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アイアリス・レジェンド ~虹の女神と闇の王  作者: RIKO(リコ)
第三章 虚無の王宮 水晶の棺
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第25話 水晶の棺

「馬鹿なキャリバン。観客に向かってゆくなんて。私が見たいと言ったのは、あの男が血祭りにされる姿だったのに……」


 王宮のバルコニ-で、大暴れする怪物を見物しながら、王妃がため息をついた。


「でも、あの怪物が踏み潰して、王宮が観客たちの臓物で積め尽くされるのも、それはそれで愉快かしらね」


「何じゃ…何かおもしろい事でも、起こったのかあ」


 王妃の横で、ぐでぐでに酔いつぶれたグランパス王がつぶやく。


「ほほ……陛下を楽しませるほどのものでは、ありませんわ。それより、特別に取り寄せたこのお酒、お気に入りまして?」


 もっと、どうぞと、酌をする王妃に向けて、王は待ちきれない様子で酒杯を差し出した。


「ああ……、美味じゃ。こんなに上手い酒は今まで飲んだ事がない……。一体何という名の酒なのだ」


 とろんと眠そうな眼を王妃に向けて、堕落しきったグランパス王国の統治者はだらしない笑顔を作る。すると、


「天のお神酒……私どもはそう呼んでおります」


 王妃は、その問いに華やかに微笑みを浮かべ、それと正反対の陰湿な低くしゃがれた声でそう答えた。



*  *


 エターナル城の迷宮で、ゴットフリーとココは絶体絶命の運命に追い込まれていた。迷い込んだ尖塔の地下が上昇し始めたのだ。


「いったい、どこまで、上がるのっー!」


 猛スピードで上へ動く部屋の中でココが叫んだ。少女の体を抱え込みながら、ゴットフリーは上目づかいに天井を睨めつける。

 すると、明りのない尖塔の中に光が差しこんできた。その瞬間、狭くて暗い空間から二人は、突然、開放された。


 きゃやああああああっ!


 足元どころか、体を支えるものが全部消えてなくなってしまった。空が見える、町が見える。エターナル城が見えるーっ! 私たち、尖塔の最上階から外に放り出されたんだっ。


 駄目っ、もう助からないっ!


 ぐるぐると景色が回っている。後はもう落ちるだけ。ココは万事休すと目を閉じた。……が、


「おいっ、しっかりしろっ!」


 頭の上から聞えてきたその声に、ココはきょとんと目を見開いた。どうやら自分はまだ生きていて、それに落ちるはずの体までが空に浮いている。ばさばさと響いてくる羽音。え? これって……鳥?


「ぼうっとしていると本当に下に落とされてしまうぞ」


 人々の姿が、米粒くらいにしか見えない。怯えながらココは怖ず怖ずと声のした方向を見上げた。


「こ、これ、何?」


「天喜の白い鳥。レインボーヘブンの欠片 ”空”」


 純白の巨大な鳥の背の上から、ゴットフリーの声が響いてくる。というより、ココは、その鳥の背中の羽毛と彼の胸の下に挟まれて空を飛んでいるのだ。


「レインボーヘブンの欠片 ”空”?」


 レインボーヘブンの欠片にそんなモノまでいたのか。しかも《《鳥》》。驚くやら感心するやらで、ココは息をつく暇もない。二人を乗せた巨大な鳥は優美に羽を羽ばたかせ、尖塔のまわりを旋回している。


「もう一度、尖塔に降りてくれ」


 ココは、ゴットフリーの言葉にぎょっと目を見開いた。


「それ、この白い鳥に言ってるの。何で、また危ない場所に戻んなきゃいけないわけ。さっさと下に降りてしまおうよ」


 けれども、白い鳥はココを完全に無視して、ゴットフリーの命令に従う。尖塔の三角屋根のちょうど真下が、四角に切り開かれた大きな窓になっていた。ココとゴットフリーを上昇させた部屋はその位置で止まり、滑り台のように斜めに傾いて彼らを外へ放り出したのだ。

 上昇した部屋は、彼らを放り出した後、まっすぐに位置をもどしていた。白い鳥をその場所につけさせると、ゴットフリーは、尖塔に開かれた窓から再びその中へ入っていった。


「お前は来ないのか。それとも、その鳥の上から見える景色がお気に入りか」


「冗談じゃないわ、こんな所へ置いてゆかれてたまるもんですか!」


 結局、どこにいたって危ないんだから。それなら……と、ココはそそくさとゴットフリーの後を追った。

 あの鍵のついていない扉を開けると、目の前に別の部屋が見えてきた。


「多分、ここが尖塔の一番上だ」


 ゴットフリーの背に隠れるように、その部屋へ入ったココは、一瞬、目を瞬かせた。


 エターナル城の尖塔。その最上階は目を見張るまでの光の世界。


 尖塔の屋根に大きく開かれた天窓から差しこむ西日が、大理石の柱にはねかえり再び屋根にもどってゆく。幾重にも重なりあった光の反射が部屋全体を輝かせている。

 そして、部屋の中央に横たえられた無色透明な直方体。その氷のような冷たい輝きを目にした時、ゴットフリーは小さく口笛を吹いた。


「あれって、まさか……本当に?」


 ココの言葉に反応するでもなく、ゴットフリーは無言でその無色透明な箱に歩み寄っていった。


「伝説も時には真実を語るというわけか……しかし、王宮の地下というには、この場所は見晴らしがよすぎるな」


 水晶の棺。6番目のレインボーヘブンの欠片が眠る光の寝所。


 やはり、お前はいたんだな。エターナル城の迷宮の果てに。


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