第2話「歪む世界、揺れる記憶」
慧は、「忘れられた神域」へ向かう旅を続けていた。覚醒度が30%に達したことで体は以前より軽く、戦闘能力も向上している。しかし、そのたびに自分が人間らしさを失っていくような違和感を抱いていた。
「戦うことに迷いがなくなっている…いや、もっと正確に言えば、何も感じなくなっている」
敵を倒すたびに、彼の判断は合理的かつ冷徹になっていく。目の前の敵を排除することだけが最優先事項になりつつあるのだ。
「俺は…本当に俺のままでいられるのか?」
そんな不安を抱えながら、荒涼とした大地を進む中、突然、体内から機械的な音声が響いた。
「記録領域解放――過去のデータを確認しますか?」
慧は戸惑いつつも答えた。
「確認する」
視界が暗転し、まるで夢の中に引き込まれるような感覚を覚える。次に目を開けたとき、そこには見覚えのある場所が広がっていた。
「…これは、俺の実家?」
昭和の香りが残る古い日本家屋。慧が子供時代を過ごした記憶そのものだった。だが、どこか違和感がある。周囲には誰もおらず、すべてが不気味な静寂に包まれていた。
室内を歩き回っていると、慧の目に1枚の写真が飛び込んできた。それは幼い慧と、彼の両親が写った家族写真だった。しかし、その写真には慧が知らない人物が一人写っていた。
「…誰だ、この女の子?」
見覚えのない少女が慧の隣で楽しそうに笑っている。
「いや、待て…この子、どこかで…」
慧の頭に激しい痛みが走る。断片的な記憶がフラッシュバックのように蘇った。そこには、一緒に笑い合う慧と少女の姿があった。
「俺には…幼馴染がいたのか…?」
記憶がさらに深まり、彼はその少女の名前を思い出した。
「咲…そうだ、咲だ…!」
慧の幼馴染だった咲。彼女は病弱で長く外に出られなかったが、慧と二人で秘密基地を作ったり、星を眺めたりしながら、笑顔を絶やさずに過ごしていた。
咲は、いつも機械や星空の話をするのが好きだった。ある日、彼女は慧にこう言った。
「ねえ、慧くん。もしこの世界に星が歯車みたいに動く場所があったら…どんな感じだと思う?」
慧は笑いながら答えた。
「そんな世界があるなら、俺が一緒に連れて行ってやるよ」
しかし、その約束は果たされることなく、咲は命を落とした。慧は彼女を失った悲しみを忘れるために、咲との記憶を心の奥底に封じ込めてしまっていたのだ。
「俺がこんな世界に来たのは…咲の夢が関係しているのか?」
目の前に広がる「歯車でできた大地」と、咲が語った夢の世界。二つの記憶が交錯し、慧の胸に新たな疑問が湧き上がる。
「なぜ俺はこの世界に呼ばれたんだ?」
「この体が補完兵器と呼ばれる理由は何なんだ?」
目が覚めると、慧は再び異世界「カダステラ」の大地に立っていた。しかし、彼の中にはもう一つの目的が生まれていた。
「咲が見たかった世界の真実を知る…それが俺の使命だとしたら、確かめないといけない」
咲との記憶を取り戻した慧は、自分が転生した理由、そしてこの世界に隠された歪みの真相を追う決意を固める。しかし、彼を待ち受けているのはさらなる戦闘と、覚醒度の進行による人間性の喪失だった。
「俺が人間でいられるうちに…答えを見つけるしかない」
そう呟きながら、慧は再び歩き出した。