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29th Stage

 俺が耳にした『事情聴取』の4文字は、風野が警察沙汰にならなかったら考えられない事柄だ。ここで、さらに聞きたいことがあったので俺は再び口を開いた。


「もしかして、あれのことか?」

「う~ん……」


 風野は、俺が聞き出そうとする事柄に気づいたのかすぐに黙り込んでしまった。おそらく、風野が恐れているのは自宅で警察と顔を合わせることだろう。


 そうなれば、今まで行ってきたことが全て暴露されてもおかしくはない。風野が引退宣言して自ら身を引くのは、これまでの事柄が立件されるのがゼロではないからだ。


「なあ、本当のことを言ってくれないかな」


 俺は相手を諭すために何度も話そうとしたが、風野は相変わらず黙り込んだまま口を開かない。壁掛けの時計は時間が過ぎていくばかりだ。


「このままここで泊らないといけないのか」


 夜10時を回った頃、風野がソファから立ち上がると鍵の掛かったドアのほうへ向かおうとしていた。これを見て、俺は風野の行き先が気になったのですぐ声を掛けた。


「風野、これからどこへ行くのか」

「やっぱり、自分の住処へ戻ることにするよ」


 風野の意外な言葉に、俺は思わず拍子抜けしてしまった。なぜなら、犯罪が露見された場合には警察から逃げようと考えることが多いからだ。


「そうか。もう一度聞くけど、事情聴取で何を聞かれたのか」


 再び口にした俺の言葉に、風野は深呼吸をしながら気持ちを落ち着かせようとしていた。そして、風野は俺に返答しようと自分の声で伝えることにした。


「やっぱり、ここで話すことはできない……」

「どうして話せないのか」

「赤井さんの前であっても話すことはできないよ」


 その言葉に、俺はこれ以上風野を説得することができないと感じるようになった。ドアの鍵を開けると、風野は別れを告げようと俺にこの言葉をかけた。


「赤井さん、今までありがとう」


 風野は、ネットカフェを出ると夜の暗闇の中へ消えるように去って行った。真夜中の月に照らされながら、俺はスマホを取り出して時刻を確認しながらこれまでのことを思い起こした。


 闇に包まれた都市の風景は、風野の行く末を暗示しているのだろうか。それを知る機会は、画面越しという形で意外に早くやってきた。




 週明けを迎えた月曜日、俺たちシンゴーキは年末特番の収録でテレビ局へやってきた。その特番は、人気お笑いタレントが司会を担当する深夜のバラエティ番組で、シンゴーキを含めたお笑い芸人が多数出演するというものだ。


 俺たち3人は、マネージャーとともに控室へ入ると収録開始まで待つことにした。その間、俺はニュースをチェックしようとスマホの画面を開いた。


 その画面には、風野が逮捕されたという速報ニュースが流れていた。


《お笑いコンビ『笑ジャック』風野秀一容疑者逮捕 女性下着窃盗で》


 具体的な内容までは触れていないけど、次のような見出しでどういう内容かは察しがつきそうだ。控室からスタジオへ向かうと、他の芸人たちが風野の事件のことをひそひそと話している様子をすぐに感じ取った。

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