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第7話「師匠と弟子」

「魔法使い失格だとしても、私にもう一度、チャンスをください」


 ゆっくりと、乱れかけていた呼吸を整えられるように努めていく。

 フール様は深い詫びから戻ってきて、頭を上げて私と視線を交えてくれた。


「……今回は、エルミーユが無事で良かったよ」


 再起のチャンスに関しての返答はもらえず、私はまた師匠に気遣ってもらった。

 弟子という存在は、いつまでも師匠に守られていくものなのかもしれない。


「フール様も無事でいられるように、早くお帰りください」

「はは……うん、ああ、そうだね……ごめんね、勝手に出てきて」


 優しい笑みは消えることがなく、フール様はいつだって私に安心感を与えようと気を遣ってくれる。


「私も……悪夢を助けてしまって、申し訳ございませんでした」


 フール様ばかりが謝ってしまう、この状況を嫌だと思った。

 確かに互いに反省すべきところはあるのかもしれないけど、それは各々が守るために選んだ行動。

 どちらか一方が悪い行いだったなんて、責めることはできないのかもしれない。


「こんなこと言うと、僕も師匠失格の烙印を押されそうだけど……」

「フール様……?」


 フール様は、どんなに体が苦しいと訴えても余裕ある笑みを保ち続けるのかもしれない。

 私の知っているお師匠様が戻ってきたことが、フール様が生きていることを確認できる何よりの証拠。

 でも、無理をしてまで余裕を保とうとするフール様を見ているのは辛い。


「生きているんだから、それでよし……そういうことにしたいな」


 悪夢に誘い出されたのは、私の方だったのか。

 それとも、フール様の方だったのか。

 それとも、私たち二人ともを狙っていたのか。

 二人が揃うタイミングを狙っても可笑しくなかったのに、優しい悪夢のおかげで私たちの命は救われた。


「だから、エルミーユも、僕も悪くないと……」

「フール様は、いつか損をしてしまいそうな性格をされていますね」

「たくさんの損を重ねてきたからこそ、いろんなことに対して敏感になるみたいだね」


 自分にフール様を叱る理由はない。

 結果良ければ、すべてよし。

 どこかで聞いた、そんな言葉に私も救われている。

 けれど、フールの言葉を完全に肯定することはできないから申し訳ない。


「下働きって言っても、同じ人間のはずなのにね」


 フール様のお姉様は、私と同じく下働きとして劣悪な環境で働いていた。

 出稼ぎをしていた私よりも、ポルダ家の給金は高いかもしれない。でも、下働きには限界がある。

 生活を良くしていくために高みを目指すことができず、未来に夢を見ることすらできない。


「私たちの魔法が、一人でも多くの人の救いになりますように」


 フール様の手を取って、自分の手中の中へと収める。

 私の熱を、フール様へと伝える。


「下働きとしての生き方を知っているからこそ、多くの笑顔に会いに行きましょう」


 優先順位を決めるというのは、思っていた以上に難しいことだった。

 私が悪夢に温情をかけたことで、多くの人たちは笑顔を失うことに繋がってしまうかもしれない。でも、私は戦う意志のない悪夢を守ることも優先させたい。


「エルミーユ」


 フール様と瞳を合わせる。

 すると、いつものフール様らしさが戻ってきたような気がして酷く安心した。

 泣き崩れたいくらい安心で心が満たされていくけれど、ここは泣く場面ではないから困ってしまう。


「もっと、自分のことを大切にして」


 言葉を返すことができない。

 ポルダ家を出た私は十分すぎるほどの幸せを得ているのに、もっと自分のことを大切にしたら罰が当たってしまいそうで怖い。


「そういう綺麗事ばかり言っていたら、フール様の心が死んでしまいます」


 こんなことを口にしても、私がやっていることも綺麗事に含まれてしまう。自分を否定することにもなってしまう。

 でも、これくらい言わなければ、恐らくフール様は私の気持ちを分かってくれない。


「魔法使い様こそ、自分のために生きるべきですよ」

「誰かを救うというのは、思っていた以上に難しいね」


 私は魔法の力で、民を救いたいと思っていた。

 灰かぶりと王子様が心の底から愛し合うことで、物語が救済されたときのような再現をしてみたかった。

 そういう単純な気持ちから、私の魔法使いの弟子生活は始まった。


「犠牲は、出したくない」

「私が言えたことではありませんが、フール様の意見には私も賛同いたします」

「犠牲のない救い……できたらいいね」


 犠牲者を出さずに物語を完結させるなんて、実際は不可能かもしれない。


「私たちなら、きっとできます」


 そんな不確かな未来への目標を述べた私に、フール様は希望ある笑みを与えてくれた。やっぱりフール様は、私のお師匠様なのだと思う。


「ん……」


 この場に、私たち以外の声が聞こえた。


「フール様、急いで隠れてください」


 イシルが、もうすぐで目覚める。

 アルバーノ様の最も近くにいるイシルにフール様が見つかってしまったら、アルバーノ様を救う手立てを失うことになる。私は急いで、フール様の背を押した。

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