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アイアリス・レジェンド ~虹の女神と闇の王  作者: RIKO(リコ)
第三章 虚無の王宮 水晶の棺
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第6話 晴天の霹靂

「ラピス、お前、ココって女の子を知らないか?」

「ああ、それなら……」


 だが、ジャンの問いに振り返ったラピスを遮って、ゴットフリーが声をあげた。


「スカーの話では、サライ村の女、子供は別の島においてきたらしいが」


「え、何で……」


「さあな。奴らもレインボーへブンを探しているようだったから、女、子供は邪魔だったんじゃないのか」


 ゴットフリーの言葉に、ラピスが顔をしかめる。どうして嘘をつくんだ? 実際に彼はスカーの隠れ家で、ココに会っているじゃないか。


 ジャンとココを今、ここで会わすことにゴットフリーは一抹の不安を抱いていた。


 火の玉山であの娘と別れた時、ジャンの心はひどく揺れていた。それが引き金になって、ジャンは前後の見境もなく、自分の力をすべてガルフ島に放出してしまったのかもしれないと。


 ゴットフリーはラピスに圧力をかけるかのように、低い声音で話を続ける。


「あの娘のことより、このグラン・パープルと王宮のことだ。地下に眠っているという、レインボーへブンの欠片の件も然りだが……その他にも何かがあるな……」


 その時、同時にあがったジャンとタルクの声。


「王宮の地下にレインボーへブンの欠片が眠ってるって!」


 ラピスは、彼らに邪魔されたゴットフリーの言葉に、ほっとした気分で言った。


「そーなんだ! ”女神アイアリスに分けられたレインボーへブンの七つの欠片。その一つがエターナル城の地下で眠っている。しかも、至極の宝物、水晶の棺に納められて” ……それは、グラン・パープルでは、“至福の島、レインボーへブンの伝説”と同じくらい有名な話だぜ」


「水晶の棺? 確かにレインボーへブンの水晶には邪悪を封じる力があるが、それを棺にするなんて、聞いたこともないぞ」


「……ジャン、お前、まるでレインボーへブンを知っているかのような口ぶりだな……」


 ラピスは、その瞬間、まさかっと表情を変える。


「ジャン……ジャン・アスラン! スカーの隠れ家で、ゴットフリーが言ってた、レインボーへブンの欠片、大地……ジャン・アスランってお前のことか!」


「うん。そうだよ」


 にこと微笑むジャンの顔。目が見えないラピスには、その顔や姿は想像にまかすしかなかったが、彼は手を伸ばすと、何かを探るかのようにジャンの頬に触れた。


 どうして、こんなにどきどきしてやがる。俺の心臓。


「なんてこった。形は人間なのに、お前にはとんでもない力が宿っている。……王宮の地下に眠る、もう一つの欠片をスカーが欲しがるわけが、やっとわかってきた」


 ゴットフリーが言う。


「だが、王宮の地下は“永遠の迷宮(エターナルラビリンス)”らしいな。あの頭脳派、スカーでさえも手をやくような……あいつは王宮の内部をどれほど知っているんだ」


「い、いや、スカーは王宮に入ったことはないと思う。警備は最強の近衛兵に守られてて、どんな大泥棒だって忍び込めやしない。あそこは特別な許可がない者は誰も入ることができない場所だ……」


「ラピス、お前はどうなんだ。スカーとはそれなりに親交があるようだったが」


 再び、自分に向けられたゴットフリーの言葉にラピスの心臓はまた、どきりと音を鳴らす。


 なんとなく放っておけなくて、スカーから、かばっちまったが、こいつ、鋭すぎるよ。


 ヤバい……どうにかして話題を変えなきゃ。


「そ、それはそうと、ゴットフリー、気分はどうだ。お前、食事もろくにとらずに倒れたって聞いてたが……」


 すると、ジャンが、


「一週間も寝込んでたわりには、元気に見えるが、それって……ゴットフリーが黒馬島のクロちゃんから、生きる力をもらったからなんだ。でも、そろそろ、その効力が切れるぞ。今のうちに栄養補給をしとかないと、また、ぶっ倒れる」


「そりゃ、大変だ。すぐに何か用意させないと」


 あせった様子でタルクが立ち上がる。だが、次の瞬間、彼は腰をぬかさんばかりに驚いた。


「食事なら、すぐにでも出せるわよ」


 開かれたドアからスープの香と共に、入ってきた笑顔の女性。


「ミ、リュカ? でも、何で……」

 

 腰まで伸びた白銀の巻き髪。吸い込まれそうに澄んだ青い瞳。ただ、以前のように薄汚れた少女ではなくて、リュカの肌は透き通るように白く輝いていた。そして、タルクを最も驚かせたことは……


 黒馬島では、ジャンより年下に見えたリュカが()()()()()()。今ではどう見ても、タルクやゴットフリーと同年輩としか思えない。


「リュカ、お前、何で大人になってるんだ!」


 青天の霹靂! その言葉しか、タルクの頭には浮かんではこなかった。


 一瞬、宿の空気が張り詰め、密になった。


 ゴットフリーの灰色の瞳が、訝しげにリュカに向けられている。やはりな……と、ジャンに移された意味ありげな視線。それを感じてか、ジャンはおどけるようにこう言った。


「ま、こういうのもあるってことだよ。でも、僕より大きくなるなんてずるいよな」


「こういうことが、あってたまるかっ」


 タルクは半ばヤケクソ気味で言い放った。


*  *


「ゴットフリーの目が覚めるのをずっと、待っていたの。ジャンが言うとおり、ちゃんと食事をとらないと、また寝込んでしまうわよ」


 香るような笑みを浮かべて、リュカがゴットフリーの横の机にパンとスープを運んできた。淡い水色のドレスから豊かな胸元が見え隠れしている。


 タルクは、なんだか頭がくらくらしてきた。あまりの理不尽さにジャンにこそっと、つぶやいてみる。


「おい、いきなり、あの美貌で()()()()か? ありゃ、ルール違反だろ。心の準備がちっともできてねえぞ」

「胸? お前、何でそんなに慌ててるんだ。ゴットフリーなんて、全然平気じゃん」

「あいつは、あーいう手練(てだ)れには慣れてるから……。もてる奴って本当に嫌だな」


 二人の会話を聞いていたラピスが、おもしろそうに口をはさむ。


「へえ、初耳だ。タルクって胸が大きいのが好きだったのか。残念! 俺も見たかったなあ。()()()()()!」 


 お前ら、からかうのも大概にしろよと、タルクが仏頂面で言う。


 すると、ゴットフリーの給仕を終えたリュカが、タルクの傍までやってきた。


「そういえば、町でこんなビラをもらったの。建国記念祭の本祭りまであと、二週間でしょ。その前に王宮で大きなイベントがあるみたいよ」


 うわっ、近くに来やがった。と、タルクは焦って目をぱちくりさせる。


 リュカが差し出したビラには、こう書かれていた。


  『王宮武芸大会』


「ああ、これか。僕らなんて出場しないかって勧誘までされちまった。タルクが“腕ずもう”で大暴れだったからな」

と、ジャン。


「おい、暴れたのはお前だろーが!」


 ジャンとタルクのじゃれ合いを眺めながら、ゴットフリーはくすりと笑みを浮べた。


 王宮武芸大会か……

 


 手にしたスープ用のスプーンを置くと、ラピスに問いかける。


「お前は特別な許可がないと、宮中には入れないと言っていたな。武芸大会の出場者ならどうなんだ。例えば、タルクが出るとして……その随行者であれば、許可はおりないのか」


「ゴットフリー、まさか武芸大会にかこつけて、王宮の地下を探るつもりなんじゃ」


「絶好の機会だとは思わないか」


 一瞬、口をつぐんでから、ラピスは、あはっと笑った。


「面白いことを考えるもんだ。王宮武芸大会は10日後だ。ならば、思いきり目だってゆけ。王族たちは珍しいもんには目がないぞ。特に……王妃がな。前の王妃が病気で死んで後妻に入った女なんだが、これが無類の派手好きって噂だ。うまくゆけば、王族、貴族とお近づきになれるぞ」


「ふぅん、目立った方がいいのか。それって僕たちの得意分野じゃん」


 ジャンが嬉しそうに、口を挟んできた。これで、思いきり好きなことができる。


「駄目だ! 人間離れしたことはやるな。それに、いるだけで十分目立つんだ。俺たちは」


 その背と同じ2メートルはあろうかと思われる長剣を背負った巨漢、タルク。輝く銀の髪と透き通るような白い肌、青い瞳。美貌の乙女に変身したリュカ……そして、極めつけはゴットフリー、陽光で紅く染まる髪の持ち主。存在感は抜群だ。


「何だよ、僕の出番はなしかよ」


 ジャンが頬を膨らませる。


「お前が暴れると、王宮をぶっ壊しかねないからな。大人しくしてればいいんだ。なあ、ゴットフリー」


「まあな」


 俺も目立つのはご免なんだが……


 窓の外にかすかに見えているエターナル城。栄華の象徴のような白亜の尖塔。

 それを見すえるゴットフリーの灰色の瞳は、タルクの台詞に気のない返事をしながらも、知略の光に溢れていた。


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