Last Stage
新しい年号の初年度が終わりを告げる間際、俺たち3人は年明け後の深夜に生放送される大喜利バラエティー番組『Oh! GIRI 2020』に出演するべく都内のスタジオへやってきた。年明けの深夜に放送されるこの番組に呼ばれるのも4回目とあって、俺たちは番組の常連として他のお笑い芸人からも一目置かれる存在だ。
控室では、俺たち3人が揃ってテレビでの年越しカウントダウンの様子をじっと見ている。テレビ画面のほうには、新しい年を迎えて『Happy New Year 2020』の文字がデカデカと映し出された。
「あけましておめでとう」
「2020年こそは平穏で行きたいものですね」
3人で交わした新年挨拶には、前の年があまりにも激動だった故の本音が露見することになった。風野が行った裏切り行為は、今でも俺たちの脳裏にそのまま残っている。
それでも、俺たちシンゴーキの進むべき道はおのずと分かるはずだ。お笑い界を生き残るためには受け身ではなく、CeroTubeのシンゴーキチャンネルを通して自分たちをアピールすることを……。
そう考えているうちに、控室のドアをノックする音がしたので俺はすぐに出ることにした。ドアを開けてみると、そこには3人組の女性コントトリオ『サンニンビンゴ』の姿があった。
「シンゴーキの皆さん、あけましておめでとう」
「こちらこそ、今年もよろしくお願いします」
年末のお笑いコンテストで王者になったばかりの彼女たちだが、これに驕ることなく謙虚な姿勢を見せるところは俺たちにも十分に伝わっている。
「大喜利は、回答する時のひらめきが大事だぞ」
「初めての出演ですので、お手柔らかにしていただければ」
彼女たちの表情を見ると、俺たちがコントグランプリで注目を集めた時のことを思い出した。これまでの生活が一変する中で、俺たちシンゴーキの3人はコント師だということを決して忘れることなく必死に食らいついてきた。
「風野も、あんな犯罪に手を出していなかったら……」
「売れない時の副業だったら、他にもたくさんあるだろうに」
過ちは誰でもあり得る話だし、俺たちも過ちをしてしまったことは少なくない。だが、過ちを通り越して犯罪に手を出したのなら話は別だ。
そうするうちに、先程こちらへ挨拶にきたサンニンビンゴはもうスタジオのほうへ行ったようだ。
「もうすぐしたら生放送が始まるぞ」
「そろそろ控室から出ないといけないな」
俺たちは芸人たちとの新たな繋がりを肌で感じながら、生放送の本番が間近に控えるスタジオへ向かおうと足を進めている。




