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アイアリス・レジェンド ~虹の女神と闇の王  作者: RIKO(リコ)
第三章 虚無の王宮 水晶の棺
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第18話 ウォーター・ソード

「まずは、ほんの小手調べ!」


 BW(ブルーウォーター)は軽やかに微笑むと、ウォーター・ソードを振るい、宙に四角形を書きあげた。すると、その線の軌跡上に透明な膜が浮かび上がってきたではないか。

 タルクとBWの間を遮る、それは……水の壁。タルク側から、壁を通してみるBWの姿は、水壁のレンズで湾曲しさらに細長く、青ざめて、しかも屈強に思えた。


「もう、俺はこんなもんじゃ驚かねぇぞ! 変な技は、ジャンやリュカで見なれてるからな」


 大音響で叫びながら、長剣を水壁に振り下ろす。

 ぐわんっと壁が壊れた瞬間、無数の水滴が辺りに飛び散った。


「次はこっち!」


 BWは、ふわりと身をかわすと、ウォーター・ソードを左右、上下に振りきり、“Z”の文字を宙に書いた。


「一体、どういうつもりだっ。こんな柔な水壁で俺が倒せるとでも思ってんのか!」


 今度は自分の左右にできた水壁。それを叩き壊すと次は、後ろに。もう、振向くのも面倒臭く、タルクは長剣を後ろ向きのまま壁に突き刺した。

 はあはあと息を切らしながら、タルクはおびただしく舞いあがる、水の玉に目をやった。

 それらは、雨のように降り注ぐわけでもなく、かといって一気に落ちてくるわけでもない。壊された水壁から、ほとばしった水滴は激しく飛び散り、その後はシャボン玉のように、辺りにゆっくりと漂いだした。

 観客たちは、ざわざわと騒ぎだした。なぜなら、水滴は彼等の場所にまで、ふわふわと飛んでくるのだから。


「これは何かの幻術か」

「さわっても、大丈夫なの?」


 観客席と競技場のほぼ、全域に行き渡った水の玉。BWはウォーター・ソードを手にしたまま、目を閉じ、直立の姿勢で何かを読み取ろうとしている。


 観客席右10%、同じく左5%、出場者枠3%、随行者同じく3%、観客席下15%、トータル36%、ひどいな。この王宮の4割近くが異分子ですか。けれども、私の感じだと、この数字はもっと高くなるはずなんですが。


 ぶつぶつと、つぶやくBWに業を煮やして、タルクが叫ぶ。


「俺にやられた時の為に、念仏でも唱えてんのか! 怪しい技を使わんで、もっと真っ向、勝負してこいっ」


 最上段に構えた長剣をBW目掛けて、一気に振り下ろす。


「おっと、あせらないで下さいよ。まだ、“調査(サーチ)”中なのに」


 軽くウォーター・ソードを差し上げ、頭上ぎりぎりで長剣を受け止めるBW。

 この野郎っ、俺の剣をいとも簡単に止めやがる。

 タルクの額に汗が流れた。


 徐々に消えて行くBWが作り出した水滴。


 リュカがジャンにぽつりと言った。


「BWは、ここに巣食っている邪念の出所を探っているのよ。あたかもタルクと戦っているかのようなフリをして」

「この水滴を使って?」

「そう、彼は水から情報を得る術を知っている。飛ばした水滴は王宮中に広がって、レーダーのように、異分子を探りあてる」

「また、小難しい技を使うもんだなー」


 僕なら絶対使わないな。頭が痛くなりそうだと、ジャンは笑った。


「それより、タルクの長剣が……」


 残念そうに、リュカが言った。


「また、壊されちゃったわ」



*  *


 激しい水飛沫をあびながら、タルクは唖然と手元を見た。

真っ二つに裂かれた、自分の長剣、それも縦に! まるで、使用後の割り箸みたいに。


 畜生っ、一体、何なんだ。あの剣は!


 驚くタルクを見下すようにBWが笑う。


「ウォーター・ソードの切れ味はいかがです? いい形になったじゃありませんか。次からは二刀流にされてはどうですか」

「ふ、ふざけんなっ、せっかく作り直した長剣をこんな風にしやがって!」

「作り直した……? ああ、そうか。黒馬島でゴットフリーにへし折られたんでしたっけ」

「うるせえっ! その小賢しい口を閉じろっ!」


 タルクはなす術もない自分に対して、腹がたってたまらなくなった。

 

 情けねえっ、それでも、俺はゴットフリーの一の忠臣なんだぞ。誰が何と言おうとも!

 

 その時、突然、二つに裂かれたタルクの長剣が、蒼く輝きだしたのだ。そして、それは、みるみるうちに形を整え、裂かれた刃を復元しながら、元の姿にもどってゆくではないか。


 ジャンの力? これは……


 思わずジャンの方に視線を向けたタルク。だが、


「違う、違う。僕は何にもやってないぞ」


 ジャンは、ぶんぶんと手振りを添えながら、大きく首を横に振る。


 そういえば、黒馬島で首のない馬を斬った時も、俺の長剣は蒼い光を放ちやがった。だが、この剣はあれとは違う作り直した剣だ。ならば、この光は……力は……どこからきてるんだ。


 しきりに首をかしげるタルクを、BWは苦い笑いを浮べて見つめている。


 それは、タルク、あなた自身の力ですよ。ゴットフリーの役に立ちたいと強く願う心が、ジャンたちと行動を共にするうちに、あなたが“使う剣”にその力を芽生えさせた。


「とにかく、俺はもう誰にも負けないっ。それが、人間であろうがなかろうが!」


 タルクは、渾身の力をこめて長剣を振り下ろした。

 ごうっ! 空気が唸った。そして、巨大な光の刃は、迎え打ったBWのウォーター・ソードを粉々に拡散させた。

 

「そういうことなら、そろそろこの戦いも終わりにしましょうか」


 BWは、高く腕を空に掲げた。すると、飛び散った水滴が再び、集結しだした。それは、長く鞭のようにしなり、ぐるりと丸くタルクとBWの周りに軌道を描く。その瞬間、二人は巨大な水の玉の中に入りこんでしまった。


 呆気にとられて、競技場の中央に現われた水の玉を見つめる観客たち。


「大入道と青白い男は、あの水の玉の中でどうなっちまってるんだ?」


 水の玉は、無数の湾曲した光に覆われ、外から中はうかがい知ることができなかった。

 ざわざわと、ささやき合うが観客たちも、ジャンでさえも、なす術がない。


「リュカ~」


 助けを請うように、ジャンはリュカの名を呼んだ。だが、


「リュカ?」


 彼女は、言い寄ってきた見知らぬ男たちをあしらうのに忙しく、タルクとBWの戦いに、ほとんど興味をなくしてしまっているようだった。


*  *


 ちっ、これじゃ完全にこいつの手の中じゃないかよ。


 巨大な水の玉の中で、タルクは吐き捨てるように言った。


「おい、BW。俺をこんな所へ閉じ込めて、窒息死でもさせるつもりか」

「ご安心を。この中でもちゃんと呼吸はできますよ。まあ、そう怖い顔をしないで、たまにはゆっくり、お話でもしましょうよ」

「はあ? 今はゆっくりお話する時間じゃないだろ。俺たちゃ戦ってるんだぞ」

「いいんですよ。それより、この王宮にはあまりかかわり合わない方がいい。邪悪な影が多過ぎる」


 わかってらあ、そんなこと。


 タルクは、五月蝿げにBWを睨めつける。


「仕方ないだろ。ここの王宮の地下に眠っているという“レインボーヘブンの欠片”を俺たちは見つけなきゃならないんだから」

「それが、おかしいと言うんですよ。この王宮からはそんな気配は塵ほども感じない。あるのは、胸を詰まらせるような悪臭だけです。黒馬島でのことを思い出してごらんなさい。また、きっと何か達の悪い罠がある」

「またかよ……」

「そう。ゴットフリーを闇に獲られるのはもう、御免ですからね。それが何かが知りたくて、サーチをかけてみましたが、大元は結局わかりませんでした」


 BWの言葉にタルクは、思い当たる節があった。


「悪の大元……それは、多分……王妃だ。あの異様さは普通じゃなかった」

「王妃ですか……」

「さっき、バルコニーの下で見た表情は、とても人間とは思えなかった。……歪んでいるというか、とにかく気持ちが悪かった」

「なるほど。王妃がいるバルコニーまでは、私の水滴は流れてゆきませんでしたからね」


 わかりましたと、BWが答えたと同時にその足元が徐々にぼやけだした。


「勝ちはタルク、あなたに譲りますよ。まあ、せいぜい、がんばって最後まで勝ちあがってください」

「えっ、ちょ、ちょっと待てよ!」


 次の瞬間、BWの姿はかき消すように見えなくなり、タルクとBWを囲い込んでいた水の膜がぱちんと砕けちった。


「おいっ!」


 呆気にとられながら、叫ぶタルクの耳に響くBWの声。


 今回は、少しばかり、あなたの力を認めてあげますよ。それでも、まだまだ、私を差し置いて、ゴットフリーの右腕を名乗らせるわけにはゆきませんがね。


王宮武芸大会、第2回戦。


長剣のタルク VS 聖なる騎士(ホーリー)・カイラス(偽)


勝者、長剣のタルク!

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