6th Stage
東京の空が徐々に明るくなる中、俺たち3人は住処であるマンションに向かって歩き続けている。
深夜のラジオ番組の生放送が始まってから、火曜の深夜(実際には水曜の早朝のほうが辻褄が合いそうだが)は番組終了後に行きつけの居酒屋へ寄って反省会という名の飲み会をするのがお馴染みとなっている。
飲み会といっても酩酊するような飲み方はしていないけど、体内にアルコールが残っているのは身体の平衡感覚が鈍っていることを俺たちも認識している。
「暑いなあ」
「夏だからしょうがないと言ったらしょうがないけど」
梅雨明けしたこともあってか、朝早い時間にもかかわらず汗がにじむほどの暑さだ。これでアルコールが抜けて動きがスムーズになればいいのだが……。
そうするうちに、本拠であるマンションの一室に俺たちは戻ってきた。室内に入った俺たち3人の周りには、汗と体臭が交じり合ったのが充満していることが分かる。
「汚れたのは洗濯機! それから順番にシャワーで汗を流そうか」
このマンションは、俺たちが生活をともにするホームグラウンドだ。それ故に、家事の分担は基本的に3人がローテーションで回している。
芸人として売れているのだから、俺たちがそれぞれの住処で暮らしてもいいはずだ。そうしないのは、一つ屋根の下で生活するという安心感があるからに他ならない。
全員のシャワーを終えると、俺は洗濯機を回してから他の2人が横になっているテーブルの周りに座った。すぐにスマホを取り出すと、仕事のスケジュールとマネージャーからのメールに目を通すのが朝の日課となっている。
テレビやラジオ、インターネットといった媒体への番組出演、お笑いライブやイベントの出演等、俺たちトリオとしての仕事は順調そのものだ。しかし、その仕事がこれからもずっと続くとは限らない。
洗濯物を干し終わると、俺は自らが思いついたアイデアを居間にいる青田と黄島の2人に伝えることにした。
「なあ、俺たちでCeroTubeチャンネルを立ち上げようか?」
あまりの唐突の出来事に、他の2人は驚きを隠すことができない。なぜなら、お笑い芸人でCeroTubeチャンネルを持っているのはごく一部に限られているからだ。
「人気CeroTuber(セロチューバ―)と同じ土俵で勝負すると言っても……」
黄島は、お笑い芸人で前例が少ない新機軸への不安もあって二の足を踏んでいる。対照的に、青田はCeroTubeチャンネルで何がしたいのか青写真を描いているようだ。
「まずは、テレビで放送が難しい長尺のコントやきわどい内容のコントとか。僕らはコント師なんだし」
「放送時間の都合もあるし、コンプライアンスが年々厳しくなっているからなあ」
話がかみ合うと、俺と青田は色々なアイデアが次々と飛び出してきた。俺たちが発信するチャンネルとあって、コントという大きな柱の他にオリジナルの企画をどうするかを2人で話し合っている。
この様子に、最初は気乗りしなかった黄島も会話の輪に入ってきた。
「ラジオ番組終了後に居酒屋で行う反省会を配信するとか」
「まあ、反省会と言う名の飲み会だけど」
「まずは、居酒屋の主人から動画撮影の許可を取ることが前提かな」
「無許可で撮影するチキンレースみたいなことをしたら、ネット上で炎上は必至だからなあ」
自発的に動く新しいプロジェクトなので、少なくともマネージャーから協力を得ることができれば実現へ大きな一歩となるはずだ。