24th Stage
数日後、俺たちシンゴーキはレギュラー番組の収録を終えると3人揃って配信専用スタジオから出てきた。スタッフと簡単な反省会を行うと、青田と黄島は夕方から番組収録が入っているのですぐに1階の出口へ向かっていた。
俺は、2人の姿が見えなくなるのを見計らうように放送作家の坂塚が運転する車へ乗り込むことにした。これから向かう先は、坂塚自らが所属する放送作家の大手事務所『シャイン・ライズアップ』だ。
「どうしたんだ? 浮かない顔をしているけど」
「別に……」
車内では、運転席の坂塚と助手席の俺で対照的な面持ちを見せている。それは、これから事務所で顔を合わせる相手に対する自分の立ち位置を表していると言えよう。
同じ番組で構成作家として参加する坂塚と、かつての相方なのに自ら足を遠ざけている俺とでは相手への印象が異なってしまうのも無理はない。
「互いの進む道を尊重したはずなのだが……」
シンゴーキでお笑い界の地位を固めつつある中で、かつて『アカズクロス』でコンビを組んだ赤沢とは疎遠の状態が続いている。
そうするうちに、坂塚が運転する車は『シャイン・ライズアップ』が入るビルの地下駐車場へ到着した。ビルの内部へ入った俺たちは、エレベーターに乗って3階へ向かった。
エレベーターから出て事務所のドアを開けると、清潔感あふれる空間で働く社員たちの姿がいることに気づいた。坂塚は、担当者の男性社員にここへきた目的を伝えようとその場で口を開いた。
「赤沢彰吾さんと4階の小会議室で待ち合わせの予約をしましたけど」
「分かりました。エレベーターから出てすぐのところにありますので」
赤沢がいることの確認を取ると、俺と坂塚は再びエレベーターで4階のほうへ向かった。そこから数十歩進むと、小会議室と書かれたサインプレートが目に入った。
「失礼します」
「坂塚さんですね。さっそく中のほうへどうぞ」
室内から聞こえた声は、俺がコンビを組んでいた相方の声とほぼそっくりだ。手慣れた様子で中へ入る坂塚に続いて、俺も後からついて行くように入室することにした。
その瞬間、俺は小会議室の向かい側にいる赤沢と直接顔を合わせることになった。コンビを解散してから10年以上になるが、久しぶりに会う相方の顔つきは当時とほとんど変わっていない。
「おっ! 赤井、久しぶりだなあ」
「ど、どうも……」
「そんなに緊張して、赤井らしくないぞ」
最初は緊張していた俺だったが、赤沢からの言葉を受け止めるとすぐにテーブルに向かい合うように椅子へ座った。俺は、隣の席にいる坂塚へ耳元で囁くように話しかけた。
「ここへきたのは、例の件についてですよね?」
「それももちろんだが、その前に新番組の企画があるので……」
赤沢が出してきた企画は、来年春からスタートするFMラジオの新番組に関するものだ。ノートパソコンを開いて、赤沢から送付されたファイルから番組の企画案をクリックすると次のような内容が出てきた。
《土曜夕方のMusic Program『Singo’s Music Chair Room』》
《全国ネットで2020年4月スタート 土曜夕方4時~4時55分》
《シンゴーキの赤井しんごが音楽番組のDJに挑戦! 洋楽・邦楽を問わずに週末夕方のリラックスタイムにふさわしい音楽をリスナーとともに》
《ある時はゲストとの楽しいトーク、またある時は赤井しんごによる1人語り》
これまでのトーク中心のラジオ番組とは毛色の異なる内容に、俺はその企画書を一字一句違わずに読み返した。こうして、赤沢の企画案は3人の間で検討しながら微修正することになった。
その案とは、放送作家として参加する赤沢が、番組のオープニングやエンディング、そしてゲストが登場しない回に出演するという内容だ。
「DJと放送作家の組み合わせなら、番組内限定でコンビが復活と注目度も高くなりますね。これでいきましょうよ!」
これに乗り気の俺は、自らも関わった新番組の案で行くことになった。レギュラー開始は来年の春からとなるが、これまでとは違うスタイルの番組へ自信を持って挑戦できる番組になりそうだ。




