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アイアリス・レジェンド ~虹の女神と闇の王  作者: RIKO(リコ)
第一章 至福の島と七つの欠片
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第3話 出会い

 ココやラガーが住むサライ村の住民は、何年も前にガルフ島へ漂流してきた難民だ。ただ、島の近海では海賊等が横行し、ガルフ島は警護隊の力をもって外海から島を閉じ、治安を守り続けていた。

 そんな中で、サライ村の住民が入島を許されたことには特別の理由があった。


 ガルフ島の中心地、ゴッドパレスの南では活火山の火の玉山が噴煙をあげていた。長年の火山活動は、島の地盤を徐々に海面に押し下げていった。

 水没が進む島を持ちこらえさせるには、地質や地盤に詳しく、秀でた技術を身につけた者と、その下で働ける者たちが必要だった。スカーは正にその最適任者だったのだ。

 それ故、島主リリアは、サライの住民を島に受け入れた。だが、リリアは、彼らを奴隷のように扱い、居住区もサライ村に限定した。そして、サライの男たちはゴットパレスに連れてこられ、重労働を担わされていたのだった。


* * * 


 黒剣の鋭い切先が喉元を過ぎていった時、ココはこわごわ、目だけを動かしてその切先を見つめた。あと数ミリで、のどをかき切る位置に剣の刃がある。びくりと体を強張らせたココに、黒衣の警護隊長は小気味よさげに笑ってみせた。


「さて、どうして欲しい? このまま、首をかき切るか。それとも、心臓を一突きにするか」


 私、まだ、12歳だよ。なのに、もう死んじゃうの?


 けれども、

 何をどうしたって、この警護隊長からは逃れられそうにない。


 だが、ココが万事休すと唇を噛みしめた瞬間、足元が激しく揺れたのだ。


「な、何っ、地震?」


 風が吹いた。それから、砂塵がもうもうと舞いあがった。

 少女の視線を遮る砂煙。その視線の隙間から一筋の蒼の光が眩しく漏れ出している。


  大地が震え

  薄色の影が、まばたきする間に光となって

  人の形をとりはじめ、


 ― 小麦色の髪、快活そうなとび色の瞳、胸には透き通るような蒼い石のペンダント ―


  えっ、男の子?


 「おいこらっ、女の子を虐めるなんて、ほんっとうに、最低な奴だなっ」


  な、な、なにっ、この子、どこから沸いて出たの?


 ココは、大きな瞳をさらに大きく開いて、目の前に突然、現れた少年を見つめた。

 その視線に気づくと、少年は眩しげに目を細めた。晩夏の陽の光にココの紅い髪があざやかに煌めいている。


「誰だ! どこから現れた?」


 声を荒らげたゴットフリーを少年はきつい眼差しで睨めつける。


「僕? 僕はジャン。ジャン・アスラン」


 少年の瞳が黄金に輝く。


「馬鹿な! このガルフ島によそ者は入れないはずだ」

「はぁ? 何だよ、お前って、この島が自分の物だとでも思っているのか」


 黒衣の男の憤りをジャンは涼やかな目をして受け流す。


「でも、覚えとけ。これからは、好きなようにはさせない」

「何っ」

「だ・か・ら、ここの住民を傷つけるなっ!」


 この小僧……


「ふざけるな! その小ざかしい口を閉じろ!」


 危険を察知しそれを瞬時に抹殺する。その能力においても、ゴットフリーは尋常ではかった。

 咄嗟に黒剣に力を込める。それを間髪入れずに少年に向ける。


「おっと、挨拶もなしか」

「生意気な口を! お前っ、斬られたいのか!」

「やりたければ、勝手にどうぞ」


 逃げる気などまるでない相手。一瞬、ゴットフリーは虚をつかれた。

 だが、


「ならば、切り刻んでやる。この黒剣で!」


 容赦のない漆黒の刃が、宙を切り裂く。


「へえっ、警護隊長だっけ? 偉そうにしてるだけあって、けっこう剣も早いんだな」


 ひらりと身をひるがえし、少年に軽くかわされた黒剣の切っ先に、ゴットフリーは唖然として目をやった。


 ……俺の剣をかわした?


 ジャンは、にこりと笑うと、彼の背後で“大”冷や汗をかいているココに言った。


「お前、しっかり後ろに張り付いていないと斬られちまうぞ。あいつ、僕と同時にお前の首も狙ってやがる」


 黒い隊長を、ジャンはきりと睨みつける。

 目深にかぶった帽子の下に垣間見える灰色の瞳。震えさえ感じさせるほどのその眼光。今まで会ってきた、どの人間よりも研ぎ澄まされたその風貌。


「へえ……」


 思わずつぶやいた瞬間に、真正面に黒い刃が飛んできた。

 少年の胸にゴットフリーが振るった黒剣が食い込んでゆく。


 ”駄目っ、かわせないっ。今度こそ心臓を一突きだ!”


 ココは、ぎゅっと瞼を閉じを口を噛み締める。……が、その直前にジャンは右腕を伸ばし、手のひらを黒剣を制止させるかのように開いた。そして、あろうことか無造作にその刃を握り締めたのだ。

 止められた黒剣は、“ぴくり”とも動きはしない。それどころかジャンの手は傷つくどころか血の一滴さえも流れてはいなかった。


「馬鹿な! 素手でこの黒剣をつかまえるなんて!」


 少年は、驚く警護隊長の目前で、ただ笑みを浮かべている。


「……お前は化物か!」

「えっと、違う……と思うけど。僕はただの子供」

「ふざけるなっ、そんな子供がいてたまるかっ」


 二人の灰色の瞳ととび色の瞳が火花を散らした時……辺りの空気が急速に変わった。

「う~ん、……そうだな、ちょっとばかり、大地の恩恵を受けてるかもしれない」


 少年の足元から竜巻のような風が巻き起こった。

 地面から迸る眩い光。そして、小麦色の髪が雷に打たれたように総毛立った。


「ああっ、あれを見ろ!」


 そこに居合わせた全員が我が目を疑った。

 ゴットフリーの黒剣がジャンが握った切っ先から、電流の流れのように白銀に色を変えだしたのだ。


「黒剣が白銀に! そ、そんな馬鹿な!」


 根元までみるみる白銀に変わってゆく自分の愛剣をゴットフリーは、唖然として眺めた。


 こいつは、一体、何なんだ!


「あれっ、おっかしいの。お前の剣って本当はこっちの色だったのか。なぁんで黒に染めてんだよ?」


 握り締めた白刃の輝きに、ジャンは腑に落ちない表情をする。ところが突然、彼は自分の胸に目をやった。首からかけたペンダントが蒼い光を放ちだしている。


「封印がはずれる……?」


 ジャンは、戸惑い気味に視線をゴットフリーに移し、急に戦意を失ってしまったかのように握りしめていた彼の剣から手を離した。


 この男は……


 石の蒼い光が、燃え上がるようにジャンの体を覆っている。

 頭が真っ白になってゆく。駄目だ、よりによって、こんな時に!


 どんなに堪えてみても、もう、ほとばしる力を抑えきれそうにない。


「駄目だ、僕から離れて! そばにいないで」


 背中に張り付いていたココをどんと、後ろに突き飛ばしてから、ジャンは両の拳を硬くにぎりしめ、大声で叫んだ!


「うおおおおおおぉ!!!」

 

 蒼の光が炸裂した。正視できない程の眩しい光。それと共に、ジャンの足元の土が大音響をあげてせり上がってきた。それは、瓦礫の雨を撒き散らしながら、上へ上へと隆起し始める。


「これはっ? 地面があんなにも高く!」


 ゴットフリーは、降り注ぐ瓦礫の雨を手でさえぎりながら、目の前に盛り上がってゆく土の造形物を仰ぎ見た。


 警護隊の誰かが叫んだ。


「山? いや、まさか……」


 遠くから海鳴りの音がやけに、大きく響いてくる。

 その場にいたものは、誰も彼もが自分たちの目を疑いながら、高い塔のようにせり立った小山を見つめていた。


 信じられない。だが、あれは確かにあの小僧の足元から生まれだされた……。


 ぞくりとした視線を感じ、ゴットフリーは、小山の頂に立つ少年の方へ目をやった。サライ村の居住区の屋根をかるく越えた高さの頂の上で、ジャンは、放心したように彼らを見下ろしていた。



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