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第1話「使命」

「魔法を使えるようになったばかりなのに、悪夢(ナイトメア)と対峙するなんて危険すぎます」

「サリアムなら、私を止めてくれるのではないかと思っていました」


 悪夢と遭遇しない限り、私たちは平和な世界を生きることができる。

 悪夢と遭遇するから、物語は可笑しな方向へと導かれていってしまう。


「これから平和に生きられなくなるのに、あなたは平然としすぎです」

「フール様に心配をかけるような自分からは卒業したいので」


 今日も私たちは、アルバーノ様が快適に暮らせるようにメイドとして城に仕える。

 私はいつも通り、窓拭きの業務。

 いつも通りを行っているところに、サリアムが話しかけてきてくれたという流れ。


「少しは人を頼ってくださいという話がしたいのですけどね……」

「……戦うことは、強制できないと。師匠は申しておりました」


 私の気持ちを見透かしているような、サリアムの気遣いにありがたさを感じる。

 一方で、メイド長として頂点に立つサリアムには、心を読み取る力が備わっているのではないか。そんなことを思ってしまうくらい、優しいところが心配になる。


「フール様は、エルミーユの才能に恋焦がれているのでしょうね」

「サリアムでも、冗談を言うのですね」

「冗談ではありませんよ」


 何を言っても聞かない私の態度を見て、サリアムは私の説得を諦めたらしい。

 一人の女性としての顔ではなく、メイド長のサリアムとしての顔を整えていく。


「男というのは、実に嫉妬深い生き物ですから」

「それは興味深い話です」


 楽しそうに笑ってくれる割に、向けてくれるサリアムの眼差しはとても真摯に思えた。


「才能があるというのは、大変な苦労を背負うということです」


 もっとサリアムと、お茶会を楽しんだときのような楽しい時間を過ごしたい。

 もっと女性同士ならではの会話をして、賑やかな時間を過ごしてみたい。

 下働きを続けていたら結ばれることのなかった縁に感謝しながら、私はサリアムに一礼をして作業へと戻った。


(ありがとうございます、サリアム)


 サリアムからもらった勇気を糧に。

 私にできることは、アルバーノ様に呪いをかけた悪夢をなんとかすること。

 退治できたら一番いいけれど、そこは無理する必要はないとフール様は言ってくれた。


(一人で突っ走らないで、必ず誰かを頼る……)


 悪夢は人々に呪いをもたらすだけでなく、人間の体を乗っ取ることもある。

 私を襲ってきた女性は、悪夢に憑りつかれていた典型的な例。悪夢に体を利用される前に対処することができた幸運な例でもある。


(誰かの体を乗っ取っている可能性が高いとは言うけど……)


 悪夢が直接、人を狙ってくる可能性も十分にある。でも、フール様が傍にいたせいか直々に手を下すという事態には至らなかった。


(手当たり次第に攻撃を仕掛けたら、私が捕まっちゃう……)


 そもそも、城で働いている全員に闇討ちのようなことを仕掛けたところで、たまたま巡り合った魔法使いに返り討ちに遭ってしまう可能性もある。

 自分の命を懸けてまで、あぶり出しのために手あたり次第、攻撃を仕掛けるという案は自然と却下されてしまう。


(私のお父様は……)


 悪夢と呼ばれるような不思議生命体と遭遇したことはないため、恐らく父に呪いをかけた悪夢も誰かの体を乗っ取って潜んでいる可能性が高い。


(お義母様か、お義姉様のどちらか……)


 父から愛情を注がれなくなったのは、父が再婚をしてから。

 だったら、家族の誰かしらが悪夢に体を乗っ取られていると考えるのが妥当。


(こんな風に、単純な推理なら楽なのに……)


 ポルダ家も十分な名家ではあるけど、アルバーノ様の城で働いている人の数は把握しきれないほど多い。

 この中から、アルバーノ様に呪いを仕掛けた人物を見つけ出すなんて、一生かけても見つからないのではないかとすら思えてきてしまう。


『そんなに険しい顔をしていると、怪しまれるよ』

「なっ!」


 考えごとに没頭しながらも、アルバーノ様が住んでいる城の窓を懸命に掃除していたはずだった。

 でも、突然、聞こえるはずのない声が聞こえてきて、私は手にしていた雑巾を床へと落としてしまった。


「フール様、どこに……」


 聞き覚えのある声が聞こえたからこそ振り返ったのに、そこには誰もいない。


『こっちだよ、エルミーユ』


 まるで怪奇現象に遭遇しているかのようで、驚きと恐怖で足が凍りつきそうになってしまった。


『窓硝子と通じて、声を飛ばしてる』


 窓硝子という言葉を受けて、私は師匠の声に引き寄せられるように窓へと視線を向けた。


『良かった、気づいてもらえて』


 磨いたばかりの窓硝子にフール様の姿が映ることはないけれど、優しい声が聞こえてきたことに安堵し、思わず窓硝子に飛び込んでしまいそうになった。


「魔法は、こういうことも可能にしてしまうのですね……」

『信じる気持ちは、不可能を可能にしてくれるということかな』


 一体、なんの魔法を組み合わせたら、遠くにいるフール様の声を飛ばすことができるのか。

 想像力豊かだと思って生きてきたけど、魔法の世界は想像では補い切れない展開を私に与えてくれる。

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