26th Stage
初冬に入って、街中ではクリスマスのイルミネーションがあちこちで見かけるようになった。寒さが厳しくなる中、イルミネーションは夜中の星空と相まって人々の目を引きつけている。
この間も、俺たち3人はテレビ番組やイベントなどの出演で多忙を極めていた。お笑い芸人にとって、クリスマスから年末年始にかけては一番の稼ぎ時といってもいい時期だ。
「収録なのは分かるけど、目の前に正月を彩る派手なのを見ると……」
青田が口にしているように、この時期は年末年始に放送される長時間番組の収録が数多く行われる。それ故に、俺たちを含めた出演タレントの面々は時節のずれを感じてしまうことが多い。
もちろん、年明け早々の芸人たちによる大喜利バラエティー番組や、元日恒例の『お笑いカーニバル』などのように生放送の大型番組もあるが、これらはあくまで例外中の例外だ。
番組収録を終えると、俺たちは住処となっているマンションへ女性マネージャーとともに戻ってきた。マネージャーから明日の予定を確認すると、正月番組で披露するコントのネタ合わせを行うために他のメンバーへ台本を手渡した。
「応援団のコントだから、三三七拍子をする時の手の動きをスムーズにできるように練習しようかな」
ここはマンションの一室なので、他の住民へ迷惑をかけるようなことをしてはいけない。なので、三三七拍子の練習は『ピッ、ピッ、ピッ!』と口で音を出しながら3人揃って行なっている。
反復練習は単調で退屈になりがちだが、動きと言葉のギャップがコントで大事になってくる。基本的な動きを身につけた上で、個々で他と違う動きをしたり、発声に合わせてギャグを言ったりしながら作り上げるのがコント師の流儀だ。
ネタ合わせを終えると、シンゴーキチャンネルでの最新動画配信を行ってから自分の仕事をしようとノートパソコンを開いた。これは、笑ジャックが久々にコンビで出演するお笑いライブに俺がゲスト出演するというものだ。
俺が出演するのは、笑ジャックのコントの合間に挟まれたお笑いトークと大喜利コーナーだ。きっちりと作り上げるコントと違って、トークがメインのコーナーは観客の笑いを誘う面白いことを瞬時に言えるかどうかが重要な鍵となる。
「あと3日か……」
後ろを振り向くと、壁がけのカレンダーが掛けられている。笑ジャックのコントライブへのゲスト出演は12月14日だ。
まさか、コントライブ終了後に唐突な一言をその場で耳にするとはこの時には思っていなかったけど……。




