第7話「呪い」【フール視点】
リデアロッサナの宿屋に泊まることへの緊張感が解けたエルミーユが寝静まる頃。
城に残してきたアルバーノ様の様子を確認するために、宿屋の鏡に魔法をかける。
(アルバーノ様は無事、と……)
アルバーノ様は執務中で、エルミーユの義理の姉であるイシルは傍でおとなしくアルバーノ様を見守っていた。
イシルの表情は見たこともないくらい柔らかく綻んでいて、嬉しそうな笑みを浮かべてアルバーノ様を見つめていた。
「アルバーノ様っ、お茶を持ってきてもらいますね」
「ああ、助かる」
イシルが廊下で待機している侍女に話しかけるため、部屋を出て行った。
「イシル……俺の婚約者……」
瞼を下ろして、瞳を閉じるアルバーノ様。
頭を抱えて考えごとに集中するが、その表情は険しく苦しげに見える。
「すぐに持ってきてくれるそうです……アルバーノ様?」
侍女に用件を伝えたイシルが部屋に戻ってきて、アルバーノ様の顔を覗き込む。
顔を覗かれていることに気づいたアルバーノ様は、頭から手を離してイシルに視線を向けた。
「お体の調子が優れないのでは……」
「いや、大丈夫だ」
アルバーノ様は、顔を上げてイシルを見る。
(けど、イシルの顔は霧のような靄のようなものに包まれているはず……)
アルバーノ様は、妻となる彼女の顔を確認することができない。
「何かあったら声をかけてくださいね?」
「ああ、いつもすまないな」
「私に遠慮は無用ですよ」
アルバーノ様がイシルではなく、部屋に視線を向ける。
部屋を視界に入れると、視界は良好。
だが、部屋でおとなしく読書をしているイシルの顔を確認しようとすると、再びイシルの顔は霧のような靄のようなものに包まれてしまう。
(それが、アルバーノ様にかけられた呪い……)
イシルに気づかれないように、こっそりと頭を抱えるアルバーノ様。
彼女を幸せにしたい気持ちがあるからこそ、アルバーノ様はイシルに気づかれないように溜め息を零した。




