25th Stage
新番組の企画案がうまくいったこともあり、俺の相方に対するモヤモヤはすっかり消え去った。無論、今日ここへきた目的はそれだけではない。
「早速だけど、こちらを見てくれないかな」
坂塚は、芸人Kの記事が載った『実話KQナイト』の最新号を赤沢に手渡した。その記事には、赤沢が放送作家の立場で行ったコメントも記されている。
すると、赤沢はオフレコと断った上で自らの口から今回の記事に関して言葉を発した。
「端的に言うと、芸人Kは風野秀一で間違いないなあ」
「えっ?」
俺たちは、あっさりと芸人Kの正体を赤沢が口にしたことに驚きを隠せない。それでも、赤沢が自信ありげに言うことができるのは何か理由があるはずだ。
「まあ、赤沢さんは『実話KQナイト』でコラムを持っているからなあ。記事の内容にもいくつか関わっているみたいだし」
この雑誌に限らず、実話誌とよばれるものは出版社から編集プロダクションに委託されることが多い。その過程で、放送作家が雑誌の連載コラムやライターとして依頼されることが少なくない。
「ところで、この写真のことだけど……」
俺が赤沢に指し示したのは、芸人Kが女性用下着を盗もうとする実話誌の記事に掲載された写真である。ここで、赤沢は再び俺の前で口を開いた。
「これねえ、どうやって撮影したのか知りたいのでしょ」
「ま、まあ……」
犯人に気づかれることなく現場を撮影できるのは、いくつかの要素が合わさったわずかな瞬間に限られる。赤沢は、荷物が入ったカバンの中から折り畳み式の三脚を出した。
「動画配信でカメラを固定させるときに使っているけど」
「これは、今回の写真撮影で使った自撮り棒ってやつだ。自分で持って撮影することができるだけでなく、三脚で固定して撮影することもできるものだ」
「この写真もそれで撮ったのか」
「自撮り棒にスマホを固定させてから、タイミングを見計らった上で撮影する。もちろん、相手に気づかれないようにな」
赤沢は、俺とコンビを組んでいた時に盗聴器の調査員のアルバイトを行っていたが、コンビ解散後にはその経歴を生かして探偵調査員の仕事も経験している。こうした経験が、決定的瞬間を捉えた写真の撮りかたにも生かされていると言えよう。
これで、下着窃盗の犯人が風野ということは間違いないだろう。だが、風野が犯人ということを確実にするにはもう1つ証拠が欲しいところだ。
「なあ、もう1つ聞いてもいいかな」
「何が聞きたいのか?」
「これは、風野のワンボックスカーについていたナンバープレートだけど」
俺は、自分のネタノートに記したナンバープレートの番号を赤沢に見せた。赤沢は、ノートパソコンに保存しているファイルをクリックして出てきた軽自動車の写真を拡大しながら見ている。その軽自動車は、風野が持っている軽のワンボックスカーとそっくりだ。
「なるほどなあ……」
赤沢は、写真のナンバープレートを覗くように見ながらつぶやいている。それは、まるでジグソーパズルの最後のピースを入れる瞬間のようなものだ。




