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アイアリス・レジェンド ~虹の女神と闇の王  作者: RIKO(リコ)
第三章 虚無の王宮 水晶の棺
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第23話 王宮武芸大会 決勝戦


 王宮武芸大会 決勝戦。

 長剣のタルク VS テンペスト修道会、キャリバン!


 大歓声の渦の中で、タルクは仁王立ちで対戦相手の登場を待っていた。審判の呼び出しにもかかわらず、相手はいつまでたっても現れない。


「まさか、おじけづいて、途中棄権か」


 ざわざわと、観客たちが苛立ち始めるタイミングを見計らったように、城門の下から馬のひずめの音が鳴り響いてきた。

 馬上の男は鎖帷子くさりかたびらと盾で身を守り、切先に鍵爪のついた長槍ランスを手に携えて、ほとんど中世の騎士かと見紛う出で立ちだ。だが、顔はまだらに日焼け、体はひからびた魚のように痩せこけている。

 落ちつきなく動かす目玉は、どう見ても武芸大会の決勝戦まで勝ちあがる猛者とは思えなかった。


 なりの割には、貧相な顔だな。それに馬でお出ましとは、騎馬戦でもやろうっていうのか。


 渋い表情のタルクに、騎乗の挑戦者は嫌な笑いを浮べながら言った。


「俺の名はキャリバン。おらあ、天のお神酒を飲んじまった。その徳利とくりにかけて誓って、あのお方の忠義な家来になったんだ。だから、お前を倒さねばなんない。勝ったら、自由放免だ。忌まわしい術から、さよならだ」


「どうでもいいが、ひでぇ田舎訛りだな……わけのわからん口上を述べてないで、早く勝負しろ! 俺だって、こんな最低の武芸大会、とっとと、さよならしたい気分だよっ」

「待て、待て。お前も名を名乗らんか。失礼な奴」


 ああっ? 名を名乗れって? 騎士気取りも、いい加減にしろよ。タルクはまさに怒髪天を突く――鬼さながらの形相でキャリバンを睨みつけた。


「ガルフ島警護隊第一部隊、筆頭。長剣のタルク!!」

「へえ……」


 その一瞬の間をついて、キャリバンは馬の腹を蹴った。


 

「卑怯だぞっ、戦うなら、馬から降りろっ!」


 ジャンが叫んだ言葉は、巻き起こった歓声と激しくぶつかり合う鋼鉄の音に打ち消された。

 馬上から振り下ろされるランスが、頭の上から降ってくる。おまけに油断していると馬の蹄に蹴り上げられてしまいそうだ。どう考えても分が悪い。タルクは長剣を盾に防戦に努めるのが精一杯だった。


「こりゃ、愉快でたまらん。今度はあんたの服を肉ごとひきさいてやろうか」


 ランスの切先についた鍵爪が、びりっとタルクの衣服を引き裂いた。キャリバンは絡めとったタルクの袖を獲物を見せびらかすように掲げあげ、醜悪極まりない笑みを浮べた。


「勝手に言ってろっ! あいにく俺は人前で裸になる趣味は持ち合わせていないんだ!」


 うおおおっ! と雄叫びと共に、タルクの長剣がキャリバンのランスに振り下ろされた。鋭い金属音と共に、切断された長槍の片割れが宙を舞う。


「おう、たいした威力だなあ。でも、何本まで折れるかなあ」


 喜喜として馬上からタルクを見下ろし、キャリバンはあたふたと新しいランスを持って駆け寄ってきた小姓の方へ手を伸ばした。


「50本か。100本か。何本、折られたって替わりはいっぱい、あるからな」


*  *


「あんなの、ルール違反だろうがっ! 何であいつだけ、優遇されてんだよっ」


 ジャンはまくし立てるように叫んだ。だが、


「ここの武芸大会で、ルールなんて守る奴はいねえよ。楽しけりゃいいのさ。死ぬのが怖けりゃ早めに負けを認めればいい。それに、血がいっぱい流れるほど王族どもが喜ぶしな」


 リュカにまとわりついてきた男の一人が言った。肩にまわされた、その男の腕にもたれかかるようにリュカが笑う。


「だめだめ、タルクは負けを認めちゃあ。だって、賞金がかかってるんだもの。血をいっぱい流したってジャンが傷を閉じればいいのよ」


「リュカ……」


 ジャンは、愕然とその顔を見つめた。

 徐々に失われてゆく青い瞳の澄んだ光。だが、それとは裏腹に薔薇のような笑顔をふりまき、その美しさを増してゆく。


 お前は僕たちを見守ってくれてるんじゃなかったのか


 リュカは現し身……アイアリス……虹の女神の。


 ガルフ島でリュカが僕を訪ねて来た時に、それはもう分かっていたんだ。リュカは成長するほどに、女神アイアリスに近づいてゆく。そして、僕らがレインボーヘブンを見つけた時、お前は再び女神に還る。


 とっくに、ゴットフリーもそれに気付いているぞ。

 それなのに……

 お前は行きつく先をどこで間違えてしまったんだ!


*  *


 王宮武芸大会の最終決戦。競技場には、切り取られたおびただしい数のランスの残骸が散らばっている。


「すげえっ、37本目!」


 おどけながら、タルクに折れたランスの数を数えるキャリバンが憎らしくてたまらない。折っても、折っても小姓が新しいランスを奴に運んでくる。 小姓はくたくたに疲れるだろうが、敵は馬上で涼しげに笑っているのだ。


 まるでらちがあかない。このままじゃ堂々巡りの繰り返しだ。


 はあはあと息をきらして、タルクは長剣を再び構え直す。なんとか、あいつを馬の上から叩き落とせないか。畜生! ちっともいい考えが浮かばない。


 ゴットフリーなら……


 一瞬、浮かんだその名前を、タルクは打ち消すように頭を横に振る。駄目だ、奴に頼っていては。と、その時、


 黒い旋風が舞い上がった。


「何だっ、あの馬はっ!」


 会場を埋め尽くしていた観客が、一斉に声を荒げて叫んだ。


 王宮の中庭に突然現れた深い夜の底のような漆黒の馬。馬と呼ぶには神々し過ぎる、太い四肢を大地に踏みしめた堂々としたその姿。


「ゴットフリーの黒馬……」


 主がいないこの場所になぜ? ジャンは一瞬、我が目を疑った。だが、

 

  あいつ、随分、タルクのことを気にかけていたもんな。

 

“タルクに付いておけ。奴一人では、抱えきれないこ事態が起こるかもしれない”


 ゴットフリーのその言葉を思い出し、ジャンは、合点がいったように頷いた。


*  *

 

 ゴットフリーの黒馬……まさか俺を乗せてくれるってぇんじゃ?


 タルクの脳裏に、ふとそんな考えが浮かび上がった。だが、黒い瞳は冷たく自分を見すえている。とても、その背に乗せてくれそうもない。ただ、黒馬はタルクの後ろに四肢を広げ、戦況を見つめているだけなのだ。


「ななな……何だ? この馬……偉そうに。なな……何でこんなに俺は震えてるんだ」


 キャリバンは、揺れる体を止めることができなかった。それもそのはず、震えているのは自分ではなく、彼が腰にまたがった馬の方だったのだから。


「こらっ、あんな黒馬ごときに震えるんじゃないっ。動けっ、動くんだあ」


 どんなに鞭で打たれても、キャリバンの馬は金縛りにあったかのように、その場に立ち尽くしている。


 しめたっ! 今だっ。


 つかつかとキャリバンの馬に歩み寄り、タルクはその足をぐいとつかんだ。そして、ありったけの力でそれを引っ張った。


「お馬さんは、びびっちまって、もう戦うのは嫌だとよ。だから、もう、お前は下へ降りて来いっ」


 キャリバンが地面へ叩きつけられたのと、彼の馬が競技場の出口に向かって脱兎のごとく逃げていったのは、ほぼ同時のタイミングだった。


「さあて、やっと普通の勝負ができるようになったじゃないか。最後のランスを構えやがれ。俺がお前と一緒にそれをへし折ってやる!」


 タルクの長剣が蒼い光を放ち出した。そして、その光と入れ替わるように黒馬の姿が薄れていった。

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