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アイアリス・レジェンド ~虹の女神と闇の王  作者: RIKO(リコ)
第三章 虚無の王宮 水晶の棺
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第8話 剣百合(ソード・リリー)


― グランパス王国に咲き誇る花、グラジア・リリース・グランパス

   “剣百合ソード・リリー”の名にかけて

  集えよ、勇敢なる戦士

  永遠なる居城エターナルにその勇士を刻めよ ―


 王宮の中庭に作られた競技場に軍楽隊の荘厳な合唱が響き渡る。会場の真上に特設されたバルコニーに現われるグランパス王と妃。そして、同時に王宮の扉が開き、近衛兵に守られながら、一頭の馬が登場する。


 金糸と銀糸で縁取られた鞍に跨っているのは、銀の鎖帷子―シルバーメイルに身をかためたグランパス王国の第一王女、“グラジア・リリース・グランパス”だった。

 齢16。腰まで伸びた金の髪を、三編みに束ねている。きりりとした眉と紫暗の瞳は王族の気位の高さを見せつけているようでもあったが、薔薇色に染まった頬にはまだ、少女のあどけなさが残っていた。


「ソード・リリー!」


 どっと沸き立った観客からの声が会場に響き渡る。その声に答えるかのように王女は携えた剣を鞘から引きぬき、空高く掲げ上げる。

 王女を迎えるため、競技場の中央に左右の列に分かれ、膝まづく参加者と随行者の中にタルク、リュカ、ジャン、ゴットフリーがいた。


「ソード・リリーって、誰だ? あの派手な馬に乗った女のことか」


 ジャンが声をあげると、前にいた参加者らしい男がしっと、それを諌めた。


「あの方は、この国の王女だ。だから、“女”よばわりはやめろ。人柄、容姿ともに素晴らしい方だが、ああ見えても、剣の腕は近衛隊の上層部の者と匹敵する。だから国民は彼女のことを尊敬の念をこめて、こう呼ぶんだ。“ソード・リリー(剣百合)と”


 王女リリーは馬を歩かせ、品を定めるように武芸大会の参加者を馬上から見下ろす。

 

 どれもこれも、毎年変わり映えもしない、がさつそうな男ばかり……武芸大会にもそろそろ飽きてきたわね


 口元からでそうな欠伸をどうにかこらえる。だが、目立ちすぎる一行を前にした瞬間、リリーの眠気は一気に消えうせた。


「お前たち、どこから来たの」


 馬上からいきなり声をかけられたタルクは、かなり緊張した面持ちで頭を垂れた。


「ガ、ガルフ島でございます」

「ガルフ島? 聞いたことないわね」


 がちがちに固まったタルクをかばうように後に追いやって、リュカが香るような笑顔で微笑む。


「このグラン・パープルよりはるか西の孤島ですわ。私たちは、島主のご子息の見聞の為、各島々を漫遊しております」


 まわりにいた荒くれの参加者たちは、


 畜生っ、あの大入道。あんな別嬪に守られやがって。


 リュカに触れられたタルクの腕にさえ嫉妬する。そんな雰囲気を感じとってか、リリーはむっと声を落としてリュカに問うた。


「お前、名前は?」


「私の後ろに控えておりますのが、護衛官のタルク。そして、その後が島主のご子息、ジャン・アスラン様」


 リュカの言葉に、ジャンは、何で僕が! と、とび色の目を見開いた。“ご子息はお前だろっ”と、後ろを振り向いたジャンは、にやりとほくそえむゴットフリーを見るなり、ちぇっと舌を鳴らした。


“詐欺師め……こいつ、何か悪巧みをしてやがるな”


 気持ちの上で、同調シンクロすることが多々あるのだ。ジャンとゴットフリーは。


「違う。聞いているのは、お前の名よっ」


 いらつく様子でリリーがリュカを指差す。今まで、剣百合 ― ソード・リリーと崇められていた自分を差し置いて、男たちの羨望の目を浴びるリュカが気にくわなくてたまらない。


「しがない召使でございます。私の名など王女様にお伝えするほどの価値もございません」


 言葉と裏腹に、リュカは王女を哀れむかのような声音を出す。そして、笑う。


「何て無礼な奴! 私の質問に答える必要がないとでも言うの」


 リリーは馬から飛び下りると、つかつかとリュカに元に歩み寄ってきた。


「王女を侮辱して、ただで済むと思うの。お前、見たところ少しも隙がない。何か武芸をたしなむのでしょう。ならば、私と勝負しなさいっ」


 “おい、おい、どうするんだよ。リュカの奴、王女に喧嘩、売りやがった”


 タルクは正面に立ちはだかるリリーの方を向いたまま、後に手をやり、ジャンをつつく。


「おもしろいから、やらせておけよ」


 小声で囁いたジャンの言葉は、残念ながら、タルクの予想通りだった。


 黒馬島でリュカはジャンの力が暴走するのを、制御したんだ。へたをすれば、ジャンよりもべらぼうな力を持っているんじゃないのか。これは、ヤバいぞ。


 タルクはあせった様子で、すがるように、ゴットフリーの方を見る。しかし、


「残念ながら、私は武芸はたしなみません。でも、もう一人の護衛官なら王女様のお相手にちょうどいいかと……」


 リュカの青い目が、ゴットフリーを見すえている。それに、導かれるように黒装束の男に目をやり、リリーは一瞬、戸惑いを見せた。目深にかぶった帽子のせいで、その表情は見てとれないが、他とは明らかに違う研ぎ澄まされた空気をまとっている。


それでも勝気な王女は声を荒げて宣言した。


「おもしろい。でも、私がその男に勝ったなら、お前には地面に土下座して非礼を謝ってもらう。覚悟していなさいっ」


 おおーっと、雄叫びが上がる中、黒い影が静かに腰をあげた。


「ゴットフリー、本気か? た、頼むから王女を殺さないでくれよ」


 あせって袖を引っ張るタルクの腕を、軽く振り解いて、ゴットフリーは笑う。


「さあ、興が乗れば、それもおもしろいかもな」

「おいっ、王族なんか殺したら、末代まで祟られるぞーー」


 タルクを完全に無視して、ゴットフリーは王宮の庭に特設された格闘場に進み出た。すでに王女は剣を身構え、戦闘の準備を終えている。


 ソード・リリー(剣百合)、その花言葉は“密会”そして、


 “武装完了”

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