3rd Stage
その翌日、一晩泊まった風野は俺たちと玄関で別れるとすぐに帰宅の途についた。入れ替わりでやってきたのは、俺たちを担当する女性マネージャーだ。彼女は、シンゴーキが『コントグランプリ』の決勝出場からしばらくして担当するようになった。
マネージャーは、俺たち3人を連れて『昼バラライブ』の食リポ(グルメリポートのこと)ロケの出発地となるテレビ局へ向かった。車中では、昨日の新聞を開く俺の姿があった。
「わざわざ新聞を持ってきてどうするんだ」
「なあ、スマホでも新聞のニュースが読めるんだから」
他の2人がスマホで情報をチェックする間も、俺は新聞の紙面を隅から隅まで目を通すのに余念がない。
ちなみに、スマホは俺も持っているし、決してアナログ人間と言う訳ではない。デジタルの神器たるスマホでも、アナログの神器たる新聞でも情報を収集するハイブリッドな人間でありたいと俺は思っている。
テレビ局の駐車場へ到着すると、俺たちとマネージャーはそろってロケ地へ向かうバスに乗り込んだ。そこで、俺たち3人はひそひそと小声で他の人に気づかれないように話をし始めた。
「さっきの新聞にこういうのが載っていたけど……」
「例の下着泥棒のことか」
以前から頻発していた都内での女性用下着の盗難の件が、スポーツ紙だけでなく全国紙の紙面にも掲載された事実を青田と黄島は俺がとり出した記事を見て初めて知った。
「そういえば、風野がこの新聞を昨晩目を通していたなあ」
「まさか、下着泥棒の犯人がってことか?」
「俺は、風野が犯人とは一切言っていないぞ。まあ、風野は新聞を読んでいるイメージなどあまりないけどね」
いくら風野が新聞を読んでいようとも、必ずしも問題となる記事の存在に気づいていると断定することはできない。それでも、俺たちは風野のことがどうしても気になってしまう。
「それなら、明後日に風野との配信番組の収録があるからその時に聞いてみるよ」
「番組で共演するぐらいだし、馬が合うなら……」
「だから、風野と馬が合うというわけではないから!」
こうして、俺たち3人はロケ地へ向かう中でスタッフに気づかれないようにひそひそと話をつづけたのだった。