幕間 ~ 双子の記憶
黒馬亭の柱時計が午前0時を知らせる鐘の音を鳴らした。
ラピスが時計の方に目を向ける。ラピスは、双子の姉弟 ― 迦楼羅とグウィン ― に、彼らの母親に替わって、ゴットフリーと、その仲間たちの物語を聞かせてたのだが、
「さぁ、約束の午前0時を回った。今日の話はこれで終わりだ」
「ええっ、もっと話の続きを聞かせてよ。レインボーヘブンの6番目の欠片を探しに、エターナル城の迷宮に入っていったゴットフリーと母さんがどうなったかも知りたいし、王妃の正体も滅茶滅茶、気になる! ねぇ、グウィンもそう思うでしょ!」
迦楼羅はそう言って、横にいるグウィンに視線を向けた。すると、グウィンも、
「うん。それに、ラピスさんの目のことも……」
「俺の目?」
ゴットフリーに似た灰色の瞳をラピスに向けて、グウィンは言葉を続ける。
「だって、今のラピスさんは目が見えるのに、何で、昔はそうじゃなかったの? 誰がその目を直したの? 確かレインボーヘブンの欠片”大地”であるジャンは怪我を直す力を持っていたよね。ラピスさんはジャンに見えない目を直してもらったの? それに、見えなくてもこの世のすべてが分かっただなんて、その話だって信じられないよ。色々なことが謎だらけだ。このままじゃ、帰ったって先が気になって眠れやしない」
「あ~、でも、この話は長すぎて、とても一日じゃ最後まで話すのは無理だ」
ラピスは困り顔をした。その時、彼の傍にいた天喜が、助け舟を出してくれた。
「迦楼羅もグウィンも無理を言っちゃ駄目でしょ。ラピスだって忙しいのよ。午前0時までって約束したんだから、それをちゃんと守らなきゃ」
天喜は優しく、迦楼羅の頭に手を置いてそう諭した。ふくれっ面のままの迦楼羅を見て、ラピスは笑う。
「そんな顔をするなよ。話の続きはまた次の週末にしてやるから。俺だって、二人にはきちんとゴットフリーたちのたどってきた道を知ってほしいし」
天喜はまだ不満げな双子の背中をぽんと押して、彼らを急かせた。
「分ったなら、みんなの家まで送ってゆくから、さっさと用意しなさい」
* *
渋々、ラピスの提案を受け入れて、家への帰り道を歩く双子。二人の前を歩いている天喜とラピス。親しげに話を交わす彼らを見て、迦楼羅が言う。
「ねぇ、グイン、あの二人はなかなかお似合いだと思わない?」
「まぁね、でも、ラピスさんには、小さな子どもだっているし、奥さんには逃げられたって聞いたけど」
「あの変わった子どもの世話が嫌んなったんだろうけど、ラピスって、やたらに女の子にモテるから、奥さんが嫉妬したんじゃないの?」
「かもね」と頷くグウィンに、迦楼羅は人の悪い笑みを向けて言った。
「でも、天喜を見るラピスの目は、絶対に本命を見る目よ。天喜だって、まんざらでもなさそうじゃないの」
グウィンはそれには首を傾げ、
「僕が思うに、天喜には忘れられない人がいるんじゃないかなぁ」
「誰よ? ゴットフリーとか?」
「いや……、僕、うっすらと覚えているんだ。小さい時の記憶。天喜の家に大きな男の人がいて、よく抱いてくれたことを。すごく大きくて優しい手だった。顔の髭がこそばゆくてっさ」
「それって、タルクのこと?」
迦楼羅はしばらく考える。大きな男の人……そういわれてみれば、そんな人がいたかも。
「グウィンに言われて、私も色々と思い出してきたわよ! 私たちの家の近くにある”虹の丘”に、いつも黒い服を着た男の人がいたでしょう? 近寄りがたくて遠くから見ているだけで、顔はよく覚えていないけれど…… その人って…もしかしたら……」
迦楼羅はグウィンと顔を見合わせた。弟の方もその男のことを覚えているようだった。グウィンが言う。
「あれが、ゴットフリーさんだったのかな?」
「う~ん……でも、だとしたら、二人はどこへ行ってしまったの? その話もラピスは教えてくれるのかしら」
そうこうしているうちに、四人は双子の家の前までやって来た。ココが点けておいてくれた玄関燈の前で、
「じゃ、話の続きはまた来週の週末にな」
そう言って去ろうとするラピスを、迦楼羅が慌てて呼び止めた。彼にどうしても言っておきたいことがあったのだ。
「ラピス、一つだけお願いっ! 私、ゴットフリーと母さんが迷宮にあった二つの扉のどちらを選ぶか、ものすごく気になってるんだ。だから、次の話はそこから始めて」
笑って頷くラピス。その時の彼の緑青色の瞳は夜空に輝く星のように綺麗だった。
「おやすみなさ~い」
「おやすみなさい」
「また、来週、黒馬亭でな」
そう言って双子に手を振ると、ラピスは天喜と連れ立って、それぞれの家に帰って行った。




