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第24話 その馬に乗るな

 大地の力を持つ少年、ジャン・アスラン。その足元が蒼く燃えていた。うなるような地響きが、下の方から聞こえてくる。


「お前ら、いつまで隠れている。いい加減に姿を現せ!」


 そう叫んだ瞬間、ザールの花園に無数の亀裂が走った。

 両の手を堅く握り締め、仁王立ちになって、ジャンは空を仰ぐ。


「黒馬島の大地よ。見てろよ、お前に巣食った膿を僕が、全部、絞り出してやる!!」


 うおおおおおおっ!!


 ジャンの叫びが、大地を震わせた。すると、地面の亀裂から沸き立つように土砂が溢れ出した。ぷちぷちと音をたてながら、ザールが栽培した花の根っこが引き裂かれてゆく。

 小麦色の髪は総毛立ち、とび色の瞳が黄金に輝いている。ジャンが両の手を地面につけると、蒼の光は一層強く輝き、地中の土塊を外に引きずり出し始めた。


*  *


「花園が沸き立っている……、土くれが沸騰してるみたいに」


 タルクは揺れる花園を目の当たりにして、眉根を寄せた。


 ジャンとうみ鬼灯ほおずきの間で、何かが起こっているんだ? あいつはいいとしても、心配なのはゴットフリー隊長だ。魔王? ……まさか、ザールの奴……。


 タルクは、ザールを睨めつけて言う。


「ザール、お前、隊長にあの化け物みたいな馬を仕向けたのかっ! まさか、隊長まであんな風に変えちまったんじゃないだろうな!」

「あれは白妖馬(はくようば)だ。あの馬の厩舎にあいつを閉じ込めたのは……わしが悪かった、だが、その後のことは、何も分からないんだ」

「嘘を言うな! あの馬は、お前が育てたんじゃないのか」

「違うっ! あれは、普通の栗毛の馬だった。紅の花園だ……あの花の香を嗅ぐうちにあの馬は、白妖馬に変化したんだ」

「どちらにしても同じだろっ、紅の花を育てたのは、お前なんだからっ!!」


 赤鬼の形相のタルクに、ザールはおどおどと手を差し出した。


「いったい、何の真似だ?」

「こ、これは、あいつ……ゴットフリーの親の遺品だ。わしが島主リリアから、預かっていた。こ、これをやる。だから、許してくれ!」


 親の遺品? 隊長の本当の親の……そんな話……初めて聞いた。タルクは、ザールに差し出された金のロケットを手にとり、その蓋を開けた。


「中身はどうした? 何も入っていないじゃないか」

「……写真が……あの男とよく似た写真が入っていたんだが……島主は多分、あいつの父だと」

「捨てたのか? 何で!?」

「……すまん、他で売るのに邪魔だと思って……」

「馬鹿野郎っ!!」


 瞬間、ザールの体は後ろに吹っ飛んでいた。本気で殴りつければ、タルクはザールを殺しかねない。力を抑えることができたのが、彼自身にも不思議なほどだった。


「だから、隊長はお前なんかの所へ行ったのか!」


 畜生! いつも自分の生い立ちを憂いていた。ああ見えても、あの人は繊細なんだぞ。


 タルクはザールが差し出した金のロケットを握り締めると、沸き立つ土砂の中へ駆け出した。蒼の光が最も眩く輝く場所……。


 そこにジャンと……ゴットフリーがいる!


*  *


 ジャンから追い立てられた紅の灯が、土の中から一つ二つと飛び出してくる。夜空につけられた紅の斑点は、炎馬の周りを囲みながらゴットフリーを闇に誘う。


「ゴットフリー、その馬に乗るんじゃないっ!」


 だが、ゴットフリーは、ジャンの方を振りかえりもせず、炎馬の元へ近づいてゆく。闇の王を背にする瞬間を待ちわびるかのように、炎馬の炎は更に強さを増してゆく。


 乗ってしまったら、お前は……もう、僕らの所へは戻ってこない。


 ジャンが、ゴットフリーの足を止めようと身を乗り出した時、


 ぐわんと

 風が声をあげた。


 そして、炎馬が突然、飛散した。


「タルクッ!!」


 ジャンは思わず笑みをこぼした。

 はあはあと息を荒げた大男が、ゴットフリーの前に仁王立ちになっていた。手には2メートル長の長剣を携えている。


「隊長! 目を覚ましてくれ!! あんたの器量は魔王になるためのもんじゃない」


 ぎろりと向けられた灰色の瞳に、タルクは一瞬、体をこおばらせたが、今まで、ゴットフリーに感じていた畏れの心は、今は微塵たりとも沸きあがってこなかった。


 いつもの隊長に睨まれたなら、俺は一歩たりとも動けないが……


  長剣の柄をタルクはぎゅっと握り締めた。


 ゴットフリーが黒剣を、ゆっくりと構え直した時、


「タルクっ、避けるんだっ!!」


 ジャンが声をあげるより早く、刃はタルクに飛んできた。

 鈍い金属音。タルクの長剣が、ゴットフリーの剣を間一髪で受け止めたのだ。力だけなら、タルクはるかにゴットフリーを越えている。だが、剣の早さ、確実に相手の急所を見極めてくる剣技には、勝てる自信は全くなかった。


 何て早さだ! それに隊長が持っている黒剣……あれには見覚えがあるぞ……まさかっ、黒馬亭で見た“闇馬刀(やみばとう)”か!?


 その一瞬の雑念が、タルクの視界からゴットフリーを消し去った。反射的によけた左肩から鮮血が飛び散った。痛みを感じる間もなく、次の一撃が飛んでくる。なんとか、かわしたもののタルクの額からは汗が玉となって湧き出していた。


 勝てないぞ……こりゃ。だが、負けたら俺たちは隊長を失ってしまう。一体、どうしろっていうんだ。


「タルクっ、上だっ!!」


 ジャンの声にタルクは長剣を頭上にかざす。通常ならば、長剣と闇馬刃がぶつかり合って火花が飛び散る場面なのだ。だが……


 きんっと、短く鳴った金属音に、タルクは唖然と手元に目をやった。どさりと後方に落ちた鋼の残骸が地面に食い込んでいる。

その切先を半分以上も失った剣は、もはや長剣と呼べるものではなかった。


  何て破壊力だ。俺の長剣をへし折るなんて……


 闇馬刃の向こう側でゴットフリーの灰色の瞳が鈍い光を放っている。横一文字に構えた剣が通るであろう軌道には、タルクの首があることは間違いなかった。


 畜生、ここまでか……。


 タルクは唇を噛みしめて、仕えたい一心で追いかけてきた自分の上官に目をやった。

 にやりと笑みを浮かべて、闇馬刃を振り上げる。殺戮と破壊の喜びだけが、今のゴットフリーを支配していた。その瞳にタルクはもはや獲物の一つとしか映ってはいない。

 タルクは諦めたように、短く息を吐いた。


どうせ、殺されるなら、元の隊長にやられたかったな。それならば、悔いも残らないだろうに……。


 闇馬刃を構えるゴットフリーの後で、タルクに蹴散らされた海の鬼灯がまた集結をし始めている。


  殺せ……殺せ……殺して早く闇に来い……。


 背後で滅びの歌を歌いながら、紅の灯はさらに巨大な炎馬を形どってゆく。


「止めるんだ、ゴットフリー! タルクを殺すなっ!!」


 ジャンが叫んだ。


「そんな事をしてしまったら、お前は一生、闇の中から這い上がれないぞ!!」



            


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