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アイアリス・レジェンド ~虹の女神と闇の王  作者: RIKO(リコ)
第三章 虚無の王宮 水晶の棺
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第22話 鏡の中の剣

「ずい分、賑やかに騒いでいたな」


 幻惑の迷宮を抜け出したココは、 隣の鏡に映し出された黒装束の男を目にして、心底、胸をなでおろした。


 良かった。やっぱり待っていてくれたんだ。


「ゴットフリーのケチっ。声が聞こえてたんなら、助けてくれれば良かったのにっ」


 だが、ふくれっ面のココを無視して、ゴットフリーは淡々とした口調で言う。


「自分で居残ったんだから自己責任だろ。まあ、あの甘い香りに惑わされなかったことは誉めてやってもいいが……」


 というか、この娘、よく、あの“幻惑の迷宮”を抜け出てきたな。


 けれども、その思いは口に出さず、ゴットフリーは前方を指差した。


「その先が出口だ」

「本当? 良かったあ。やっと、ここから出れる!」


 鏡の向こうのココは満面の笑顔だった。しかし、次の瞬間、その表情は曇り顔に変わった。


「駄目。壁があって出られない……」

「何?」


 ココがいる側の迷宮の奥が軋み出したのは、その時だった。


「大変っ、鏡が割れる! ガラスが空から降ってくる」


 迷宮の奥から雪崩のように鏡の壁が崩れ出したのだ。

 ココは絶叫した。

 鏡の向こうにいるゴットフリーに助けを求め、思いきり壁をたたいてみても彼の側には行くことができない。


 やはり、そうは簡単に出してはくれないのかっ。


 天井から落ちるガラスの刃が、少女を串刺しにするのは、もう時間の問題だった。


 くそっ、こんな迷宮にやられてたまるかっ


 半ば、無意識にゴットフリーは叫び声をあげた。

 

 「闇馬刀やみばとうっ!」


 その瞬間、黒い閃光が湧き上がった。

 ゴットフリーとココの間にある鏡の壁の中で、その輝きは高速に照度を増してゆく。


 ええっ……剣? それも鏡の中に!


 ココは、唖然と目前の鏡の中に垂直に浮かび上がった一本の剣に視線を向けた。

その色は影のように暗く闇に沈んでいる。だが、刀身の先は北斗七星の破軍星(*注)のごとき光を放ち、切れ味は疑う余地もない。


 闇馬刀……光と闇の間から現われる剣。

 なるほどな、鏡の中はお前の範疇なのかもしれない。


 ゴットフリーはにやと笑った。それならば……


「闇馬刀っ、その鏡の内側から、このいまいましい壁を切裂いてしまえっ!」


 ぎらりとその刀身が主の声に反応した。

 その瞬間、空気が炸裂した。鋭い金属音と共に無数の破片が辺りに飛び散る。


「ゴキブリ娘、こっちへ来いっ!」


 いきなりぐいと引かれた腕の方向へココは迷いもなしに飛び込んでいった。


 「ゴットフリー、今度はこっちの部屋が壊れるっ!」


 崩壊の連鎖は止まらない。ゴットフリー側までもが大音響をたてて崩れ出したのだ。結合力を失ったガラスの欠片は、一瞬、空中をさ迷い、それから諦めたように急降下を始めた。


「出口へ進めっ!」


 有無を言わさず、ゴットフリーは、ココを間近に見えていた出口に向かって突き飛ばした。

 膨大なガラスの破片が土砂降りの雨になって降ってくる。

 ゴットフリーは間一髪でそれらをすり抜け、迷宮の出口へ倒れ込んだ。

 雷鳴のような轟音。

 それが地響きに変わった時、鏡の迷宮は完全に崩壊した。跡には光を失ったガラスの廃棄物が山をなして積みあがっていた。


*  *


 エターナル城の西に傾き出した太陽をタルクは手持ち無沙汰な様子で眺めていた。

 王宮武芸大会もBW(ブルーウォーター)との二回戦が終わった後は、とんとん拍子に勝ちあがってしまった。決勝戦の相手を決める別ブロックの対戦が終わるまではやることもない。


「あ~あ、待つっていうのは最大の時間の浪費だな」

「タルクが早く勝ちすぎるからだよ。もう、ちょっと手加減してやれば良かったのに」


 早く終わらせて、ゴットフリーを探しに行きたかったのに……


 不満げなタルクの様子にジャンが笑う。


「心配しなくても大丈夫」

「……」

「あいつが御陀仏おだぶつにでもなっていたら、僕にはすぐにわかるから」


 無邪気な笑顔でけっこう怖いことを言う。よくわからんが、こいつとゴットフリーは、時々、同調シンクロするらしい。


「姿が見えないが、リュカはどこへ行った?」

「誘いが多いらしくて、断るのに苦労してる」

「男にか」

「まあね」


 そりゃあ、あの美貌だから、色々な男に誘われるのも無理はないが……。


 タルクは、ジャンの言葉に顔をしかめた。断りながらも本当のところは笑顔をひけらかして媚びを売っている……そんな風に感じるのは俺だけか?


 無愛想だったけど、俺は前のリュカがけっこう好きだったんだ。


 そんなタルクの気持ちを表情から察したのか、ジャンは小さく息をついた。その時、別ブロックの競技場から大拍手が巻き起こった。興奮した様子の男がタルクの方に駆けて来る。


「そこの大入道、決勝の相手が決まったぞ! 決勝の相手は、()()()()()()()()()()()()()()()


「テンペスト? キャリバン? ふざけるのも大概にしろよ」


 憮然として立ちあがるタルクに向けてジャンが笑う。


「良かったな、タルク。対戦相手はまともそうな名前じゃないか。きっと真っ向勝負の一騎打ちができると思うぞ」


「お前、知らないんだろう。俺はリリア様の道楽に散々つき合わされたから、すぐに気づいたぞ。何かまともな相手だ! キャリバンっていうのはな……中世のロマンス劇に出てくる()()()()だ!」



*注:破軍星とは北斗七星の柄先の星 (おおぐま座η) をさす。 これを剣先に見立てて、その方向に向って戦うものは勝ち、逆らって戦うものは負けるとして吉凶を占った。 剣先星 (けんさきぼし) とも呼ぶ。


陰陽道の考えらしいですが、ゴットフリーの闇馬刀は凶刀に近いので、類似品……かも。

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