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アイアリス・レジェンド ~虹の女神と闇の王  作者: RIKO(リコ)
第一章 至福の島と七つの欠片
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第34話 虹の女神

 天空に浮かんだ虹の女神は、哀しげに地上を見下ろして言った。


“見殺しにした……と言われてしまえば、そうなのかもしれない。だが、私は躊躇ちゅうちょしました。レインボーヘブンを消した時、残した人々が海に沈む様を見て……そして、ほんの一瞬、欠片たちを消す時を遅らせてしまったのです。そのせいです、欠片たちが彼らの事を覚えているのは”


 すると、先ほどから彼らのやり取りを聞いていたゴットフリーがジャンを制止して言った。


「よく事情がつかめんが、お前があの伝説のアイアリスというのなら、一つ聞きたい事がある」


 アイアリスは薄く笑みを浮かべている。


「お前は、なぜ、レインボーヘブンを海に消した。至福の島を守る為だと! 島が消えた為に住民は散り散りになり、生活を失った。あのサライの住民がレインボーヘブンの末裔というのなら、五百年たった今でも、奴らは、流浪と民となって海をさまよっている。それが、女神と崇められたお前が選んだ道だったのか!」


 急に風が冷たくなった。アイアリスの青の瞳が哀しみに揺れた。


“ひどく不遜ふそんな事を言う……だが、レインボーヘブンは病んでいました。私には責任があったのです。至福の地を守り続けるという……”


「ふざけるな! お前が女神だとしても、命を好き勝手に奪う権利はない」


 アイアリスの声は急に気弱になり始めた。

 ジャンは言った。


「女神アイアリス。あなたはおそらく、気付いていたに違いない。レインボーヘブンを消したのは、間違いだったと……そして、願っていたのだ。レインボーヘブンが真の至福の島として生まれ変わる事を」


 虹の女神はジャンとゴットフリーを交互に見比べ、かすかに笑った。


“そこまで解っているのなら、私は話さなければならないでしょう……確かに五百年前、私は大きな過ちを犯しました……あの至福の島、レインボーヘブンが侵略者に汚される事が私には我慢ならなかったのです。レインボーヘブンの住民はすぐれた技術を持っていました。だが、彼らは平和に慣れ過ぎ、略奪者たちに抵抗する術を持たなかった”


 ゴットフリーが咎めるように言う。


「アイアリス、結局、お前は逃げたんだ。お前も女神というならば、困難を乗り越える術を住民に教えるべきではなかったのか」


 ゴットフリーの髪が紅く輝いた。普段は黒いゴットフリーの髪は陽光に照らされると紅に変わる。


“ゴットフリー、その紅い髪。それを見るにつけ私はつらくなる。お前は私が沈めた略奪者たちも同じ髪をしていた。お前は彼らの末裔……”


「なんだと? 今、何と言った?」


 ゴットフリーはぎょっとしたように、空を見上げた。


“彼らの恐怖の叫びに耐えきれず、私はその大半を鼠に変えました。それならば、声も聞こえず、また、人間でいるよりも身軽で生き長らえることもできるだろうと……”


「それは……うみ鬼灯ほおずき! ……何てことを! その鼠たちは紅い邪気となって、今だ、この世をさまよっているぞ」


 あの紅い灯は大地を恨んでいる。見捨てられた自分たちを嘆いている。それゆえ、出会う全ての物を破滅に導こうとする……。


 ジャンは思わず声を荒げた。


「今、解った。なぜ、僕が海を鬼灯に手を出せないか……それは、憐れみだ、心に刻みこまれた彼等の悲愴な最後の姿が、僕を呪縛しているからだ」


 アイアリスは消え入りそうな声でなおも言葉を続けた。


“しかし、私は略奪者たちを憎む反面、彼らの活力、団結力を羨ましく思っていたのです。もし、レインボーヘブンにあの力があったなら、どのような敵にも負ける事はないだろうと……だから、残した。彼らの中から一房だけの人間を……その子孫を。やがて、蘇るレインボーヘブンを総べる者として”


 ジャンは、傍にいるゴットフリーを無言で見やった。


 僕がこいつに惹かれるのは、そういう訳か、それだから、霧花はゴットフリーに剣を渡したんだ。盗賊たちの浮かばれない魂が海の鬼灯になったのだとしたら、そして、ゴットフリーがその盗賊の末裔であるならば、あの紅の灯がこの男に興味を持つは当たり前のことじゃないか。

 その時、ゴットフリーの紅い髪が風になびいた。ジャンはその横顔を見すえ、はっと目を見開く。


 紅い髪……そういえば、ココの髪も燃えるような紅。そして、ゴットフリーに似ているロケットの写真……


 アイアリスは言った。


 “ゴットフリー、お前は私が選んだ"レインボーヘブンの王"。だが、本性は海に沈んだ略奪者たちの長。それゆえ、あの剣はお前が持つと、闇の象徴である黒剣に変わるのです。黒剣は邪気を萎えさえ、闇の力を増大させる。だが、光ある領域では無力。お前がレインボーヘブンの王であるには、光と闇の二つの力が必要です」


「光と闇の力……?」


 ゴットフリーは、鋭い眼差しでアイアリスを睨めつけた。


“レインボーヘブンは至福の島。だが、それを守るには、時に闇の力が必要なのです。闇を従え、闇に飲み込まれない力。だが、ゴットフリー、お前は一歩間違えれば"闇の王"となる。レインボーヘブンを恐怖の島に変える王……。お前が望むのは幸福の島なのだろう? 光の力はお前を現世に留めてくれる。だから、お前は、お前の横にいるいしずえを連れ、彼の地に向かわねばなりません”


「俺の本性は闇で、その礎は光だというのか。そして、ここにいるジャンがレインボーヘブンの礎なのか」


 ゴットフリーは苦笑すると、ジャンを指差した。ジャンは、きりとゴットフリーを見すえて言った。


「僕はレインボーヘブンの大地だ。アイアリスに隠された欠片の一つ。BWも霧花……彼らもレインボーヘブンの欠片だったんだ」


 ゴットフリーは、しばらく声が出せなかった。だが……いきなり、絶叫した。


「ふざけるなっ! 人の運命をもて遊びやがって! それが女神のすることかっ!」


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