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催眠の成果……⁈

　い、今何て？　私の聞き間違い？

　聞こえたのは、再び「好きだ」の言葉。

「え、ええっ？」

　どう言う事なの？！

　目の前にいるのは、蕩けるような笑顔をしたアルバン様。あ、ありえない。

　いつも仏頂面のアルヴァン様が……。

　アルバン様の手が私の方に伸びてきて、思わずビクッとしてしまう。

「驚かせちゃった？」

「ちょ、ちょっとだけ……」

　内心バクバクしていてちょっとどこの話ではない。

「髪、触っても良いかな」

「は、はい。どうぞ。ひぇっ」

　アルバンさんは、私の髪に触れると、くるくると長い指先に巻きつけて遊ばせる。

「あ、あの」

「ん？」

「お顔が、ち、近いです」

「ダメ？」

　敬語なしのアルバン様の破壊力……っ。

「ダメ、とかじゃないですけど…」

「じゃあいいね」

「あ、はい」

　……って、何？「はい」って何なの私？！

「髪長いから乾かすのにも時間がかかるんじゃない？」

「えっと、あまり気にしたことはありませんが、そうかも、しれないです」

　普段私と話したがらないアルバン様が、どんな顔をして話しているのだろうと思って、私は恐る恐るアルヴァン様を見上げた。

　何…で……。

　私を見つめるアルバン様の目線は、とても温かかった。まるでそう、いたのに大切な物を扱うような……。

　私の視線に気づいたのか、「うん？どうした？」

　と声をかけてくる。

　どうしたもこうしたも、距離近いし顔がいいし何これえええ。

　アルバン様は、右手で私の頬を包み込んだ。

「リリアナさんはかわいいね」

　ボンっと自分が真っ赤になったのがわかる。

　初めてアルバン様に呼ばれた私の名前は、何だかいつもと違く感じた。

　アルバン様の親指が、頬を優しく撫ぜる。

　男性からそんな甘い事をされたことのない私は、今の状況に耐えられずに手で目をガードしてしまう。

「ちょっと何この手」

　と、何だかムスッとするアルバン様。

「は、恥ずかしいです」

「恥ずかしい事なんてないでしょう？　かわいい顔見たいから手、どけて？」

　アルバン様が言わなそうなセリフランキング、上位を締めるワードを連発しているこの方はどなたでしょうか？

　指の隙間から覗く顔は、やっぱりアルバン様。

　溶かされるような目線から逃げる事なんて出来なくて、ゆっくりと手を取り払って下を向いた。

「ん、よく出来ました」

　と、頭をぽんぽんとされる。

「こ、子供扱いしないでくださいっ」

　ぎゃ〜なんて私はまた可愛げのない事を！

「ぷっ」

「……！」

　わ、笑ってらっしゃる。

「ふふ、やっぱりかわいいね」

「なっ……！」

　気づいた時には、頭に触れた柔らかい感触。

「なっ、何してるんですか？！」

「何ってキスだよ？　知らないの？」

「し、知ってますよ。キスくらいっ」

「ごめんごめん、そんなに拗ねないで」

　今度は反対側のほっぺにキスが落とされた。

「隙あり」

　くすくすと楽しそうに笑うアルバン様。

　優しい目に普段しないような言葉使い。もしかして、これが隠れた雪翔さんの本来の姿なの？

　アルバン様は、片手で私の頬をすりすりと摩りながら、満足そうに吐息をつくと反対の手を私の背中に回して、私を引き寄せる。

　私は、すっぽりと抱きしめられてしまった。

「はぁあ……、落ち着く」

　アルバン様は私の首筋に頭を埋め、深呼吸をする。

　吐息が当たってくすぐったい。

　アルバン様、すごく良い匂いがする。

「リリアナさん……俺は」

「え……？」

　アルバン様は、力無く私の方にもたれかかった。

「アルバン様？！」

　急に意識を失った、アルバン様が心配になったけど、すぐに静かに肩が動いている事を確認してホッとする。

　私は、冷静に今までの事を思い出して顔を真っ赤にした。

　だって、だってこんなの嘘みたいなんだもん。

　お義母様は、アルバン様が本当の感情を出せるようにって言ってたけど、これがほんとに雪翔さんの気持ちなの？

　もし実際に、アルバン様が私を愛してくれているのだとしたら、普段のあの氷のような表情に態度は何？

「あぁあ〜もうっ」

　考えても考えても分からない。答えを知っているアルバン様は、穏やかに寝息を立てている。

　私は寝室に戻って雪翔さんのブランケットをとってくると、そっと体にかけた。

「お休みなさい、アルバン様」

　一方の私は、ベッドに入ってからも甘いアルバン様が、永遠に再生されてしまう。

「うぁあああ、もうっ！！」

　悶々とし続けた私は、当然のごとく眠れなかったのだった。