第4話「開花」
「あ、順調に魔法を開花させることができたね」
さっきまで水に浸かっていたはずの洗濯物を抱えた、お師匠様が登場。
光魔法か何かの魔法の力を借りた洗濯物は、お日様の力を借りたかのような見事な乾きを見せつけてくる。
「感動……は、しているんですけど、こんなにもあっさりと魔法を使うことができて驚いています……」
まるで、自ら魔法の才能を枯らしていたんじゃないかと思うほど。
始めから私は、魔法使いとして生きることができたんじゃないか。
そんな自惚れが生まれてくるほど、あっさりと魔法が使えたことに喜びと戸惑いが入り混じって心はほんの少し不安定。
「魔法の才能を開花させるのに一番重要なのは、信じる心だと言われているんだ」
「信じる心……」
大事そうな言葉を拾って、私はその言葉を復唱する。
「魔法なんて使えるわけがないっていう思い込みが、魔法を衰退させる原因らしい」
「あ……」
魔法を使用するのに、血筋が関係ないというのは有名な話。
でも、周囲が魔法の才に恵まれていない環境で育つことで、自分も魔法を使うことができないと思い込んでいくのかもしれない。
「エルミーユは純粋な人だから、意外とあっさりと開花させてしまうのかなと」
一目見ただけで、ふかふかだと分かる洗濯物の数々に囲まれた魔法使い様。
洗濯物に埋もれてしまいそうなほど量を片付けているのに、その洗濯物の隙間から見せてくれた笑顔に私の心は揺れ動いた。
「大人になればなるほど、考え方が凝り固まってくると言いますからな」
硝子工芸職人のおじさまが、水魔法と楽しそうに戯れている調理器具と食器を寂しそうな表情で見つめる。
「大人とか子どもとか、関係ないとは思うんですけどね……」
「いえいえ、無理ですよ! 硝子工芸に携わることができたら、それで十分ですから!」
「そうやって、自分を否定するのは良くないですよ」
魔法使い様と職人さんは、軽快に言葉を交わしていく。
「魔法使い様を見たら、誰だって自分を否定しなくなるんですって」
けれど職人さんは、自分には魔法を使うことができないと真っ向から否定する。
(これが、自分に限界を決めるということ……)
自分が諦めてしまったら、その時点で夢は叶わなくなる。
そんな言葉をどこかで聞いたことがあるけど、その言葉通りの事象が目の前で展開されていることに寂しさを感じる。
(でも、誰だって大きな力を目の当たりにしたら怯んでしまう……)
アルバーノ様に仕えている時点で、恐らく私が師事している魔法使い様は国の動かすほどの力を持っている。
そんな魔法使い様の力と、私の家事能力の魔法を比べることで、職人さんのように魔法の才を開花させること自体を諦める方は必ず出てくる。
(それが、魔法を衰退させている理由……)
豊かな表情で職人さんと言葉を交わす魔法使い様を、どうか独りにしないでくださいと神様に願いたくなる。
「人間が抱いている印象なんて、いつでも覆すことができると学びました」
「先入観を持つというのは、仕方がないことではあるんだけどね」
「でも、その先入観さえ崩すことができたら、魔法の世界はもっともっと活気づいていくのかもしれません!」
硝子工芸職人のおじさまが作業へと戻り、私と魔法使い様は談義を交わす。
けれど、熱意があるのは私だけ。
魔法使い様は、いつも、とても、落ち着いて私の言葉を受け止めてくれる。
「誰もがエルミーユのように、純粋で真っすぐな生き方ができると……魔法も滅びなかったのかもしれないね」
私のせいで暑くなり過ぎた空間を換気するために、窓を開けて風魔法を呼び込む魔法使い様。
労働後に吹き抜けていく春の風が気持ち良くて、一気に体力が回復していくのを感じる。
この風に乗って、すべての事情が良い方向に流れていけばいいのにと思わずにはいられない。
「これは、治癒魔法か何かですか」
「……ただの風、とは思わなかった?」
「とても元気になってきたので、風魔法と治癒魔法の組み合わせだったのかなという妄想です」
「恐ろしいくらいの成長を遂げているね」
私に対して《《恐ろしい》》という言葉をくれたけれど、魔法使い様の表情はとても爽やかで穏やかなものだった。
「下働きが長かったので、ああなったらいいな。こうなったらいいなっていう妄想を糧に生きてきたからかもしれません」
褒められるという行為とは、縁遠い人生だった。
下働きが働くのは生きていくために必要なことで、誰かに褒められるために働いているわけではない。
そんな生き方をしてきたからこそ、褒められるという行為に心がくすぐったさを感じていることに気づく。
「風を受けただけで、そこまで妄想できることが凄いんだよ」
「下働きをやっていて、初めて良かったなと思うことができました」
お母様が亡くなって、父が再婚をして、義理のお母様とお姉様と出会った。
その流れは自然なものと言えるのかもしれないけど、お父様は再婚相手を大事にするようになった。




