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満州国で生まれたじいじ

作者: メロ

今、高齢で施設入所しているお爺ちゃんがいる。

我が家での呼び名は「じいじ」じいじは第二次世界大戦の前に満州で生まれた。


じいじのお父さんは満州警察の警察官。銃剣道の師範だったらしい。ところが、終戦間際に気の合わない上役と大喧嘩になり、さっさと満州鉄道に転職した武勇伝がある。後に、戦後の引き揚げの際、すでに警察官を辞めていたじいじの父と家族は引き揚げ列車に乗れたというから、先見性があったのか、運が良かったのか分からない。


じいじは満州での事をほとんど話してくれなかった。

話してくれたのは、小学校の頃、親の吸っていたタバコを持って来て、クラスメイト達の前で大人ぶって吸っていたら、

先生に物凄く怒られた事。そのくらいだ。



じいじが満州の事を話し出したのは、認知症になってからだ。それも発症して10年以上も経ってから。

多分、じいじの中では話したくない思い出で、墓まで持って行くつもりだったのだろう。



認知症が進んで、「じいじ、満州で産まれて子どもの頃いたんだよね?」

と、聞いた事で、じいじに話させてしまった。ストッパーが外れたのだと思う。


話した内容は一応平和な日本で生まれ育った日本人としては生々しい内容だったし、満州に興味を持つには十分だった。



じいじの話しを基にじいじの兄弟に話しを聞き、満州の同窓会の分厚い資料をじいじの家で見つけた。じいじは満州を忘れちゃいなかった。むしろ、その当時何が起こっていたのか、真剣に知りたがっていたんだと資料に沢山の赤線を引いてあるのを見て思った。


戦争当時、じいじは子どもだった。何も知らない子どもだった。家には中国人のお手伝いさんがいて、戸建てに住んでいた。官舎かもしれない。当時、日本の親族に送った家族写真も残っている。日の丸とハーケンクロイツのドイツの国旗をバックに写真館で撮ったものだ。兄弟は7人、終戦の日に一番下の弟が産まれた。


翌年の7月、引き揚げの時に周囲の人は弟を中国人に預かって貰う様にと強く勧める中、じいじは「俺が駄目だったら家を継ぐ者は居なくなる。絶対連れて帰る。」と言い張って、弟をおんぶしたそうだ。じいじの兄弟は女の子ばかりだから、じいじに何かあったら後継が無くなる事を長男として心配した上での事だと思う。じいじの弟は今でも「中国残留孤児にならなくて日本に帰れたのは兄さんのお陰だ。」と感謝している。



「偽満」ウエイマン。中国の人たちはかつて存在した「満州国」をそう呼んでいるそうだ。


でもじいじが生まれて暮らしていた満州国は「偽りの国」ではなかった。そこには生活をしていた人々がいて、泣いて笑って生き生きと生活をしていた。中国の人たちの為に尽くした記録もある。


終戦の年の5月、ソ連の参戦を想定して本土決戦を前提とした作戦計画が立案され、満州を捨て石にする計画を大本営と関東軍は決定していた。


じいじのいた満州はソ連侵攻の何ヶ月も前から捨て石にされる事が決まっていた。


終戦直前の8月13日午前2時、各機関長会議で「15歳以上65歳までの男子は、ソ連軍の新京(満州の首都)入城を遅らせる為にここで戦い、玉砕する。女、子ども、年寄りは足手まといなので、朝5時に駅に集合し、6時に出発する。行く先は不明である」と決まった。


じいじの家ではお産間近のじいじのお母さんがいたので、疎開は出来なかったのだろう。それで良かったと思う。ある列車責任者の証言によると青酸カリとスコップを持たされていたそうだから。


じいじの生まれ育った町は満州の公主嶺。じいじは

子どもだった。何も知らない子どもだった。











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