衛なしに外出することができるようになるらしい。


「今日は、お誘いいただきありがとうございます」


 私が知らないところで、監視の目はあるかもしれない。

 フール様の代理でやってきた魔法使いとやらが、監視の目を光らせているかもしれない。

 でも、周囲を警戒したところで気配は感じない。さすがは遠くからアルバーノ様を護衛している人々って、勝手な妄想を繰り広げていく。


「すまない、待たせたな」


 約束の場所には、十分前に到着するべきなのか。

 それとも、十五分前には到着しているべきなのか。

 そんな選択肢に頭を悩ませていたけど、アルバーノ様には何も通用しなかったのだと思い知らされる。


「お気遣いなく。集合の時間まで、まだ二十分もありますよ」

「いや、その……こちらこそ気を遣わせてしまって、すまない」


 アルバーノ様は慈善活動を行っていることもあって、とても物腰の柔らかい貴族で驚かされた。

 アルバーノ様の容姿が影響しているのもあるのかもしれないけど、世の女性が魅了されるだけのものをお持ちの方だと自覚する。

 緊張している相手()を、こんなにも安心させてしまうなんて、本当に素晴らしい人柄だと思う。


「髪型、可愛いな」


 普段はやらない、ちょっとした努力を真っ先に発見してくれるアルバーノ様。

 今日一日という時間を私に費やすなんて、とても勿体ないと思ってしまう。


「ありがとうございます、アルバーノ様」

「俺のためだって自惚れるのは失礼だが……嬉しいものだな」


 笑顔が素敵な男性なんていくらでもいるだろうけど、二人きりの外出という飾り言葉がつくだけで印象は変わるのかもしれない。


(アルバーノ様、こんなに柔らかい人だった……?)


 確かに、慈善活動を積極的に行うだけの人柄はお持ちだと思う。

 でも、舞踏会でお会いしたアルバーノ様は堅物……堅物は言い過ぎかもしれないけど、瞳を呪われてしまっているせいか周囲への気遣いが単調だったようにも思える。


(悪夢が関係してるのかな……)


 民らしく変装しているアルバーノ様に見惚れてしまいそうになるけれど、自分は自分でもっと外見に気を遣うべきだったという反省点が浮かんでくる。

 下働きのお洒落には限界があることを思い知らされる。


「エルミーユも気遣ってくれて、ありがとう」

「え?」

「待ち合わせ場所に、二十分も早く来る女性は珍しい」


 私が、こんなに早く到着できたのもフール様の気遣いあってこそだった。

 フール様が身支度の時間に物凄く気を遣ってくれたおかげで、時間に余裕があるという快挙を成し遂げることができた。


「待たせてしまうよりはいいと思って……」

「エルミーユに早く会うことができて、嬉しい」


 お礼を言ってくれるとことか、男性との外出に不慣れな私を気遣ってくれるような優しい笑みを見せてくれるアルバーノ様はやっぱり素敵だった。

 私がアルバーノ様の相手になることで、彼の人生を汚してしまうような気さえしてしまう。


(けど、アルバーノ様がくれる言葉が浮気っぽい……)


 私からアルバーノ様への気持ちがなければ、恐らく浮気にはならない。

 そんな風に自分を言い聞かせて、今日の外出への準備を整えていく。

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