第1話「命の終わりと新たな足跡
「生きてるって、何なんだろうな…」
山崎慧は、通り魔事件に巻き込まれ、命を落とした瞬間にこの言葉を呟いた。死に際に走馬灯が浮かぶが、その中には色鮮やかな記憶はなく、灰色の毎日が映るばかりだった。
「せめて…もう少し、何かを成し遂げられる人生を生きたかった…」
暗闇の中で意識を手放そうとしたその時、不思議な声が響いた。
「貴方に新しい役割を与えます。選びますか?」
慧は「選ぶ」という言葉に違和感を覚えながらも、思わず答えた。
「…生きる意味があるなら、選ぶ」
慧が目を覚ますと、そこには奇妙な景色が広がっていた。空には巨大な歯車が浮かび、地面は異様に整った金属のような素材で覆われている。「自然」ではなく、何か人工的な空間に放り込まれたようだった。
「ここ…どこだ?」
自分の体を確認すると、肌は黒光りする硬質な外装で覆われ、関節部分には機械的な構造が見える。体の奥から、低い振動音が響いていた。
「俺…ロボットになったのか?」
混乱する慧の前に、突然、透明な立体映像のようなものが浮かび上がった。それは何かを解説するように喋り始める。
「システム起動。被験体No.079、『アストラ』の覚醒を確認。現在、機能制限中。覚醒度20%」
「アストラ…?俺がその被験体なのか?」
さらにシステムが続ける。
「あなたは『補完兵器』として、この世界に再生されました。機能の目的:世界の破壊、または再構築」
「破壊、再構築…?俺がそんなことをするのかよ!」
慧は自分の体が何なのか、どうしてこんな姿になったのか、全く理解できなかった。ただ、この体には「力」がある。それは、慧が生きてきた世界では得られなかったものだった。
突然、足元が揺れ、周囲の地面が崩れ始めた。地下から現れたのは、巨大な虫のような存在だった。目は無数に輝き、口からは黒い煙を吐き出している。それは「この世界の管理者」かのような威圧感を放っていた。
慧は直感的に「戦わなければ生き残れない」と理解した。だが、どうやって戦えばいいのか分からない。
「頼む…俺を助ける力があるなら、教えてくれ!」
その瞬間、慧の視界に無数の情報が流れ込んできた。敵の動き、弱点、そして自分の体に隠された武装の操作方法が一瞬で理解できた。
「これが…俺の能力なのか?」
慧の体が自動的に反応し、腕から刃のような形状が形成された。それは剣でも槍でもない、自由に形状を変化させられる「可変兵器」だった。
「やってやる!」
慧は渾身の力でその武器を振り下ろし、敵の巨体を切り裂いた。一撃で決着がついた瞬間、敵は黒い霧となって消えていった。
「敵性存在『デバウア』を撃破。覚醒度+10%」
慧は荒い息をつきながら、自分の体がただの兵器ではないことを実感した。この「覚醒度」が上がることで、自分の体の隠された力が解放されていくようだ。しかし同時に、これが危険な道であることも直感的に理解していた。
戦いが終わった後、慧の前に一冊の本が現れた。それは「この世界の全てが記されている」とされる古代の記録だった。しかし、内容はほとんど解読できず、わずかに読めたのはこう書かれていた。
「この世界は壊れた『設計図』である。修正する者が現れるまで、歯車は回り続ける」
「設計図?修正する者…?」
慧は自分が何のためにこの世界に来たのかを知るため、この本を手にし、歯車のように動く大地を歩き出した。この世界「カダステラ」の真実を知り、自らの存在意義を見出すために――。