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第11話 さらに闇へ

 駄目だ。こいつらに逆らうのは、絶対にまずい……。


 サームは愛想笑いを浮かべながら、ジャンに近づいていった。そして、彼の体の砂をぽんぽんと払いのけながら言った。


「お、お前ら、もう兄弟喧嘩は終わったんだろ。ほら、砂だらけじゃないか。うちに戻ってシャワーでもあびな。ちょうど、姪たちも戻ってきてる頃だし、食事もまだなんだろ?」


「は? 誰が兄弟だって?」


 サームは、ジャンの視線を避けるように俯いて、ゴットフリーの方を指差した。


「馬っ鹿じゃないの? 僕があんな冷血漢で、自惚れ屋で、融通がきかない奴と兄弟だって?」

「え……、じゃ、お前、あいつの部下なのか? にしては、態度がでかいし」

「うわっ、最悪なことを言いやがる。部下になんか死んでもなるものか」


 ジャンの暴言にたまりかねたのか、ゴットフリーが二人の前に歩みよって言った。


「ジャン、お前が死んでいるところを一度、見てみたいものだな。煮ても焼いても食えないというのは、お前の為にあるような言葉だ」


 陽光に照らされた紅い花園は今は、何ごともなかったかのように秋風に揺れている。只、きつい花の香の中にいるせいか、その中にいる誰もが妙に苛立った気分にさせられていた。


*  *


「黒馬亭に戻るぞ。その男の言うように体を洗った方がいい。姿だけでも人間らしくしておくんだな」


 ゴットフリーはそう言うと、元来た道をもどりだした。

 その後をジャンとリュカが追いかける。さらにその後をサームは戸惑いながらついていった。だが、ゴットフリーに完全に無視を決め込まれたザールの心中はおだやかではなかった。

 ザールは突然、すっとんきょうな大声で叫ぶ。


「ゴ、ゴットフリー警護隊長、お前って捨て子なんだってな!」


 酷く気まずい空気が花園に流れ出した。


「お前、何が言いたい?」


 振り返ったゴットフリーの視線を避けながら、ザールは言葉を続けた。


「わ、わしは持っているんだぞ。ガルフ島の当主リリア・フェルトから預かったお前の父の遺品を!お、お前は見たくないのか?お前の本当の親の物だぞ」


「何っ?」


「金細工のロケットだ。中にお前の父の写真が入っている。お前によく似ていると島主リリアも言っていたぞ」


 父……そんな者の存在を考えた事もなかった。だが、なぜ、リリアがこいつにその遺品を渡したんだ?


 ゴットフリーはそのまま、言葉を失ったように押し黙ってしまった。その様子を見つめて、ザールは小ずるい笑いをもらす。


「どうだ? 見たいだろう? 条件しだいなら、譲ってやってもいいんだぞ」


 一方、ゴットフリーと同じく、ジャンもザールの言葉に衝撃を受けていた。


 サライ村で別れた少女ココ。ココが見せてくれた銀のロケットには、ゴットフリーによく似た写真が入っていた……。捨て子だったココが持っていた、たった一枚の父の写真。まさか、あのロケットが二つあるなんて。だが、金と銀、それぞれを兄妹に手渡していたとしたら……それは、十分ありえることだ。


 ジャンとリュカだけが気付いていた。ロケットの中の人物は、ココの父であり、同時に、ゴットフリーの父であることを。ココとゴットフリーは()()だ。レインボーへブンの守護神アイアリスに残された一房の選ばれし者。


「あ、後から屋敷へこないか? 遺品は蔵の奥にしまいこんであるんでな、お前たちが食事をしている間に出しておくよ。……な、夜になったらもう一度訪ねて来い。島主リリアから聞いた話も色々とあるんだよ」


 猫なで声でささやくザールに、ジャンはひどい嫌悪感を覚えていた。


「ゴットフリー、行くんじゃない。あいつは怪し過ぎる」


 感情を押し殺しているのか、ジャンには無表情なゴットフリーの心は計りきれなかった。それでも、ザールを無視して再び歩き出したゴットフリーの後姿を見ていると、かすかにちりちりした痛みのような感覚が伝わってくる。


 ゴットフリーの心が揺れている……だめだ、彼をあの男の元に行かせては。


 その時、リュカがジャンの袖を強く引っぱった。


「笑っているよ、紅の花園が……」


 紅い花々が風に揺れる度、かさかさと花の囁きが聞こえてくる。ジャンはその声に耳をすませて思わず眉をしかめた。



  もっと、もっと暗い場所へ

  もっと、さらに闇の中へ

  滅びの王、誘えり



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