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ボーナスステージ

作者: 月待之翁

「ボーナスステージ、来ねぇかな。」


俺は小便をしながら小窓から差し込む光をぼーっと眺め思った。

齢40も越えて、日々自分に与えられた仕事だけをこなしてきたが故に彼女も趣味も友達もなく、休日は持て余した時間を消費するために過ごす工夫にだけ長けてしまった人生だった。


もちろん現状に不満があるわけではないが、自分が会社に捧げてきた時間が給料という対価で支払われ、それを使い自分を満たすこともできない自分に不満を持っているのだろうと感じることはできた。

そんな俺とは対照的に会社の20代の年下の女性社員なんかはいつも楽しそうだ。

極力会社の人間とは深いかかわりを持たない俺だが、彼女だけは天真爛漫でその思考も行動も危なっかしくて気にかけている。

その様相はまるで兄妹や親子のような感じなのかもしれない。まあ、彼女はそんなことも感じてはいないのだろうとは思うのだが。


俺は高卒で就職し、幾たびかの転職を経て今の会社に勤め20年。ここでの職歴と彼女の人生の大半以上はこの場所で過ごしてることになるのだが、そんな彼女の過ごしている時間と俺の過ごしてきた時間が同じ時間であるはずなのに、まったくもって同一の価値と感じることができなかった。


俺が彼女くらいの歳の頃は、それなりに遊んでいたとは思う。

カラオケや居酒屋、ボウリングにビリヤード。それなりに遊んでいた。

もちろん彼女もいた。一度の結婚も経験した。

元妻とは価値観の相違で違う道を進むことになってしまったが、その人生も間違いではなかったし後悔もしてはいないはずだ。


ただ、年下の女性社員の彼女と話していると自分の人生がいかに面白みのないものかということを突き付けられているような感じにさえなる。

彼女はとても生き生きしている。

生き生きと危ない橋を渡り、渡り切った先で雄たけびを上げているかのような、そんな印象さえ受けてしまう。


小便もとぎれとぎれ、歯切れの悪いテンポででている。そんなことさえ憎らしくなってきた。

精神的にも肉体的にも「歳を取る」ということを実感したくわないが、受け入れざるを得ない歳なのかと思いながらジッパーをあげた。


今ここで、自分の人生を変えるなら、何か一つ、一歩先に進めるようなものが欲しい。

彼女を通して俺が見てるのは「憧れ」と「後悔」なのではないだろうか?

年甲斐もなく憧れに身を焦がすことも、後悔に立ち向かう事も今となってはなかなか苦痛を伴うことになると思う。

恥と外聞をかなぐり捨てるにも会社で培われた社会性と孤独が育てた自尊心が邪魔をする。

何かを始めるということはとても労力を使う事なんだということは、頭でも経験でも理解しているし今の生活を代償にすることもできない。


だからこそ「ボーナスステージ」だ。

俺のなじみのある80年代のゲームのボーナスステージは、毎回同じタイミングで同じ秒数でやってきていた。

ボーナスステージは得点を稼げる。

最高だ。

そしてボーナスステージは次のステージへのモチベーションに繋がる。

そんなボーナスステージが俺は好きだった。


だが、人生にボーナスステージはない。

仮にそう感じる状況があっても、ボーナスステージがいつ始まったのか、いつ終わるのか。どのタイミングで来るのかなんてことは一切わからない。

むしろ終わってから気付くことさえある。


手を洗い終え、紙煙草をくわえ火をつけながら思う。

やはり人生にもボーナスステージは必要だな。と。


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