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アイアリス・レジェンド ~虹の女神と闇の王  作者: RIKO(リコ)
第三章 虚無の王宮 水晶の棺
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第11話 それぞれの思惑


 ― 鏡の中の少女 ― グラジア・リリース・グランパス ―


 黄金の髪に紫暗の瞳。燐とした美しさと強さを兼ねそえた王女、グランパス王国の華。

 だが、自室の大鏡の前で王女リリーは恨むような眼差しで、鏡の中の自分を見つめていた。


 ソード・リリーは完全な国民のヒロイン。

 それなのに、あの失態は何!

 マンプル……お父様からいただいた宝剣。お父様を私の元にひきつけておけるだけの価値をもった剣


 負けたくなかった……


 どうしようもない悔しさに、リリーは大鏡を割ってしまいたい衝動にかられた。と、その時、扉をたたく音がした。


「何? 今、忙しいんだけど!」


 扉を開かず、問いかける。


「男が城門で……どうしても殿下にお会いしたいと、引き下がりません」


 多少、うわずった衛兵の声


「男? 名前は?」

「ガルフ島の護衛官とだけ……」


 ガルフ島……まさか、あの黒装束の男?


「殿下に直接会って、約束の剣を献上するのだと申しておりますが……」


 剣? レイピアのことか……。だが、リリーは強い調子で拒絶した。


「そんな約束をした覚えはないわっ。門前払いにして、追い返して。しつこいなら牢に放りこんでもかまわない」


「それが、あの……」


 それが、できないから、ここに来てるんじゃないか。


「いえ、待って」


 リリーは鏡の中の自分をきりと見つめなおす。なぜ、あんな男を怖れる必要がある?


「下の部屋に通しておきなさい。そうね……1階の礼拝堂へ。あそこなら不測のこと態が起っても、誰にも知られず始末もできるし」


「お会いになるんですか」


「会います」


 あの男、只者ではなかった。牢に放りこむのは、もう一度、この目であの男の器量をはかってみてからでも遅くない。


*  *


 エターナル城の西、サライ村の野営地がある海岸。


 その砂浜をラピスは悠々とした足取りで歩いていた。肩にはお気に入りの自作の弓を抱えている。

 生まれた時から、目が見えなかった。だが、そのことに不便を感じたことはほとんどない。

 医者になるために両親を故郷の島に残し、グラン・パープルにやって来た。最初、師匠は、ラピスを弟子にすることを渋った。だが、“見えない症状”まで気づいてしまう、その能力を彼が知るには、そう長く時間はかからなかった。


 “この世のすべてが、俺の頭に浮かび上がってくるんだよ”


 さすがに、姿、形をあますところなく知ることはできなかった。だが、生命力が強いものほど、おおよその大きさや、位置、行動を知ることは容易かった。人、動物、植物。建物や橋でさえも、それらを建てたり、使ったりする人々の想い ― それが、善意、悪意に関わらず ― を感じることができれば、ラピスは察知することができた。

 けれども、極まれに、全く知ることのできない物に出くわすことがあるのだ。


 エターナル城。


 何も感じない。近づいて城壁に触れてみても、中身には、虚無の空間があるだけとしか思えない……だが、人はそれを白亜の城と誉めそやす。


 あの城には決して入るまい。

 ラピスは、そう心に決めていた。


 エターナル城が怖かった。


*  *


「ラピス、えらくご無沙汰だったじゃないか。もう、計画から抜けたのかと思っていたぜ」


 正面から近づいてくる声にラピスは笑顔を作る。この酒とタバコで荒れた声。サライ村のリーダー、スカーだな。


「仕事が忙しくてさ、この島は医者不足みたいで。あ、それとこの間はご免な。お前が悪いんだぞ、俺の患者を盗むから」


 スカーは、むっと眉をしかめたが、あえて平静を装ってみせた。


「その話はまた後だ。それより、お前に紹介したい奴がいるんだ」

「紹介?」

「ああ、新しい俺の参謀、BW(ブルーウォーター)だ」

 

「ラピス・ラズリ。スカーから話は聞きましたよ。医者で超一流の弓使い、しかも盲目とはね」


 BWが差し出した手。


 ラピスは、スカーの後ろに感じた気配に向かって“よろしく”と手を差し出そうとした。……が、

 お門違いの方向へ手を出すラピス。そして、次の瞬間、顔を強張らせて手を引いてしまった。


「ラピス、お前、どこ向いてる? BWはこっちだぞ」


 初めて見る彼のそんな姿にスカーは首を傾げた。


 このとてつもない引力は何だ? 大きな波に引き寄せられてるみたいな……それに、どこが頭で足で手なんだよ。いつもなら、はっきり感じることができるのに、こいつ、さっぱり、わけがわからない。


 まてよ、BW……って確か


「BW! レインボーへブンの欠片 ”紺碧の海”!」


「よくご存知で。では、改めて……よろしくお願いしますね」


 今度はラピスは、びっくりするほど、すんなりとBWと握手を交わすことができた。


 今はまるで普通の人間だ。この野郎、俺の態度を見て自分の気配を消しやがった。


「あんた、相当なくわせ者だな。あの単純明快なジャンとはえらい違いだ」


 そういえば、ジャンは触れなければ、力の強さを感じなかった。彼はレインボーへブンの欠片”大地”だというのに。こいつみたいに力を隠しているようにも思えないし……。


「彼にはリュカがついていますからね」

「俺は何にも言ってないぞ」

「不思議ですね。何となくあなたの考えが私に伝わってきますよ」

「気色悪い奴だなっ」

「あなただって、さっき私の中を覗こうとしたじゃありませんか。お互い様です」


「俺は少なくとも人間だ。お前らと一緒にすんな!」


 放っておくと、ラピスとBWの舌戦はどこまでもエスカレートしてゆきそうだ。スカーは聞いちゃおれんと、口をはさんできた。


「ラピス、弓の稽古をつけてくれるんだろ。例の計画の最終確認も兼ねて、みんなを俺の所へ集めてくれ」


 この腐った王国を覆してやる。ガルフ島で出来なかったことを、俺はやるんだ。

 これは、王に虐げられてきた、グラン・パープルの住民の挑戦、そして、俺の挑戦でもあるんだ。


 スカーの思いは強かった。



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