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アイアリス・レジェンド ~虹の女神と闇の王  作者: RIKO(リコ)
第三章 虚無の王宮 水晶の棺
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第16話 白蛇との死闘

「泳げるかって? あんな蛇だらけの溝に、入れるわけないじゃん!」


 ココがゴットフリーに猛抗議の声をあげた。


 迷宮の扉は深い溝の向こうにあった。溝の中には、白蛇が無数にうごめいている。

 ちょうどその時、ココが放った小ネズミの残骸がぽっかりと水面に浮かび上がってきた。溺れたのか、蛇に引きちぎられたのかはよく分からなかったが。


「よくも、こんなに沢山集めたものだ。ここの城主はよほど、蛇がお好きなようだな」


 この中に入ったとたんに、蛇の餌食か。迷宮の扉にさえ、まだ辿りついていないというのに……。


 考え込んでいるゴットフリーの前で、また、ココがごそごそとポケットをさぐりだした。


「これ使えないかな」

「……」


 銀色の機械。柄のような取っ手の先に二つの金属片が取り付けられている。


「えっとね、スタン……ガンっていうんだって、ビリッと電気で相手を痺れさせる機械で、小さくてもけっこう威力があるらしいよ」


「スタンガン? それは、スカーが作っていた新兵器ってやつか」


 前に、スカーがおかしなモノを作っているという噂を聞いたことはあったが、実物を見たのは初めてだった。ゴットフリーは、ココから、その機械を受け取ると興味深げに観察を始める。


「そういえば、電位差がどうのこうのと、あいつが自慢げに語していたのを聞いたことがあった」


 そして、水は電気をよく通す……とも言ってたな。


「そういうことなら、お前は後ろに下がっていろ。派手な感電ショーを見せてやるから」


 その機械のスイッチを入れて、バチバチと放電を確認すると、ゴットフリーはくくっと笑った。なかなか、おもしろい玩具を手に入れた。


 ぽいっとそれを溝に投げ込む。

 その瞬間、

 白い閃光が水面を走り、ココは思わず目を手で覆う。

 電流によって痙攣けいれんする白蛇の群れ。ゴットフリーは、魅せられたかのようにその姿を見つめている。


「ゴットフリー?」


 ココに袖を引っ張られても、彼は微動だにしない。


 変だ……まるで、心が抜け出たみたいに……

 どこか他の世界にいるみたいに……


「ゴットフリー、()()()()行っちゃ駄目! もどって来て!」


 なぜ、そんな台詞を言ってしまったのか、ココにもわからなかった。だが、

 はっと振り返ってきた灰色の瞳の中に映る自分の姿を見た時、ココはほっと胸をなでおろした。


*  *


 溝の中で折り重なりながら、浮かんでいる白蛇の群れ。再び、薄暗さが戻ってきた空間にゴットフリーの声が響き渡った。


「今のうちにこの溝を渡ってしまおう。白蛇の全部が死んだわけじゃない。気絶しているだけの奴が目をさます前に」


 先ほどのことなど、忘れたかのようにゴットフリーは、ざぶんと足から溝の中へ飛びこんだ。水深は1mほどだろうか。長身のゴットフリーなら十分に歩いて渡れる水量だ。だが、ココは……


「何をやってる? 早く来い」

「嫌……」

「お前、泳げないのか」

「そんなんじゃなくて……」

「なら、何だ」

「その蛇がうようよ浮いてる中に、入れるわけないじゃん!」


 大粒の涙が、一斉に瞳から流れ出た。何が何でも絶対嫌だ。一人で礼拝堂に引き返すとココはだだをこね出した。


「礼拝堂に戻ったところで、土牢送りは免れないぞ。多分、迷宮の出入口には近衛兵が配備されている」


 ゴットフリーは頑として動こうとしないココを見て、ため息をついた。


「わかった。俺の背中に乗れ。それならいいんだろう」

「え、それって……あんたが背負ってくれるってこと」


 ガルフ島では、残酷無比な警護隊長と名を馳せていたゴットフリーだ。そんなことをさせて、ただで済むのだろうか。ココは迷った。


「いいからっ、さっさとしろっ!」


 怒鳴られると、凄く怖い。ココは目にもとまらぬ早さで、ゴットフリーの言葉に従った。

 憮然として溝を渡るゴットフリーだったが、さすがに半目開きに浮かんでいる白蛇の間を進んでゆくのは、気持ちのいいものではなかった。


 この蛇の目……礼拝堂に行く前に見た、王妃の肖像画の目と似ている。


 何かが心に引っかかる。すっきりしない気持ちのまま、扉がある岩壁の場所にココをおろした時、


「あ、あれ、あれっ!」


 引きつったココの表情は、もはや“気持ち悪い”を通り過ぎ、恐怖の色を帯びていた。


 溝に浮かんでいた白蛇たちが、天井に吊り上げられるように集結しはじめたのだ。それらは絡み合いながら、巨大な縄を編むように上へ上へと昇ってゆく。


 それは、鎌首をもたげ、紅い舌を吐き出した……大縄……否


 白い大蛇おろち


 ぎろりと、大蛇の瞳が紅く光った。


「お前は、隠れてろっ!」


ゴットフリーがココに向かって叫んだ瞬間、それは巨大な鎌首を振り下ろしてきた。


闇馬刀やみばとうっ!


 ゴットフリーの手の中で黒い光が炸裂した。襲ってきた白い胴体を、刃の影が高速で横切る。天地を裂くような呻きが迷宮に響き渡った。そして、溝の中の水はみるみるうちに血の色に染まっていった。

 ゴットフリーは、その血の中に体の半分を浸しながら、素早く黒剣の切先を白い大蛇に向けた。


 ちっ、急所をはずしたか。


 相当なダメージを与えたのは確かなのだ、だが、大蛇はまわりの白蛇の体をとりこみながら、傷を癒し、また再生しはじめた。


 ココはがたがたと震えながら、目前の戦いを見つめていた。それにしても……

 ゴットフリーの黒剣……さっきのレイピアじゃない剣。黒い光と共に現れた……。こんな切羽詰った場面にもかかわらず、ココはそれに魅せられていた。


*  *


 次に奴が襲ってきたら、一刀両断に切り殺す

  ゴットフリーは、その瞬間を待っていた。


  目の位置で真一文字に、闇馬刀を構え、間合いを数える。


  だが、


 シャアアアッ!!


 大蛇が呻き声とともに鎌首を振り落としてきた時、


「何っ、足が、動かないっ!」


 溝に残った白蛇が、ゴットフリーの足に絡み付いてきたのだ。バランスを失い溝の中へ倒れこむ。血染めの水飛沫が飛び散った瞬間、してやったりと、白い大蛇が彼に襲いかかってきた。


「だめっ! その人を傷つけるなんて、絶対、許さないっ!」


 レイピア  ― 王女リリーでさえも目を見張った至極の宝剣 ―

 

 夢中だった。ココは、ゴットフリーの腰の鞘から引きぬくと、その剣を思い切り強く白い大蛇の額に刺きたてた。


 優雅な姿とは裏腹に、レイピアの刃は烈風のように鋭い。


 ギャヤヤアアアアア!!


 轟音のような叫びが当たりにこだまする。

 痛みにのた打ち回り、ココを恨みの眼で睨めつける。そして、白い大蛇は口角を全開に広げ、紅い牙をココに向かって剥き出してきた。



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