22nd Stage
実話誌の本文をのぞくと、そこにはコーポらしき建物の中で黒ずくめの男が自ら犯行を行う写真が掲載されていた。その写真には、1階の物干しに掛けたまとめ干しハンガーにある下着をその男が手でつかんでいることが分かる。
「おいおい、これって……」
本文には、その写真に写っている男こそが芸人Kだと断じている。俺が気になったのは、決定的瞬間を捉えた写真の撮影方法だ。
「相手に気づかれないように撮影するには、相当な技量が必要になるだろうな」
「赤井さん、どうしてそんなことが分かるのか?」
「探偵ごっこしているわけではないけど……」
週刊誌では、渦中の人がホテルなどから出てくるところを撮影した写真が載ることが少なくない。だが、実際の犯行現場を捉えた写真を雑誌で見たことはこれまで一度も見たことがない。監視カメラに映る犯行現場なら、テレビのニュース番組やリアリティ番組で見たことがあるけど……。
「多分俺の推測になるけど、ベテランのカメラマンであってもこうした写真を撮ることは厳しいと思う。探偵とかが撮ったのならまた別だろうけど」
俺は、実話誌の記事を目で追いながら坂塚への話を続けた。
「単独犯にしろ、複数犯にしろ、車なしでこういった犯罪行為を行うのは困難だと思う。それと、車の駐車位置にも一定のパターンがあるかと」
「駐車する位置か?」
「こういったコーポやアパートには駐車場があるけど、使うことができるのは原則として入居者だけだ。そうなると、車が置ける場所はおのずと限られてくる」
すると、俺の話を聞いていた坂塚がある疑問をぶつけた。それは、コーポへの侵入方法と犯行の痕跡を可能な限り残さずにできるかという点だ。
「この写真を見る限りの考察になるが、計画的な犯行を行うなら自らの痕跡を残さないことも可能だろう。ただし、侵入の痕跡を完全に残さないことはできないのでは」
「それって、どういうことなんだ?」
「こういった場所には、基本的にブロック塀をよじ登って侵入するしか他はない。けれども、どんなに慎重に慎重を重ねても必ずボロが出てしまうものだ」
坂塚の前で話す俺の姿は、いつものお笑い芸人とは違う別の人格を演じているように見える。なぜなら、風野に関する例の件と雑誌に載った記事の事柄がイコールに近いからだ。
この写真が載った記事には、Kについて次のように書かれている。
「このKは、お笑いコンビSのツッコミ担当で『コントグランプリ』王者なんですよ。順調にキャリアを重ねてきた彼がなぜこんなことを……」
仮にKが風野だったとしたら、それこそ相方の野村に対する裏切り行為と強く糾弾されるのは間違いないだろう。俺は、ドローンカメラで自ら収録した風野の『下着部屋』をプリントアウトしたのをテーブル向かいの坂塚へ差し出した。




