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灰かぶりは王子様の手ではなく、魔法使いの弟子を選びました  作者: 海坂依里
第3章「灰かぶりと魔法使いの弟子」
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第2話「機械人形」

「リデアロッサナは、魔法に頼らない都市だと聞いてはいましたが……」

「正確には滅んだ、かな」


 全身から力を抜きながら、魔法使い様は淡々と事実を語った。


「魔法を使うことができる方が、いなくなったということですか?」

「外部から人が来れば機械化も進まなかったかもしれないけど、そう簡単に魔法を使える人材も集まらないってこと」


 うさぎをモチーフにした機械人形は、律儀に会釈をしてテーブルから去っていく。


「機械人形を見るのは、初めてかな」


 魔法使い様の言葉を肯定するのと、うさぎ型機械人形にお礼を言うタイミングが重なり、私は機械人形に一礼するかたちとなった。

 うさぎ型機械人形は私の反応を見て、笑顔を返してくれた。


「魔法は、いずれ滅びゆく力」


 魔法の衰退は時の流れだから気にしていない。

 魔法使い様は、そんな素振りを見せる。


(自分で魔法の力を支えないといけないと自惚れていたけど、頼られないのも寂しい……)


 でも、魔法使い様が気丈に振る舞えば振る舞うほど、私の心は痛みを感じるようになっていく。


「あの……」


 自分が頼られないのなら、私は魔法使い様を頼りにしたいと思った。

 魔法が滅びゆくものだからこそ、私は最後まで魔法の力を信じていきたいと思った。


「どうかした?」

「いただいた片方のガラスの靴が……」

「もしかして粉々にでもされた?」

「魔法使い様は、心を読むことが?」

「僕はまったく。ただ、エルミーユのお姉様を見知っているからね」


 舞踏会の場も、アルバーノ様からの求婚の場も、すべては姉の醜態と称することができるのかもしれない。

 姉の本気を目の当たりにした魔法使い様には、姉の行動はすべてお見通しのようだった。


「もし良ければ、魔法で直してもえないでしょうか」


 魔法使い様が目を丸くしてる様子が視界に入ってしまって、少しの勇気を込めた申し出に心臓が速まった。

 けれど、言葉を止めてしまったら何も変わらないと思って、心臓を鼓舞するように自身の手を当てた。


「魔法を使うのに対価が必要ならお支払いします。私とお師匠様を繋げてくれる唯一を、私は失いたくなくて……!」


 魔法という力を残すために何ができるかなんて、今の私には知識も経験も発想もない。けれど、魔法があったってことを記憶しておくことならできると思った。


「頼ってくれて、ありがとう」


 もともと柔らかく笑う人だなという印象はあったけれど、より一層、朗らかに笑うお師匠様に見惚れてしまった。


「え、あ、お礼を言われるようなことは何も……」

「そのお召し物も、エルミーユの思い出が詰め込まれた大切な物なんだね」


 多くの人たちの手を借りて修繕された衣服を見下ろす瞬間、魔法使い様の寂しそうな苦しいそうな表情が視界に映った。

 魔法使い様は笑顔を浮かべているはずなのに、それは心からの笑顔ではないと気づいてしまった。


「明日、エルミーユを連れて行きたい場所があるんだけど」

「そんな……いちいち許可を取らなくても……」


 しんみりとした雰囲気になりかけたけれど、私の思考は一瞬にして現実へと戻ってきた。


「って、私たち、明日の仕事!」

「僕から、連絡を入れておくよ」


 リデアロッサナの宿屋に宿泊することになったけれど、宿屋に泊まるという経験に興奮度が高まった私は目が冴えてしまった。

 人々が体を休める時間帯になったというのに、私と魔法使い様は宿屋のゲストルームで言葉を交わし合いながら眠気を呼び込んでいた。


「魔法で一瞬にして眠らせることも可能だけど、なるべく人らしい生き方をした方がいいかなと」

「本当に申し訳ございません……」


 同性同士なら、二台のベッドが並ぶ部屋で布団を被りながらお喋りをすることも可能だと思った。けれど、そんな友人同士でやるような戯れができない。


「でも、あの……魔法使い様とお話しする時間は、とても心響くもので……とてもありがたいと思っております」

「まだ師匠と弟子らしいこと、できていないところが申し訳ないけどね」

「でも、楽しいです! とても」

「それは良かった」


 魔法使い様の言葉は、社交辞令というものに該当するのかもしれない。

 それでも、魔法使い様と過ごす穏やかな時間のおかげで、私は宿屋に泊まるという緊張感を拭い去ることができた。

 その日見た夢の内容を思い出せないくらい、私はぐっすりと眠りに就くことができた。


(私は、魔法を使うことができない)


 翌日、手の技術で物を作り上げる職人が多く住んでいるラクトセルと呼ばれる村を訪れた。

 数多くの丸太小屋が並んでいて、その丸太小屋で、それぞれの職人が作業を行っている。

 花は存在しないけれど、多くの木々の緑が視界いっぱいに広がる森のような村。


(それなのに、お師匠様は私を弟子に選んでくれた)


 知らない土地のため、私は魔法使い様の後を付いて行くことしかできない。

 迷子にならないようにと、幼い頃に両親が私の手を繋いでくれたことを思い出す。

 魔法使い様と手を繋ぎたい気持ちはあるのに、幼い子でもない私は手をさ迷わせてしまう。


(私は、私にできることをやらないと……)


 結局、手を繋ぐことができないで終わる。

 そう思ったのに、魔法使い様は手を繋ぎたいという私の気持ちを読んだ。


「迷わないように」

「……ありがとうございます」


 心を読む魔法を使うことができないと言っていたのに、こんなにも簡単に手を繋いでくれるなんて。魔法使い様のことを、ほんの少し狡いと思ってしまった。

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