第4話 闇馬刀
「俺は、あの剣が欲しい」
ゴットフリーは、こともなげに言ってのける。
「と、とんでもない! 闇馬刀はこの島の宝剣だ。それに、あの天窓は祭壇だ。あの剣は天窓から出すわけにはゆかない」
「祭壇?」
「黒馬島の闇馬刀は、光をもって神剣となり、闇にあっては魔剣となる。それゆえ、夜明けに東から差す陽光をもって剣を清め、日没まで光にさらす。その間、あの剣は黒馬島の守り主となる。だが、闇は剣の魔性を呼び覚ます。日没とともに天窓は閉めねばならない。闇馬刀に闇を見せてはならない。もし、そんな事が起ころうものなら……」
― 剣は、黒馬島に必ず仇をなす ―
その時、天窓から入りこんでいた日の光が雲に遮られ、店の中が暗く翳った。
「なるほど……天窓は東を向いているな。だが、それほどの宝剣なら、なぜ、もっと然るべき場所に祭壇をつくらない?」
「さあな、うちの爺さんが、寺院から譲り受けたとは聞いているが……そこは燃えちまったらしい。寺の坊主が一日だけ天窓を閉めるのを忘れたんだそうだ。その夜、火口から沸きあがってきた御神体……炎の馬に導かれるように西の山が火を噴いて」
「炎馬が火山を噴火させたというのか……」
「闇の中を飛び散る西の山からの火の粉が、炎馬の後を追いかけるようについていったそうだ。そして、業火は村の大半を燃えつくした」
火山噴火……サームの言葉はゴットフリーに故郷、ガルフ島の火の玉山を思いおこさせた。
あの日食の日、火の玉山に集結した邪気の群れ、迫りくる海……そして噴火。ガルフ島は崩壊した。それゆえ、俺はレインボーへブンを探すのだ。第二の故郷を彼地に求めて。
一瞬、過去をさまよったゴットフリーの意識を呼び戻したのは、頭上から伝わってくる微かな振動だった。
天窓が揺れている?
雲が去り、翳っていた店の中に陽が差しこんできた。それがちょうど、ゴットフリーの頭上にさしかかった時、パリパリと乾いた音が響いてきた。
その瞬間、
空気が炸裂した!
「あっ!」
天喜が叫んだ。鋭い金属音。そして、光が飛散する。
天窓のガラスが砕け散ったのだ。そして、天窓の中の宝剣はガラスの欠片を突き抜けるように、ゴットフリーの頭上めがけてまっすぐに落ちてきた。
― 闇馬刀 ―
「隊長! 危ないっ!」
タルクは蒼白になって絶叫した。
だが、ゴットフリーは、目を見開き、天窓を見つめたまま微動だにしない。
その時、店の柱時計が正午を打った。太陽はちょうど天頂にあり、ガラスのなくたった天窓からは強い太陽光が差し込んできた。
ゴットフリーはかすかに首をかしげた風だった。だが、眩しすぎる陽光は一瞬、剣とゴットフリーの姿をかき消したのだ。
一気に貫かれた?
串刺しにされた?
天喜は、手で顔を覆い、タルクの横にぺたりと座り込んでしまった。
正午の時計の鐘が三つ目を打ち鳴らした時、黒馬島の宝剣、闇馬刀はぎらりとその身を輝かせながら、店の床に深く刃を突き立てていた。
* *
一方、丘の木の下で寝ていたジャンを背負って歩き出した中年男がたどり着いたのは、展望塔が正面にある黒い屋根瓦葺きの洋館だった。
かつては優美をきわめたであろう館は、今は古びて幽霊屋敷のように荒れ果てていた。館の隣には周りを高いトタン壁で囲われた敷地があった。男は注意深く辺りを見まわすと、敷地の入口の錠をはずし、扉を開ける。
そのとたん、つんと鼻をつく強い香りが流れてきた。男はジャンを背負ったまま、中へ入って行く。男の後をつけ、敷地に入りこんだリュカは、目前に広がる光景に思わず声をあげそうになった。
この場所は空気までが赤く染まって、何て芳しく、何ておぞましい……
リュカの腰のあたりまで丈を伸ばした未知の花々。
その場所は、見渡す限りの紅い花園。
花園の中央に一箇所だけ、土肌をさらけだして窪んだ場所があった。男はジャンをそこに無造作に放りこむとシャベルを手にとった。
「埋めなくちゃ、埋めなくちゃ」
男は喜々として、ジャンの上に土を盛り出す。
いったい、どういうつもり? あの男……
窪地が小山に変わると、男は満足げに微笑み、シャベルでぱたぱたと、小山の土を固めだした。
リュカは、その異様な光景を呆然と見守っている。
ジャンは埋められたって大丈夫……でも、ここはとても嫌な場所。ゴットフリーとタルクを探して、早くジャンを出してあげなきゃ。
だって、
この紅い花の香は……人の心を狂わせる。




