27th Stage
それから3日後、いよいよ笑ジャックのコントライブが開催される当日がやってきた。『笑のGENTEN』と銘打ったそのコントライブは、吉祥寺駅から歩いてすぐの小劇場ホールで行われる。
ホールの約300席は満席とあって、控室にいる笑ジャックの2人はホッとしている様子だ。笑ジャックが単独でライブを行うのは2年ぶりだが、昔のようにチケットがすぐ売り切れることはほとんどなくなった。
「しばらくライブをやっていないから、コンビのことを忘れているのかも……」
野村が発したその言葉は、現在のコンビ間格差を暗に示していると言えよう。コンビ名に頼らなくても個性派俳優として注目を集める野村に対して、風野のほうは単独のレギュラー番組すらなく苦境に陥っているのが実情だ。
『笑のGENTEN』というサブタイトルは、対照的な状況の2人がお笑いの原点を見つめ直そうという決意を込めている。それなら、俺をスペシャルゲストとして呼ばなくてもやっていけるばずだが……。
舞台のほうでは、笑ジャックのコントが客席からの拍手に合わせるように始まった。女子高生に扮したコントや隣人同士のコントなど、俺たちがDVDで目にした名作コントが舞台上に登場するのを実際に見るのはとても新鮮だ。
けれども、笑ジャックのコントを見るうちに俺はあることに気づいた。
「風野の動き、何となくぎこちない感じがするなあ……」
観客席からはコントが面白くて笑っている人が多いが、ごくたまに失笑と思われる笑い声が漏れるのがこちらでも耳にしてしまう。まあ、第三者からの指摘が笑ジャックに伝わるかどうかは別問題だが……。
コントライブの中盤に差し掛かると、スペシャルゲストとして俺が登場するトークコーナーが始まった。3席が置かれたパイプ椅子の右側の椅子に座ると、笑ジャックとの関係やシンゴーキチャンネルの同居企画についての裏話について笑いを交えながら話し始めた。
当然のことながら、この前に坂塚や赤沢と話したことをこの場では一切触れないようにしている。そうした中、中盤のお笑いトークが終わると再び笑ジャックによるコントが始まった。
「おいおい! そこで言葉が詰まったらダメだろ!」
舞台の陰では、俺が笑ジャックによるコントの動きやセリフをチェックしている。すると、自然な動きの野村に対して、風野は動きもセリフもぎこちないのが俺の目から見ても明白だ。
同じコント師だからこそ、風野へどうしても苦言を呈してしまうのは俺だけだろうか。
やがて、笑ジャックによるコントライブは満員の客席からの拍手を受けながらフィナーレを迎えることになった。風野と野村は舞台から降りると、ゲストの俺とともに控室へ戻ることにした。
笑ジャックの2人は、久しぶりの単独ライブを終えてホッと一息をついている。ホールの観客の前で行う単独ライブは、テレビやネット配信では味わえない舞台ならではの魅力を持っていると言えよう。
すると、風野の口からある言葉が飛び出した。これを聞いた瞬間、俺と野村は戸惑いながら風野のほうへ顔を向けた。
「実は、この単独ライブを最後に芸人を引退することに……」




