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アイアリス・レジェンド ~虹の女神と闇の王  作者: RIKO(リコ)
第三章 虚無の王宮 水晶の棺
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第19話 死にたくなければ近づくな

 エターナル城の地下、迷宮の入り口に備え付けられた2つの扉。ゴットフリーはその扉をココに選ばした。


「えーっ、私が扉を選ぶの?」

 

“遠慮しとく”と、言いかけてから、ココはその言葉をぐっと飲み込んだ。ゴットフリーの灰色の瞳が自分を見すえている。逆らうことなんて絶対無理。仕方なく、ココは、


「う~ん、こっち!」

 と、右の扉を指差した。


「理由は?」

「勘!」

「……」

「あっと、勘じゃない、勘じゃないから怒らないでっ。ほら、あんたが礼拝堂からの階段をひっぺがした時に言ってたでしょ。他の場所と違っているところはないか探せって。右の扉の真ん中に何かの模様があるよ。だから、そっちを選んだの」


 ココに冷たい一瞥をくれると、ゴットフリーは視線を右の扉に移した。埃と苔にまみれて見づらかったが、確かに手のひらほどの大きさで、何かの形が彫り込まれている。

 手でこすり、その形が現れた時、ゴットフリーはかすかに笑った。


「“ソード・リリー”か」

「え?」


「グラジオラスの花を知っているか。別名“ソード・リリー”または、“剣百合”とも言う」


 扉には名の由来どおり、剣状の花びらを開かせた“グラジオラス”の花が彫りこまれていたのだ。


「そして、その名で呼ばれる王女“ソード・リリー”はこのグラン・パープルの象徴のような存在だ」


 なら、右の扉で決まりじゃん。ココはゴットフリーの表情を伺うように、その顔を覗き込んだが、“いや、決めるのは左の扉も調べてからだ”と、彼は言った。


 用心深い奴。こいつを騙せる奴って、この世にいないような気がしてきた。だが、ココがため息をついた瞬間、


「ゴットフリー?」


 左の扉の前で、突然、ゴットフリーが膝から崩れ落ちるように倒れ込んだのだ。


「ゴットフリー、どうしたのっ」


 驚いて駆け寄るココ。  


 激しい痛みがゴットフリーに襲いかかっていた。肩口から胸にかけての電流が走るような衝撃。息を荒げ、苦し紛れに掴んだ襟もとがはだけた時、奥に見えた傷の跡に、ココは、あっと声をあげた。


 ひどい傷跡……それもあんなに紅く腫上がって……。


 ゴットフリーは激しく息をきらして、扉の前にうずくまっている。


 この傷が痛むほどに、俺はお前を思い出すと……

 伐折羅ばさら、これはお前の警告か!

 夜叉王、闇の行方はお前が誰より知っているか。


 ゴットフリーは、近くにいたココの腕に手を伸ばして声をあげた。


「俺を……この扉から、離してくれ。力が入らないんだ。少しでもいいから、遠ざけてくれ」


「扉ってこの左側の扉?」


 ココの問いに答えはなかった。大変なことになってるんじゃないの、これ。

 ココはなりふり構わず、ゴットフリーの体に手を回すと、彼の体を左の扉から右へと引きずっていった。


 胸元を押さえながら、ようやく顔をあげると、ゴットフリーは深く息をついた。痛みが徐々に消えてゆく。


「伐折羅……やり方が手荒すぎる。俺たちの行く方向を正してくれるのはあり難いが」


 “この先、その傷はあなたを相当、痛い目にあわすと思うよ”


 黒馬島でクロが言った言葉をしみじみと噛み締める。だが、伐折羅につけられた傷が自分の不利になるわけがない。

 思いなおすように立ち上がると、心配げに見つめるココにゴットフリーは言う。


「右の扉だ。お前の選択は正しかったようだな」

「左の扉は……?」


「死にたくなければ、近づくな」


 それが、夜叉王からの警告だ。


*  *


 右の扉のノブに手をかけ、ゴットフリーは軽く眉をしかめた。


「鍵がかかってる」

「鍵? ちょっと退いて」


 態度をがらりと変えて、ココが元気に前に進み出る。そして、ポケットから針金のような金属片を取り出した。鍵穴に入れて、わずかに2秒。


「はい! 開きました」


 ギィと開いた扉を背に、得意気に笑う。


「なるほど。さすがはプロといったところか」


 サライ村の泥棒娘。その名は伊達じゃなかったわけだ。


 最初は足手まといにしか思わなかったが、この娘、けっこう使えると、ゴットフリーは苦笑した。


「でも、こんな面倒くさい迷宮をグランパス王は、何のために作ったんだろ」

「達の悪いお遊びとしか思えない。きっと、意にそぐわない役人や罪人を放りこんで、彼らが迷い死んでゆくのを楽しんでいるんだ」

「えっ、それじゃ、レインボーヘブンの欠片は?」

「単なる呼び水かもな。迷宮に迷いこむ輩たちを集めるための」

「そんなのって、じゃ、私たちがここに来た意味がないじゃない!」

「かもしれない……と言っただけだ」


 それでも、この妙な胸騒ぎ……心に響いてくる無言の声


「ここに来た意味、その答はきっとある。この迷宮の果てのどこかに」


 ゴットフリーは、右の扉を開くと、その中に入って行った。ココは恐る恐る、その後を追った。

 だが、


「ゴットフリー、どこっ!」


 突然、消えてしまったその姿。ココは、自分が踏み込んだ場所を見渡して、一瞬、ぐらりと目がまわりそうな気分になった。


 あっちも、こっちも……私、私、私!


 鏡の部屋!



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