第6話「幸せ」
「早く運命の王子様を見つけて、エルミーユが幸せになってくれると、僕も安心して隠居生活を送ることができるんだけどね」
「……申し訳ございません、出来損ないの灰かぶりで……」
「ははっ、そういえば出会いは、物語の再現からだったね」
「無理矢理、物語に登場するお姫様になりました」
偽物の灰かぶりは王子様の手をとって幸せになることはできなかったけれど、フール様と日々を歩むことができたら今度こそ幸せになれるんじゃないかと展望が生まれていく。
「今度は……フール様も幸せになりましょう」
私の手を取って、その場に跪いているフール様。
それは魔法使いとしての態度ではなく、物語に登場する王子様のように思えてくる。
「エルミーユが、僕のことを心配してくれているのは十分伝わってる」
「だったら……」
「僕が、エルミーユの王子になれたら良かったのにね」
その言葉を告げたときだけ、フール様は寂しそうな表情を浮かべた。
いつも穏やかな笑みを絶やすことがないのに、そのときだけは笑顔を浮かべることができなかったのだと悟る。
「僕の命があるのは、アルバーノ様の意志が正常に働いているから」
アルバーノ様に呪いをかけた罪で、フール様が投獄されるという流れになっても可笑しくなかった。
「でも、エルミーユのお父様のように……」
「アルバーノ様が、フール様と過ごした日々の記憶を失ったら終わり」
「……うん、その通りだ。僕は国から追われることになり、最終的には処刑という流れになる」
絶望的な未来しか待っていないような言い回しをされるけど、私はその絶望すらも真正面から受け止める。
こんなときでもフール様は悲観的になることなく、真実だけを私に与え続けてくれる。
自分のことで精いっぱいのはずなのに、魔法使い様は弟子のことを懸命に支えてくれる。
「面倒だったら、投げ出してしまってもいいんだよ」
「フール様こそ、私の面倒を見ることを諦めてしまってもいいんですよ」
互いに互いを想っているからこその、最終確認。
繋ぎ合った手を離すのなら、今しかない。
そんな意志を確認し合うのが同時だったことが、私にとっては堪らなく嬉しい出来事だった。
「弟子には、優しくしていた方が得だと思います」
「参考にさせてもらうよ」
私たちが生きる世界には、悪夢と呼ばれる存在がいる。
悪夢は人々に呪いをかけていくことで、生き延びていく存在。
誰が、そんな設定を用意したのかと言われたら……神様なのかな?
神様に恨み言を述べてみたいけれど、その恨み言を述べる神様の存在すら見えてこないから困ってしまう。
「アルバーノ様に呪いをかけた悪夢を退治することが、僕の無実の証明に繋がる」
「はい、それは分かっているのですが……」
「まだ、自分の身を守るので精いっぱいだよね」
「はい……申し訳ございません……」
悪夢と呼ばれる存在が、私たちが生きる世界をめちゃくちゃにしている。
原因が分かっているからこそ、フール様を始めとする魔法使いたちが平和のために手を貸してくれた。
「城には、僕の味方がまだ残っている」
「でも、サリアムのように戦う力を持たない人も……」
「それは事実だよ。戦うことは強制できないから」
手を取られていただけだったけれど、その手を握られた。
より密着するかたちで、私はフール様の熱へと触れる。
「だから、戦う力を持つエルミーユの力を貸してほしい」
手を握り返して、可能な限り力を加える。
この手を離したくないですと気持ちを込める。
「喜んで」
私の言葉を受けたフール様は苦笑いを浮かべて、その選択を選んだ私が正しいのか分からないといった表情を返した。
だから私は、失礼を承知で言ってみた。
「私の幸せは、私を幸せにすると言ってくれた方が幸せになることです」
そうしたらフール様は、もっと困ったような表情を浮かべた。




