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アイアリス・レジェンド ~虹の女神と闇の王  作者: RIKO(リコ)
第三章 虚無の王宮 水晶の棺
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第17話 生か死か~王宮武芸大会2回戦

「後ろに下がれっ! まだ、あいつは襲ってくるぞ!」


 足に絡みついた白蛇を振りほどき、ようやく溝の中から這い上がってきたゴットフリーがココを自分の後ろに押しやる。


「俺にしっかりつかまっていろ。絶対、離れるなっ!」


 白い大蛇の牙が迫る。ゴットフリーは闇馬刀やみばとうを身構えた。そして、高く剣を上にかざすと、空中に大きく十字を切った。


「シャドークロス! 闇の扉!」


 その瞬間、闇馬刀に斬られた空間が大きく十字に裂けたのだ。その切り口から吹き出す猛烈な旋風。


「何、これっ! 風に体が引きずり込まれるっ!」

「こらえろっ!『 闇の扉』があの怪物を吸い込んでしまうまでっ!」


 闇馬刀が輝きを増すにつれ、旋風はさらに強い力で、白い大蛇を空間の裂け目に吸い取ろうとする。

 ゴットフリーは吹き出る風に吸い込まれないように、ココに覆いかぶさり身を伏せた。

 一方、ココはゴットフリーの懐の中で、どきどき、どきどきと心臓を高鳴らせていた。


 怖いけど……なんか、これって……


 やがて、静寂がやってきた。空間の裂け目が完全に閉じたと同時に、闇馬刀も姿を消していた。白い大蛇はもとより、溝を埋めつくしていた白蛇も一つ残らず、そこに姿はなかった。


*  *


「あいつら全部、闇の扉の向こうへ引きずりこまれてしまったらしいな」


 ようやく、体勢を元にもどし、ゴットフリーがココに言う。


「お前、怪我はないか」

「……」


 また、心臓がどきんと波を打った。あんなに怖れていた灰色の瞳が、今は妙に頼もしい。


「何だ、今ごろ怖気づいたのか。レイピアを大蛇につきたてたほどの娘が」


 そう一言いったきり、ぷいっとそっぽを向いてしまったゴットフリー。


 ちぇっ、やっぱり、元の警護隊長じゃん。


 舞い上がった気持ちを急に鎮められ、ココはむっつりと黙りこんでしまった。

 だが、ゴットフリーは、


 あの状況で、咄嗟に大蛇にレイピアを突き刺すとは……それも、急所を的確に貫いて。おもしろい。この娘、磨けば、けっこうな剣の使い手になれるかもしれない。


 俯きながら小気味よさげに笑い、そして射るような眼差しをココに向けた。


「さあ、迷宮の扉を開く時が来た。もう戻ることは許されない。ゴキブリ娘、この迷宮を探りたくてエターナル城に忍び込んできたんだろう。お前はどちらの扉を選びたい?」


 岩盤に備え付けられた2つの扉。



「生か死か……お前にそれを選ぶ勇気はあるのか」



*  *


 エターナル城の王宮武芸大会の控え場で、ジャンはタルクの帰りを待っていた。タルクは、1回戦での彼の勝利に感激した王妃から呼び出され、控え場を離れていったのだ。

 やがて、タルクの姿が控え場に現れた。ジャンは、急いでその元に駆け寄っていった。


「どうだった? 王妃からのご褒美は」


 むっつりと押し黙ったまま、タルクは王妃からもらった指輪をジャンに差し出した。


「うわっ、ケバい指輪。そんなのタルクに似合わないぞ」

「誰がつけるか。とっとと売っ払っちまうよ。ただ、あの王妃……」


 苦々しげに口元を歪めたタルクを見て、ジャンは、ん? と顔をしかめる。


「王妃がどうかしたのか」

「……普通の人間じゃない」

「えっ!」


 その時だった。


「タルク、そろそろ、次の対戦が始まるわよ」

 リュカが呼ぶ声がした。



 王宮武芸大会の2回戦。そんなものより……

 タルクの心に不安の波が押し寄せてきた。


 この嫌な空気に満ち溢れた王宮……そんな場所にゴットフリーを一人で行かせて良かったのか。


 むっつりと黙り込んで、競技場へ歩き出すタルクの太い腕を、“ちょっと待って”と、ジャンが引き寄せた。


「その怪我じゃ戦えないだろ」


 ジャンは右の手をそっと、タルクの傷ついた肩口に当てると目を閉じる。すると、ぽうっと明るい蒼の光が浮かび上がってきた。

 深い傷が、痛みが、淡雪が溶けるように消えてゆく。タルクは、ジャンの力はとっくに理解しているつもりだった。それでも、実際に自分の体で体感する驚きは、口では到底言い表せるものではなかった。


「おーい、そこ、男同士で何をこそこそやってんだあ。逢引なら王宮の外でやれ」


 からかい半分に近くを通り過ぎた者が言う。


「僕とタルクが逢引? 気色の悪いこと言うなよっ!」

「逢引……」

「おぃ、タルク、しみじみとその言葉を繰り返すなよ」

「いや、そういえば」


 苦い表情でタルクは言った。


「王妃に誘われた。晩餐会の夜に待っていると」

「何ィ、お前を王妃が誘ったのか」


 ジャンは驚きを隠しきれない。そして、からかうような笑みを浮べた。


「お前の言う通り、その王妃、ちょっと普通じゃないかもな」


*  *



 王宮武芸大会、第2回戦。


“長剣のタルク VS 聖なる騎士、ホーリー・カイラス!”


「呪われた吸血女アイゼルネ・メイデンの次は、聖なる騎士か。なんか漫画みたいになってきたな」


 タルクは、面倒くさそうに長剣を背中から引き抜いた。こんな勝負はさっさと終えて、ゴットフリーを探しに行こう。賞金なんか、もうどうでもいい。


 覚悟しとけよ。この長剣で瞬殺にしてやるから!


 対戦相手を真っ向から睨みつけてみれば、ひょろりと細い体で、長いツバのある帽子から垣間見える肌は、青白く、武芸大会に出場するほどの猛者とは到底思えない。

だが、


「お久しぶりですね。タルク、元ガルフ島警護隊第1部隊、筆頭」


 優雅な仕草で帽子をとった姿に、タルクはぎょっと目を見開いた。


 「BW(ブルーウォーター)! お前、ここで何してるっ」


 風変わりな緑の髪が風にたなびいている。青白い肌は、不思議と不健康さはなく、端正な顔だちを更に引き立たせているように思えてくる。


「これでも、私はガルフ島警護隊長の参謀でしたからね。あなたが武芸大会に出ていると聞いて、お手並みを拝見しに来たんですよ」


(ホーリー)・カイラスなんて、偽名まで使いやがって!」

「いや、彼は……きっと、そのへんに寝転がっていますよ。ここへ出る直前に私に出場権を譲ってね」


 BWは多少、小馬鹿にしたような笑いを浮かべた。


「お前、もしかして黒馬島からついてきたのか。全く、俺らの廻りをいつも、うろちょろしやがって!」

「へえ、なんだか、あなたがゴットフリー隊長の右腕みたいな言いっぷりだ。それに見合った技量を今は身につけたということですか」


 BWの皮肉めいた言葉が、もともと悪かったタルクの虫の居所を更に悪化させた。


「そりゃ、戦ってみりゃ、わかることだろっ!」


ガルフ島にいた時もそうだったが、やっぱり……


 俺はこいつが大嫌いだ!

 

 タルクの長剣が唸りをあげた。

 その動きに合わせ、BWは高々と右手を差し上げる。すると、その指先からきらりと、光がほとばしった。光は長い帯となり、空中でしなりながら、形をととのえてゆく。


「相も変わらず、芸がない。ただ、長剣を振りまわすだけなんて」


 空に輝く一本の剣。長く鋭い切先。だが、それには色がなく、ほとんど肉厚のない刀身からは、透けて後ろの景色が見えるほどだ。


「なんだってBWがここに? それに、あの剣は何だ」


 ジャンの問いに答えたリュカの声が軽くはずむ。


「ウォーター・ソード! あれは、ダイヤの鉱石をも切裂く水の剣。レインボーヘブンの欠片”紺碧の海”……BWが作り出した最強の武器」


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