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第14話 残酷な戯れ

「隊長、追い払おうにもまた、西の山から黒い集団がやってくる。これでは、切りがない!」


 タルクは長剣の血を振り切りながら、テーブル上のゴットフリーに叫んだ。レストランの中は、蝙蝠の死骸で埋め尽くされていた。テーブルや椅子は破壊され、割れた食器が辺りに散乱していた。


「確かにな。それに……蝙蝠料理は食べてもうまくなさそうだ」


 苦い笑いを浮かべると、ゴットフリーはテーブルに積みあがった蝙蝠の屍骸に目をやった。その時だった。テーブルの下から伐折羅の声が聞こえた。


「ねえ、今度は頭をつぶさないで」

「伐折羅、出てくるな!」


 強く叱りつけると、ゴットフリーは伐折羅の手元を見た。あれは何だ? ゴットフリーは解せない顔で伐折羅の手元を見た。伐折羅の手が血で真っ赤に染まっている。


「……お前、手に怪我でもしたか。いや……そうではないな。その手の皿の中にあるものは何だ?」

「これ? 蝙蝠の目玉だよ。キレイでしょ? まるで宝石みたいに」


 皿には、ゴットフリーとタルクが斬った蝙蝠たちの頭が盛られていた。皿にたまった血の間からガラス玉のような目がいくつも、こちらを覗いている

 傍で様子を見ていたタルクは、異様な光景に眉をしかめる。だが、伐折羅は、透き通るような笑顔をゴットフリーに向けた。


「お願い。蝙蝠の目玉は、売るとお金になるんだ。だから、次のが来たらうまく頭だけ落として」

「蝙蝠の頭だけを落とせというのか?」

「ゴットフリー、うまくやって、あなたなら出来るでしょ」


 漆黒の瞳と、灰色の瞳が視線を交わし合う。伐折羅の瞳の中にある深い闇。それに触れた瞬間、ゴットフリーの心に好奇心と興味と、不思議な魅力が入り混じった奇妙な感情が芽生えだした。

 この少年はどうしてこんなに蝙蝠の目玉に執着するのだろうか。その笑顔は、どうしてこうも純真で、しかも残酷なのだろうか。


 ゴットフリーは、はは……と笑いながら剣を身構えた。血が沸き立つような興奮を感じた。おもしろかった。

 ならば、伐折羅の持った小さな皿では、集めきれない程多く殺してやろう。それも上手に首だけをはねて。


「わかった。だが、伐折羅……そこまで言うなら俺が落とした頭は一つ残らず集めろよ!」


 さて、どの軌道で蝙蝠たちの首をはねてやろうか。


 レストランが蝙蝠たちの処刑場と化してゆく。ゴットフリーの手によって。

 

 タルクは長剣を握り締めたまま、その場に立ち尽くしていた。


 残酷な戯れだ……ゴットフリー隊長らしくもない……


*  *


「だめだ、こう視界が悪いとらちがあかない!」


 群がってくる蝙蝠の群れを蹴散らして、ジャンは、テーブルから、壁、看板に飛び移り、レストランの屋根へ上った。身の軽さにおいてもこの少年は、人の常識をはるかに超えていた。

 だが、すぐに目に入った光景に声を荒げる。


「ゴットフリーっ! お前、何をやっているっ!」


 見上げたゴットフリーの眼差しは、ジャンでさえ、身震いするほど荒涼と凍り付いていた。


「邪魔をするな。今、狩りの真っ最中だ」

「馬鹿な! こんな小さな命を狩って何が楽しい!?」


 ジャンは、唇をかみしめると、目を細め西の山を凝視した。障害物がなければ、ジャンの目は千里も先を見とおせる。 


「蝙蝠たちは西の山の洞穴から、あふれ出している。きっと、真昼の夜のせいで混乱しているんだ。こいつらに敵意なんてない。だから、無駄な殺生はやめろ!」


 だが、ゴットフリーはジャンの言葉に耳を貸そうとはしない。


「死にたくなければ、さっさと逃げてゆけばいい。こいつらは、その選択肢を選ばずにやってくるんだ。向かってくる的を射落とす……それがなぜ、悪い?」


 そうこうしているうちにも、ゴットフリーの足元には蝙蝠の屍骸が積みあがってゆく。そして、彼が乗っているテーブルの下では、伐折羅がそれらの頭を喜喜として皿に盛っているのだ。


「止めろと言っているだろ!」


 開いたジャンの手が一瞬、蒼く輝いた。すると、ゴットフリーの剣めがけて近くにあった瓦礫が飛んできた。だが、彼は事も無げにそれらをたたき落す。


「小賢しい真似をするな! そんなに不満なら、サライ村でやったように俺の上に大石でも落せばいいだろう? 女神アイアリスのうっとうしい呪縛に縛られた、お前にそれができるのか? 俺が死ねばレインボーヘブンの虹の道標は消える。むしろ、その方が俺は楽なんだ!」


 皮肉な笑いを浮かべ、ゴットフリーは空の獲物に剣を突きつける。


「いい加減に目をさまさないか!」


 ジャンのとび色の瞳が黄金に輝き、小麦色の髪が褐色に燃えた。すると、地面の一角がゴットフリーが乗っているテーブルの下でむくむくと盛り上がりだした。バランスを失ったテーブルは大きく傾きだす。


「だめだ! ジャン、テーブルの下には伐折羅がいる!」


 タルクが叫んだ。ジャンの場所からは伐折羅の姿は完全に死角になっていた。


「伐折羅っ、来いっ!」


 テーブルから飛び降りたゴットフリーが、間一髪で伐折羅を引き寄せた。それでなければ、伐折羅は重いテーブルの下敷きになるところだったのだ。


「ジャン! 伐折羅を殺す気か? 無駄な殺生は止めろ言った、そのお前が!」


 レストランの屋根の上で、ジャンは激しく動揺した。ゴットフリーの腕にしがみつき、ただ、震えている伐折羅の姿は痛々しかった。


 伐折羅の事など少しも考えてはいなかった……


 しょんぼりと首をうなだれ、屋根の上に立ったまま、ジャンは身動きすらしない。

 一旦逃げた蝙蝠たちが、また舞い戻ってきた。微動だにしないジャンが心配になって、タルクはレストランの屋根の下に様子を見にいった。


「……ジャン、大丈夫か?」


 すると、ジャンはようやく顔をあげ、ゴットフリーに向かって言った。


「僕が行って、出て来れないように西の洞穴を閉じて来る。だから、戯れに蝙蝠たちを殺すのは止めてくれ」

「……西の山まで? かなりの距離だぞ」

「いいんだ。だから……僕の体を拾っといて」


 ふらりと傾いたジャンの体が、屋根の上から落ちてくる。ゴットフリーが叫んだ。


「タルクっ! ジャンを受けとめろ!」


 えっ、屋根から落ちてくるジャンを受けとめろって? タルクは、慌ててジャンの落下地点に突進する。

 そして、どさりという音とともに、ジャンを確保した。


「え……?」


 一瞬、きょとんと目を見開くタルク。ゴットフリーがあせった様子で駆けて来る。


「タルク、ジャンは?!」

「……」

「おいっ、何をぼうっと突っ立ってる?!」


 ゴットフリーに一喝されて、タルクの意識はやっとこの場にもどってきた。

 いつの間にか蝙蝠たちの姿は、一匹残らず消え去っている。


「タルク! どうしたの!?」


 おびただしく散らばった蝙蝠の残骸に怯えながら、テーブルの下からやっと出られた天喜は、タルク抱えられたジャンを見て驚きを隠せない。顔は(ろう)のように白かった。手はぶらんと垂れ下がり、全く生気を感じさせない。


「ジャンはどうなっちゃったの? さっきまであんなに元気だったのに……」

「この島に入る前から、具合が悪かったんだが……でも……」

「でも、じゃないでしょ。ジャンを早く黒馬亭に運んで!」


 ジャンの体が軽すぎたのだ。タルクとっては、子猫を抱く程度しか重さを感じない。


 こいつは本当に何者なんだ? 普通の人間ではない事は承知していたが、一山作ってしまう程のバケモノじみた力、隊長の黒剣を白銀に変えた力……そして、異様なこの軽さ。俺はこいつの素性を全く知らない。隊長もリュカもその事については何も語ろうとはしないんだ。 


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